愛猫日記 スイートピー
雛祭りの朝に旅立った彼に
彼のしなやかな毛並みに似た色のスイートピーを選びました
※ 最期の姿もあります 苦手な方はどうぞ頁を閉じて下さい
忘れがたない、虹と花
忘れがたない、虹と花
虹と花、虹と花
どこにまぎれてゆくのやら
どこにまぎれてゆくのやら
(そんなこと、考へるの馬鹿)
その手、その脣、その唇の、
いつかは、消えてゆくでせう
(霙とおんなじことですよ)
中原中也 「 別離 」 (一部)
*
大雪の中の冒険から戻って一週間
順調に回復しているかに見えたのですが
体重も半分に減って体力も限界であったのか
2日ほど前から食べられなくなり
これまでは効果を上げた治療も効き目なく
体温も下がったままで 体全体の機能も低下していったようです
昨夜にはじっとうずくまったままとなり
時折 トイレにでも行きたいのか
立ち上がろうとするも コトンと倒れてしまいます
「 心臓はまだしっかり脈打っていますから、明日の朝一番でもう一度連れてきて下さい 」
そう言われて迎えた雛祭りの日の朝
おしっこを少し漏らしてしまいましたが 夜明けまでしっかりと命を繋ぎました
もうしばらくしたら病院も開くから・・・
しかし そんな支度を始めようかという矢先
小さくおなかを波打たせていた呼吸が静かに止まりました
13歳と200日余り
13年と幾日か
故郷の両親に次いで 最も長くそばにいてくれました
うれしい時も 悲しみの時も
信じられるものは他に何もないと思ったあの時も
慰め 励ましてくれました
物言わぬ彼に もっと何かして欲しかったのではないか
してあげられたのではないかと思ったりもしますが
今はまだぼんやりとするばかりです
結果的には命を縮めるひとつの理由となった雪ではありますが
今 思い出す記憶のひとつもまた 何年か前の雪の日のことです
彼もまだ年若く好奇心旺盛に走り回っていた頃
私はともに暮らしていた人と別れて
ひとりと一疋の生活を始めることとなりました
新居はそれまでの暮らしで増えた荷物を収めるには小さ過ぎましたが
ただ 少なからぬ記憶をまとったものを振り分け処分するには まだ気力にも乏しく
取り敢えず そのままの状態で 無理矢理押し込めることとなった引っ越し作業は
予想以上に手間取って 空のトラックが出て行ったのは夜の11時を過ぎた頃でした
玄関からテーブルの上まで開梱する余地も無く
積み上げられたダンボールは天井近くまでうず高く
そして外は 3月だと言うのに昼間の雨がみぞれ そして雪に変わりました
冷え切った部屋に 移設したはずのエアコンは壊れており
冬物を詰めた箱も見当たらない
慣れない部屋の壁を眺めては
世の中の不幸が自分にばかり降りかかっているような気になりました
気が重いまま 身動きも取れない部屋のダンボールを少しずつ動かして
ようやくベッドの上に 僅かな四角の空間を拵えました
いい加減疲れ果てて もう今夜は眠ろうと思ったその時
そのベッドの上でじっとしていた猫が 大量の 本当に大量のおしっこをしました
びしょ濡れの布団に もぐり込むこともできなくなって 私は感情に任せて猫を叱りつけました
けれども 猫は逃げることも無く ただじっとして
やはり慣れない部屋のせいなのか どこか不安げにこちらを眺めていました
思えばその数日間
引っ越しだ電話工事だと見知らぬ人間が多数出入りして
もともと臆病な彼は私にすら寄りつかなくなって おしっこもできないでいたのでした
誰もいなくなって ようやくほっとして・・・
愚かな私は その段になって そのことに気が付きました
「 ごめんな 」 と猫に謝ったら
なんだか自分も 一気に感情の堰が切れてしまったようで
やたらと泣けて仕方なかったのを覚えています
どうも余計な話もしてしまった気もしますが
どうぞお許し下さい
スイートピーの花言葉は
「 優美 」 「 繊細 」
臆病で人見知り 誰にでもは懐かない
「 キレイだけど 性格ワルいんじゃない ? 」
なんて言われることもままあった彼には似合っているかな
爪を立て 赤い舌を出して 歯を剥いて
威嚇したその姿を・・・
もう二度と 見ることは叶わないなんて 淋しいなあ
脱走した朝の雪
寝子往く夜 薄皮剥いて 夏みかん 青猫
*
取り留めも無く・・・お許しください