ロンサム・ジョージ

ダーウィンの進化論 ガラパゴス諸島のピンタ島に
ガラパゴスゾウガメの 最後の生き残りとして
百年余を生きてきた
ロンサム・ジョージ ひとりぼっちのジョージが 6月24日に死んだ
20世紀に入り 絶滅したと思われていた ガラパゴスゾウガメ
60年振りに ジョージが発見されたのは 1971年のことだった
およそ それから
半世紀に近い時間を この世の中に たったひとりで 生きつづけた
これでまた ひとつの種が この星から消えた
おやすみ George
*
水があって 空気があって
飢えを満たす 食糧があって
森があって 川があって 海があって
けれど
たったひとり 残された自分のほか
誰の囁きも 笑い声も 足音すら 聴こえない世界
その時 私は 何を思い 感じるのだろう
人々が滅び去った 後の世界は
もしかすると 静寂と清浄の世界かも知れない
けれど
たったひとり
最後に残されて 眺める景色は
どれほどの 美しさ 悲しみ 孤独の深さを
湛えていなければ ならないのであろうか
* * *
或る日君は僕を見て嗤ふだらう、
あんまり蒼い顔してゐるとて、
十一月の風に吹かれてゐる、無花果の葉かなんかのやうだ、
棄てられた犬のやうだとて。
まことにそれはそのやうであり、
犬よりもみじめであるかも知れぬのであり
僕自身時折はそのやうに思つて
僕自身悲しんだことかも知れない
それなのに君はまた思ひ出すだらう
僕のゐない時、僕のもう地上にゐない日に、
あいつあの時あの道のあの箇所で
蒼い顔して、無花果の葉のやうに風に吹かれて、――冷たい午後だつた――
しよんぼりとして、犬のやうに捨てられてゐたと。
猫が鳴いてゐた、みんなが寝静まると、
隣りの空地で、そこの暗がりで、
まことに緊密でゆつたりと細い声で、
ゆつたりと細い声で闇の中で鳴いてゐた。
あのやうにゆつたりと今宵一夜を
鳴いて明さうといふのであれば
さぞや緊密な心を抱いて
猫は生存してゐるのであらう……
あのやうに悲しげに憧れに充ちて
今宵ああして鳴いてゐるのであれば
なんだか私の生きてゐるといふことも
まんざら無意味ではなささうに思へる……
猫は空地の雑草の陰で、
多分は石ころを足に感じ
その冷たさを足に感じ、
霧の降る夜を鳴いてゐた――
君のそのパイプの、
汚れ方だの焦げ方だの、
僕はいやほどよく知つてるが、
気味の悪い程鮮明に、僕はそいつを知つてるのだが……
今宵ランプはポトホト燻り
君と僕との影は床に
或ひは壁にぼんやりと落ち、
遠い電車の音は聞こえる
君のそのパイプの、
汚れ方だの焦げ方だの、
僕は実によく知つてるが、
それが永劫の時間の中では、どういふことになるのかねえ?――
今宵私の命はかゞり
君と僕との命はかゞり、
僕等の命も煙草のやうに
どんどん燃えてゆくとしきや思へない
( 中原中也 「曇つた秋」一部抜粋 )