遊印
昔から 習い事には 縁遠いのですが
唯一 続けていたのが 書道
動機は不純
進学熱の高い地域に暮らしていた 小学生時代
このままでは 塾に行かされてしまう と
母親との 取引に使ったのが きっかけ
毎週土曜日の午後 玄関先に大きな木のある 教室に通っていた
リンゴの木箱をひっくり返した 粗末な机
先生は とても穏やかで おじいちゃん といった風で
それをいいことに 皆 乱暴な口を聞いては 言うことも聞かず
私は その先生が とっても好きだったのだけど
同級生たちの前では 同調して 荒い言葉を使っちゃったりね
教室が終わると 筆を洗い 木箱を 部屋の隅に積み上げた
急いで帰る 友達を尻目に 片付けの手伝いをしては 最後まで残って
みんなが いなくなると
傍に 呼んでくれて
先生は 油絵を描いたり 版画を彫ったり
私は それを 眺めているのが 好きだった
そして
石に文字を彫る 「篆刻」 を
教えてもらったのも この頃
それ以来
自分の精神に 合っているようで 続いている
雅号や名前ではなく 好きな文字を彫った印を
「遊印」 と いいます
材料も 木や 消しゴムに 彫る方もいますが
私は やっぱり 自然石の 触感 冷たさ 重みが 好きかな
年賀状や 折々のご挨拶に 添えるのも 楽しいですよ
季節や 内容に 相応しい
言葉を 発掘 するのもね
紙に押してみると こんな感じ
「 畢竟意思 」
これは 好きな詩人の 言葉を 彫ったもの
そんな 石が どのくらいあるかな
考え事しながら
ゆったりね

