言葉の力 Ⅲ | 臨床心理士 金子泰之の「行き当たりバッチリ」日記

心理療法の形と意味―見立てと面接のすすめ方―
溝口純二著
金剛出版 2004


より引用



 心理療法の目的の1つはクライエント内部の

各部門の間にコミュニケーションが

復活することである。


復活というのは、かつてはコミュニケーションがあったと思うからである。


それは心身の解離が生じる時期のような、乳幼児期かも知れない。


(中略)
 クライエント(以下、CL)
が得られたらよかったと言えるようなそうした

言葉があるのなら、そしてそれが得られなかったことがCLに大きな影響を与えているというのなら、

心理療法においてセラピスト(以下、Th)がCLにそうした必要な言葉を与えればいいのではないか、と。


しかしそれは出来ない。そうした言葉そのものをTHが与えても、それによってCLの過去が変わるわけではない。


むろんそれは事実としての過去ということだが。


私は、過去に何らかの不足があることがCLに決定的な影響を与えており、したがって心理療法はその不足を補うものである、という考えに与していない。


補えるとしても、言葉によって抽象的にわずかに

提供できるにすぎない。


だからといって誤解の無いようにしてほしいのだが、ささやかに思えるそうしたことは、まさにテコのごとく、1点で大きな作用を及ぼすのだ。


それはその人の人生そのものに対してそうなのである。そしてまた、仮にCLに必要な言葉が与えられたとしても、それはCLの自由を奪うことになる。


あまりに正確であるために、CLはTHの発するその言葉に依存するようになってしまう。


TH嗜癖、心理療法嗜癖である。

それは言葉が持っている圧倒性のためである。


ほんの一言が人を生かし、


また壊しもするのである。