あさこちゃん
中学の三年間、同じクラスだった子がいる。
あさこちゃんだ。
あさこちゃんはウッチャンナンチャンと日本テレビをこよなく愛するぽっちゃり女子だった。
わたしは引っ越しをしてから、毎日あさこちゃんと通学していた。
引っ越してから家が同じ方角だったからだ。
(引っ越す前はボスの家に近かったためボスと学校に行っていた
引越ししたことでボスとの通学がなくなり本当に精神的に楽になった)
あさこちゃんと私には共通点があった。
スプラッタ漫画が好きなことだ。
二人はスプラッタマンガで有名な御茶漬海苔先生を崇拝していた。
そして私はその頃から漫画を書くことが好きだった。
あさこちゃんは漫画が書けるわけではないけど
私に漫画を描かせることが好きだった。
原作を作るわけでも、枠線を引くわけでも、トーンを貼るわけでもなく消しゴムもかけるわけでもなく、ただただ、あさこちゃんは私に漫画を描かせるのが好きだった。
学校から帰るとあさこちゃんの家に行く。
そして、漫画描いて!と言われる。
描くことは好きだったのでよーしと私は気合位を入れて漫画を書き出す。
疲れてきて休憩を取ろうとすると
「はいはい、描いて!」
とあさこちゃんが急かす。
そうか、編集者のような存在だったのかもしれない。
例えば漫画の中に一軒家の描写があったら、あさこちゃんは新聞に挟まってる広告で、一軒家のチラシを集め私に渡してくる。
それを見て私が漫画を描く。
そんな時。
あさこちゃんと私はスプラッタ漫画が好きすぎて、理科の授業で大変な失敗をしてしまったことがあった。
その日、授業ではカエルの解剖をしていた。
何人かのチームでカエルの解剖をする。私はラッキーなことにあさこちゃんと同じチームだった。
私たちは興奮した。
カエルの解剖なんてしたことがない。
けど、スプラッタ漫画やその類が大好きすぎて、私たちは授業が始まる前からかなり興奮していた。
麻酔で動かなくなったカエルをチームごとに配られた。
女の子はキャーキャー言いながら逃げ回っていた。
「はい、ちゃんとやりなさいー」
先生が何度も生徒に言っていた。
私たちはカエルを目の前にしてさらに興奮していた。
でも、他のチームのカエルの方が大きいね、ってちょっと悲しくあさこちゃんが言った。
あさこちゃんは優しい子だったので、カエルのお腹をさくのは私の役目にしてくれた。
カエルが寝ている。これが完全に生きている。
生きている状態で、腹を裂く。
興奮が興奮を呼び、お腹を開いた瞬間、なんと肺にまでハサミが刺さってしまった。
右側の肺が元気なく萎んだ。
ショックだった。
あさこちゃんも、私を責めなかったけど、少し残念そうにしていた。
ここに肺があります、これは胃ですね。先生がクラスを回りながら教えてくれる。
私は肺が潰れたショックを隠しつつ、先生の言うことを聞きながら解剖を続けた。
この子たちは、どうなるんだろう。
ふと思った。
麻酔を嗅がされ、眠っているうちにお腹を裂かれ
肺まで潰され、口からはだらしなく舌が出ている。
聞くと、他の学校は、フナの解剖をするところもあるらしい。
私たちはそれを聞いて、「やった!カエルの方がいい!生きてるって感じする!」
と喜んだ。
私たちは自分の手でお腹を裂き、ピンセットでお腹の中を摘んだりどかしたりしてカエルの体の中を堪能した。二人は、あまりの楽しさにそれはもうはしゃいだ。
そんな私たちを見て、男子が気持ち悪がりそうに遠目に見てた。
隣の席の男子チームのカエルは超デカかった。当たりカエルだ。
私たちは適当に解剖している隣のチームのカエルとこっちの小さいカエルを交換して欲しかった、けど、男の子と喋ったことがほぼない二人、結局なにも言えなかった。
カエルたち、これからどうなるんだろう。
ふと思った。
お腹を縫って生きていくんだろうか。
そんなわけはない。きっとビニール袋に詰めて燃えるゴミに出すのだ。
その事実に、私たちはさらに興奮した。
だけど私、右側の肺を潰してしまったショックが残っていた。
お腹切り裂いてるのに、左の肺が大きくなったり小さくなったりするのを見るのが楽しかった。
右側の肺には本当に申し訳ないことをした。
あさこちゃんにも同じことを思った。
「あいつら解剖とか平気なのかよ」
どこからか男子の声が聞こえる。
だけど私たちは気にしなかった。
そんな言葉より、何より、初めて見たカエルの中身。
肺があって、胃があって、腸があって、、、
麻酔でボーッとしてるカエルさんは半目だった。
ピンセットで舌を出して「てへ!」っていうカエルの顔を作った。
なんだかんだ中学校も卒業し私たちはなかなか時間も合わず、全然会わなくなった。
私はまだ漫画を書いてたけど、疲れて休憩に入ると、なかなか描くことに進まない。
こんな時あさこちゃんがいたら、、、、
よくそう思った。
あさこちゃんは、私の初めての編集者だったのだ。
疲れたらファイト!と励ましてくれて、使う資料はあさこちゃんがいつも用意してた。
私たちはそんなに頭は良くなかったけど、理科の生物だけはいつも100点満点を取っていた。
高校卒業。あさこちゃんと話機会があった。
多分、ふと思いついて電話したのだと思う。
「今何の仕事してるの?」
「うん、マウスの実験とかしてる」
あさこちゃんは夢を叶えたのだった。動物の生態とか、やっぱりずっと好きだったんだ。
私はもう漫画を描かなくなっていた。
一人では休憩が多すぎて進まないからだ。
あさこちゃん、あの時はありがとう。
私にやる気を出させてくれて、オリジナルのスプラッタ漫画、よく描きましたね。
私は今でも、スプラッタものが好きです。
あさこちゃん、君もきっとそうだと信じたい。
私がまた引っ越したりなんかして、年賀状何年か届いてたけど、私が返信をしないもんだから、3年目ぐらいで年賀状も届かなくなった。
今だから、あさこちゃんに会いたい。
あさこちゃん、今でもスプラッタの巨匠、御茶漬海苔さんを覚えてますか?
マウスの実験はどうですか?
私、数年前の飲み会で、何と憧れの御茶漬海苔先生にお会いしたことがあった。
私は有名人とかに、「一緒に写真いいですか?」っていうのがあまり興味がなかったのだが、流石に先生を前にして、速攻で「写真お願いします!」と言ったこと覚えてる。
あさこちゃんが今もスプラッタが好きなら、先生と撮った写真見せたいな。