初めてフーゾクの面接に行った話・3
薄暗くめちゃくちゃ狭い通路をお兄ちゃんと一緒に歩く。
まるでお化け屋敷のよう。暗くて足元がよく見えず、前を歩くお兄ちゃんのあとを必死に付いて行った。
その先にとってつけたようなおもちゃみたいなドアがありお兄ちゃんがそこを開けて「入って」と言った。
2畳もない小さな部屋。
私はその壁にくっついている小さなベッド(今思うとソファベッドかもしれない)の上に座らされ目の前にしゃがんだスーツのお兄さんと少し何かを話した。何を話したかあまり覚えてないけど、週に何度来れるのか、希望の時間はあるか、などを話したと思う。ちゃんとスーツ着てるのに、しゃがんで腕を組んで喋ってるお兄ちゃんが何だか違う世界に来たことを表してるような気がした。
保険証を身分証明として出し、それをコピーしてくるから少し待つようにと言われた。
ガチガチに緊張した私は、ドアが閉まり誰もいなくなった部屋の中で一度深呼吸した。いや、しようとした。だけどうまく深呼吸出来なくてそれを断念し、チラチラと部屋の中を見渡した。
ベッドの脇に三段の棚が一つ。一番上ににクリップランプが付いていて部屋を薄暗く照らしている。二段目には小さなCDラジカセが一つ。三段目には女の子の読むような漫画雑誌が雑に入れてあった。ベッド脇の壁には横長の大きな鏡。
そこに映る自分を見て「うわ、前髪わかれてる、化粧失敗したかな、薄すぎたかな、っていうか昨日気合い入れて前髪自分で切ったからムッチャ失敗してるブスがさらにブスだどうしよう、だめだ絶対面接落ちる、やっぱ私には無理な話だったんだ、どうしよ、待ってていいのかな、でも保険証渡しちゃった…」ちゃんと覚悟して来たはずだったけどもう弱気なことしか頭に浮かばなくてそれが情けなくてでももうどうしようもなくて。
しばらくしてさっきとは違うお店の人が入って来た。
やっぱり黒いスーツを着ていたような気がするけど、ブスな顔を見られるのが怖くてあまり目を合わせなかったのであまり覚えてない。
「はい、こっち向いて。ポラ、表に貼るから」
カシャ。ジー。
「もっと笑って。はい、も一回」
カシャ。ジー。
「どうする?今日働いてく?名前どうする?」
え、え、え、ちょちょちょちょ、ちょっと待って流れ早い!!!!
気がついたら写真を撮られ、もう働く流れになってる。どうしよう、いや、どうしようっていうか働きたくて来たんだからそれでいいんだけど、なんか、心が付いていかなくてパニックになりながらも、とりあえず今日はもう帰りますとどうにか伝え、保険証を返してもらい、働く初日を来週の火曜日と決め、走り去るようにお店をでた。
急いで階段を降りながらさっきのことを思い出していた。
「面接、受かった…」
なんか、緊張が続いてたから安心して涙が出そうになって、あと、受かった嬉しさでいつもしかめている顔がほころんでるのが分かった。
そして、念願だった悪い人の仲間入りしたような気がした。これでようやく生きていける。私の居場所が見つかった。もう大丈夫、私は元彼がいなくても自分の力で、これからは悪い人として堂々と生きていく。
私は悪い人。ようやく私は、元彼にふさわしくない悪い人間になれた。
さよなら彼氏。
さよなら!!私はあなたにもらった、セックスならできますという唯一の価値を信じ、この道で頑張って行きます!
ちなみに行きの道を緊張で忘れてしまったため、帰り道が全く分からず、駅まで10分かからないところを40分ぐらいかけてようやく帰った。