フーゾク、指名の話。 | 書きなぐり。

フーゾク、指名の話。

フーゾクのお客さんには、簡単に分けると、指名のお客さんとフリーのお客さんの二種類いる。

指名のお客さんは通常料金のほかに大体2000円の指名料が追加される。女の子は(店にもよるが)大体指名料はそのままもらえる場合が多い。
 
女の子は指名されるのが大好きだ。
指名料が入るのも勿論、フラッときて誰でもいいやと適当に選ばれるよりは、電話で「この子指名で!」と指名できてくれるお客さんの方がやっぱり嬉しいし、本番強要や乱暴なことをするひとも断然少ない。
それになんたってスタッフルームには大体指名表が張り出されていて、女の子同士競わせて、今月指名一位の子にはプラスいくらかのボーナス、なんて店もあった。だから指名を取れるようになるために女の子は日々頑張る。
 
私の場合、自分に会いにきてくれるお客さんがいるという事がとにかく嬉しくて、指名が欲しくてたまらなかった。
 
19歳の時初めての彼氏を振ってフーゾク入りし、全くお客さんの来ない新しく出来たばかりのお店でエロ本の取材をたくさん受け、その雑誌を見た人が電話指名してくれるのをひたすら待った。大きく載せてもらえると指名もガンっと数が伸びた。
 
最初の頃は1日に2人、フリーの人が来るぐらいだったのだが、とある雑誌に少し大きく写真を載せてもらった発売日、朝一からお店の電話が鳴り止まなかった。私を指名してくれるお客さんの電話だった。
 
その日から私は開店5分で指名が埋まるようになった。
 
初めて7時間勤務で60分コース7人全部指名で埋まった時、私はなにかものすごい達成感に包まれた。
1人1万1000円×7人=77000円。
お店の人に「おつかれさま!」と頂いた封筒を握りしめ、嬉しくてたまらなかった。
誰かに「私頑張ったよ!」「認められたよ!」と言いたくてたまらなくなった。
でも、家出してきてるし仕事が仕事だし、言う人がいなかった。
 
仕事後、ファミレスでご飯を食べながら、ふと元彼を思い出した。
今思うと、私の意見はなんでもダメ出しされてたし、束縛は鬼のようだったしヤキモチも異常だったけけど、なんにしろ2年間私のことを好きだ好きだと言ってくれることだけは本当にありがたいと思っていた。当時のそれを思い出し、私は元彼に電話した。「わたし、フーゾクで指名で1日埋まって77000円稼いだんだよ!」
 
ストーカーになった元彼から逃れるために引越しをしフーゾク嬢になったのに、なぜまた元彼に電話をしてしまったのかよく分からないけど、元彼に「がんばったじゃん」と言って欲しかった。言ってくれると思ってた。
 
が、元彼は「フーゾクやってんだ。サイテーだな。もう二度と電話してくんなよ」と電話を切った。
 
わたしは泣いた。
一生懸命頑張って仕事して、新しい世界で認められて、お金をいっぱいもらった。
何がいけないのか、どうしていつもみたいに喜んでくれないのか、当時のわたしは分からなくて、ファミレスで一人でかなり長い時間子供みたいに泣いた。
 
元彼の元を去ったのはわたしなのに、わたしから電話したのは、完全に元彼に依存していたからだと思う。わたしのことを好きだと言ってくれるその時唯一の人だったから、喜んで欲しかったし褒めて欲しかった。だけど、わたしは結局元彼を傷つけることをしてしまった。
そう思えるようになったのはもっと後の話だけど。その時は「どうしてどうして」としか思えなかった。
 
泣いて泣いて、そして吹っ切れた。
この世界は、認められない世界なんだと悟った。誰に褒められなくても自分のために頑張ろうと思った。
 
ガストのオムライスを半分残し、元彼のメモリーを消して、その日わたしは家に帰った。