精神病棟の仲間たち3 | 書きなぐり。

精神病棟の仲間たち3

かおりちゃん(仮)は、同室のヘアメイクをしている女の子。

確か一個上だったと思うので女の子というより女の人だけど。

 

かおりちゃんは正義感が強く仲間思いで朗らかな子だった。人付き合いが苦手でバリアを張ってるわたしにも部屋で気さくに話しかけてくれたことがきっかけで話すようになった。入院した時期を何度か聞かれ(電気ショック治療が終わると記憶がすっぽ抜けるらしく何度も同じことを聞かれた)どうも入院時期も同時期っぽかった。

 

かおりちゃんを含めたグループのみんなでリビングでお茶を飲んでいたとき事件が起こった。

 

「トイレでミィさん(仮)が倒れてる!」

誰が言ったか分からないけど、リビングがざわついた。

 

時間は8時頃だったと思う。

みんながザワっとした瞬間、かおりちゃんがバッと席を立ってトイレに走った。

わたしはやっぱ力持ちのわたしが行った方がいいのかな?と思ったけどミィさん(たまたまミィさんも同室だった)と話をしたこともないし気後れして黙って席に座っていた。

 

しばらくするとかおりちゃんがナースセンターに走って行って窓ガラスを叩いた。

中には誰もいない。

「なんで誰もいないの!?トイレの緊急ボタンも押したんだけど誰も来ないの!」

 

「なに、ミィさんどうしたの?」

隣の部屋の大場さん(仮)が椅子に座ったまま言った。

「トイレでうずくまって、お腹痛いって! 動けないの!」

かおりちゃんは深刻な顔でそう言ってまたトイレに走って行った。

 

席に集まったたみんなは「どうしよう?」「看護婦さん居ないね」「今日のジャガイモ硬かったよね」「それじゃない?」「うん、絶対それだよ」「でもみんなで行っても何もできないからかおりちゃんに任せましょう」「そうだね」

そういう話になっていた。

 

しばらくするとかおりちゃんが違う部屋の人と一緒にミィさんに肩を貸しながら出てきた。

「ベッドまで連れていく! でも少し良くなったみたい!」

みんなを心配させまいとしてかおりちゃんがニコッと笑った。

 

リビング組の緊張が少しとけた。

 

しばらくしてかおりちゃんが席に戻ってきた。

「なんかごめんなさいねかおりちゃんに任せちゃって。」

足の悪い吉田さん(仮)が言った。

「うん、大丈夫。」

かおりちゃんがまた笑った。

「横になったら少し楽だって。でもナースコール押しても誰も来ないの。なんで??」

かおりちゃんが少し怒り気味に言った。

 

「なんのためのナースコールだよ。」

「変だよね」

「かおりちゃん、ほんとごめんね」

みんなが言った。

 

わたしはやっぱりわたしが行けばよかったと思った。

人を担ぎ歩かせるのは慣れてる。

やっぱりわたしが行けばよかった。

 

自分を責めてると、ナースセンターにキツめの顔の看護婦さんが入ったのが見えた。

 

かおりちゃんはまた席をバッと立ち、ナースセンターの窓をまた叩いた。

ナースが鍵を開け、ガラス窓を開いた。

「ミィさんがお腹痛くて苦しがってるんです! 見てあげてください!」

「どうしたんですか?」

「トイレでうずくまって苦しそうなんです! いまベッドまで連れて行きました、でもまだ苦しいみたいです!」

 

ナースはだるそうに言った。

「患者さん同士は必要以上に仲良くしないでくださいね」

 

「え!?」

 

「やることは私たちがやるんで。患者さんに手を貸さないでいいですから」

「お腹の薬だしてあげてください! 苦しがってるんです!」

「いま、薬剤師居ないので出せません。」

 

かおりちゃんは誰が見ても分かるような怒りをこらえた顔で席に戻ってきた。

「…信じらんない…。」

 

しばらくして看護婦がミィさんの部屋に行き、戻ってきた。

 

かおりちゃんは怒りに震えていた。

「やっぱ納得できない」

また席を立ちナースセンターに行き窓を叩いた。

ナースがだるそうに窓を開ける。

「看護婦さん、お名前教えてください」

看護婦はかおりちゃんの顔をチラッと見て手元の患者表をチェックして言った。

「あなたに言う必要ないでしょう。患者のことはやることやってるんで。それ以上構わないで」

そうしてピシャッと窓を閉めてしまった。

 

かおりちゃんは真っ赤な顔をして席に戻ってきた。

「顔、チェックされた。名前と照合したと思う。わたし、悪いことしたの? 人が倒れてたら助けるよね? 精神科に入院してるからわたしの精神がおかしいの?」

 

みんなくちぐちに「かおりちゃんは悪くない」と言った。

かおりちゃんはしばらく両手を握りしめ怒りに震えていた。

 

「あ…、なんか、ごめんね! みんな暗くなっちゃうよね!」

かおりちゃんが無理に笑った。

 

ようやくみんなの緊張も少し溶けた。

 

かおりちゃんはその日の就寝時間まで、ずっと怒っているように見えた。

 

わたしは、自分にも何か出来たような気がしてならなかった。

精神科にいるからかおりちゃんが悪いんだろうか。

だけどみんな早く退院したいから、問題を起こさないように気をつけていた。

かおりちゃんだってその一人。

仲間が苦しがっているのを助けただけ。

だけど看護婦は、かおりちゃんの行動を、行きすぎたこととして上に話すんだと思う。

 

誰の神経が一番おかしいのか、

わたしはよくわからなくなった。