始まり | 裏日記

始まり

始めの記憶は

始めたばかりの

アルバイト先のベランダ

その日私は

前の晩酒を飲みすぎて頭痛がしていた

タバコを吸う彼の横顔

まあるい鼻

頬が痩せて

広くてまあるいおでこ

キリンのような

物憂げで黒目がちな

優しい瞳

私は好感を持った

他愛もない

お酒の話

「タンカレージンがおいしいよ」

「ズブロッカって知ってる?」

お酒で綴られる

彼の人生

少し悲しそうな横顔の割りに

明るいテンポ

彼の向こうにある

身を切り刻むような

痛みを感じた

私はそのころ

とても前向きな男性と付き合っていた

何一つ不自由せず

育ってきた彼は

自分の力でなんとかなる

なんとかする

そういうことを教えてくれた

前向きになりたい

目の前にある問題を解決したい

少し

利用した

そんな付き合いが

結婚とか

絆とか

そんな話に発展して

戸惑っていたころ

愛はあった

でも

居場所がなかった

いつも満たされず

その心をその男性にぶつけて

ぶつけて

あきらめかけていたころ

あなたに出会ってしまった

もっとあなたを知りたい

その悲しみの奥には

何があるの?

そこに

私の居場所があるの?

ある。

確信に近かった

店内を歩く彼は

早足で

長身の頭がいつも丸見え

気づけば目で追う毎日

「映画はやっぱりSFだよね」

「SF私の両親が大好きなんです」

そうやって彼と会話を交わすたび

それまで生きてきた時間を埋めるように

お互いを知って行った

彼に彼女が居ること

本当の年齢(笑)

彼の両親が離婚していること

父親は厳格で

自分は期待に応えることができなかったこと

家を飛び出し

縁を切って7年経っていること

専門学校を

中退していること

母親がすでに亡くなっていること

彼女に結婚を迫られて

結婚を条件に

このまま一緒に暮らすことを

約束させられそうになっていること

彼の口から出てきたのは

そういった言葉たち

どんどん彼の傷の

深いところまで入って行っているようで

心地よく

怖い気もした

私たちは飲みに行く約束をした

“本気かな?”

お互い手探り

“本気なんだ”

確かめる

約束はチャットだった

顔を見る事もなく

言葉の裏にある

真実を探ろうと 

必死だった

『電話は怖いんだ、壁に耳あり・・・ってね』

罪の意識は

なぜかなかった

『・・・早く会いたいです』

投げてみる

『俺も』

『指が震えてキーが打てないよ 笑』

9月27日

11時に

電話をくれる