2000万円に驚いてはいけない。冷静な年金制度議論が必要 | 浦野英樹オフィシャルブログ Powered by Ameba

2000万円に驚いてはいけない。冷静な年金制度議論が必要

「2000万円という数字に驚いてはいけない」
「公的年金の基本的性質を理解した上で議論すべき」

老後2000万円報告に端を発した参院選での議論を聞いた上で、社会保険労務士としての率直な感想です。
また「老後までに2000万円貯金しなけばならない」といったイメージは完全なミスリードであり誤解をとく必要を感じます。

 

1.
2000万円の根拠は 高齢無職世帯の平均収入209198円、平均支出263718円、差額の54520円が30年続けば約2000万円になるというもの。

男性が95歳まで生きた場合の数値ですが、普通、老後の生活設計をする場合、人それぞれとはいえ95歳まで生きることを想定はしません。2000万円というのは、かなり長い期間を想定した数字です。もし15年の年金生活(男性80歳まで)と想定すれば2000万円は半分の約1000万円ということになります。

 

2.
退職金や65歳以降の就労による収入も2000万円から差し引けます。65歳以降の高齢者就労で年収200万円×5年だけで1000万円はクリアです。

現在、収入に応じ高齢者の年金がカットされる「在職老齢年金制度」があります。元気な高齢者が働き続けることができるよう、在職老齢年金の廃止に向けての議論は急ぐべきだと思います。

 

3.
公的年金は死亡するまで支給が続きます。金融庁報告書のモデル世帯であれば「95歳の時点で2000万円不足」かもしれませんが「何歳まで生きても公的年金で生活費の78%をカバー」できるのです。

もともと、公的年金は退職後の生活費のすべてをまかなうように設計されていませんが、同時に死亡まで支給が続き、その後も遺族年金もあるのが最大の強みです。

現在の公的年金とは「生活のすべてはカバーできないが死ぬまで一定額を継続的に支給」という理解で、まずは自分の年金額を知り、将来に向けての準備を、現時点での収入+将来の生活設計に応じてすればよいのです。

 

4.
金融庁報告書のモデル世帯であれば、最後の手段として生活をきりつめればなんとかなるレベルです。政治が最優先でとりくまなければならないのは、報告書モデル世帯のはるか下の水準の世帯への対応であると思います。

特に、第1号被保険者期間のみの年金受給者は、40年保険料を払い続けて、夫婦合わせても月の年金収入13万程度。95歳まで生きたら2000万円不足どころではありません。

元々、第1号被保険者は、自営で定年もなく働くことができ収入があるという前提で設計されています。だから2階部分がありません。しかし、定年がないとはいえ75歳すぎて働き続けるのはかなり無理があります。また、現在の第1号被保険者は、無職、パート、第1号被保険者の配偶者といった自営でないケースが約半数です。

 

まとめ.
私は、今の年金制度の最大の問題は年金の支給水準ではなく、生活の最低限度保証の仕組みの脆弱さと働き方・ライフスタイルに中立でない支給額にあると思っています。要は年金制度が、社会の変化に対応できていないのです。 

参議院選挙、結果は今日出ますが、こういう問題意識を共有できる人が、ひとりでも多く国会で議論をして欲しいと望むものです。