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「年金カット」と呼ぶべきではない ~公的年金・税 役割分担のあり方を考える

浦野英樹REPORT VOL.108 2016.11
 
「年金カット」と呼ぶべきではない ~公的年金・税 役割分担のあり方を考える

 

■公的年金のスライド制
・国会で審議されている年金制度改革法案。法案の柱は、物価が上昇・賃金が下落という場面で、現在は“年金額は維持”だが“賃金下落に合わせて年金額を減額”というルールを設けること。物価を基本ルールと現行制度と比べ、年金額が少なくなる場面が発生する可能性があるので民進党はじめ野党は“年金カット法案”と呼んでいます。

 

・公的年金は、“スライド”という年金額改訂の仕組みがあります。年金受給者は、物価上下によって年金額が改定される“物価スライド”、新たに年金を受給する人は賃金の上下に合わせ新規の年金額を改訂する“賃金スライド”が基本ルールとして年金額は毎年変わってゆきます。実際には、物価が上昇しても年金額への反映の段階で一定率を差し引く“マクロ経済スライド”や、また物価上昇率が賃金上昇率を下回る場合は、既裁定者の年金も賃金上昇率による等、単純に物価の増減に合わせて年金額が変わる訳ではありません。

 

■所得の保障と生活維持の保障
・公的年金には、現役時代収入の一定額を確保する“所得保障”の役割と、一定の生活水準を維持する“生活保障”の役割があります。スライド制にあてはめれば、賃金スライドで所得保障をし、物価スライドで生活水準の維持を保障していると言えます。

 

■“特例水準の愚”を繰り返すな
・かつて平成12年度~14年度にかけて物価が下落したにもかかわらず年金額を据え置いたことがありました。年金の“特例水準”と呼ばれるもので、当時の高齢者の生活水準維持に重きをおいた措置でしたが、結果として、大きなツケをあとの世代に残しました。平成25年から、特例水準の解消の為、年金額が段階的に引き下げられることになり、物価下落による年金額の減少と合わせ年金受給者の生活に大きな影響を与えました。本来、公的年金は“所得保障”がメインの“保険”であり、生活維持や物価対策は税の出動で行うべきであったと思います。

 

■レッテル貼りは自殺行為
・スライド制による年金改定については、現役世代に保険料負担をこれ以上強いるのは難しいのは明白で、年金は“賃金スライド”に重点を移し、生活対策・防貧機能は税でという方向性自体は、私は間違っていないと思います。政府案では、生活水準維持の為の対策が不明瞭であることが最大の問題点です。民進党は、あるべき公的年金と税の役割像を提示するような議論をしてゆくべきで“年金カット法案”というレッテル貼りでは、建設的な将来の年金制度改革の議論ができなくなってしまう恐れがあります。