労働契約法改正は「有期契約労働者」の処遇改善になるのか? | 浦野英樹オフィシャルブログ Powered by Ameba

労働契約法改正は「有期契約労働者」の処遇改善になるのか?

有期契約労働者の処遇を改善する為の、改正労働契約法改正案が国会で可決され、平成24年8月10日に公布されました。

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【法改正の内容】

1.無期限の労働契約への転換

有期労働契約が5年を超えて反復更新され、労働者が希望する場合には、期間の定めのない労働契約(いわゆる正社員化)に転換しなければならない。
ただし有期労働契約の間に6か月以上のクーリング期間があるときは労働契約期間は通算されず、また特に定めがなければ無期限の労働契約に転換する際の労働条件は、有期労働契約時と同じで構わない。
■施行 平成25年4月頃の見通し(未定)
■対象 「施行日」以降に新規契約、更新された契約が対象 
施行日が平成25年の場合、平成30年に「正社員化」が義務となる


2.雇い止め法理の法定化  

有期労働契約が継続的に反復更新されている場合や、有期期間満了後も雇用が継続するように判断できる労働契約となっている場合には、雇い止めに客観的・合理的な理由がなく、社会通念上からみても妥当性がないと認められないときは、有期労働契約が更新(締結)されたとみなされる。
(雇い止め:有期労働契約で契約期間が満了したときに、使用者が契約を更新せずに労働者を辞めさせること)
■施行 平成24年8月10日


3.有期労働契約に対する不合理な労働条件を禁止

有期契約労働である事が理由で正社員の労働条件と異なっている場合には、職務内容などを考慮して不合理があってはならないと規定する。
■施行 平成25年4月頃の見通し(未定)

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【浦野の個人的見解】


今回の改正で、注目点は「5年を超えた継続雇用」→「希望があれば無期限の雇用契約」転換義務化でしょう。


改正内容の「雇い止め法理の法定化」については、過去の判例の蓄積もあり、労務管理の現場では「実質的に」そのような扱いをすることがほとんどだし、「有期労働契約に対する不合理な労働条件を禁止」についても「同一労働、同一の労働条件」の実現という観点から賛成であり、大きな混乱はないのかなという気がします。

一方「5年超の継続雇用→無期限雇用契約転換義務化」については、有期雇用労働者の処遇の改善という趣旨はわからない訳ではありませんが、実際は「労使双方」不幸な事態となるのではないかと懸念しています。


まず予想されるのは、勤続5年に至る前に契約の終了を検討する企業は間違いなく増えるでしょう。結果「無期」となる前に契約終了となる労働者は増えます。採用についても「期間契約」なら雇えるが、「無期限」なら躊躇するというケースも増え、企業の採用意欲についてもマイナスの効果がでてくる可能性があります。雇い止め法理の法定化により、簡単に雇い止めができない環境が整えば、果たして「勤続5年超→無期限義務化」が必要なのか疑問です。


有期契約労働者の処遇を改善するのなら、無期の雇用契約とした方が「企業が得をする」環境をつくる一方、有期契約のままでも「労働者も得をする」環境をつくるという2つの方向で事業主を誘導するといった対策の方が有効ではないかと考えます。


具体的には「有期」と「期間のない契約」の場合、有期の方が「高い人件費」を負担しなければならない環境をつくることです。


短期間の契約とするなら割高な人件費を払い、一方、期間を定めなければ割安でよい とすれば、長期にわたって雇用の継続が見込まれる企業は「正社員化」が進むし、長期の雇用が見込めない企業の場合は、労働者は「割高な賃金」を受け取れることになります。


今回の「勤続5年超→無期限義務化」は、方向としては逆ではないかというのが個人的な意見です。