前回の続きです。

さきちゃんの話は秋祭りのできごとでしたが、
同年には他にも私の過去の中で影を落とすことがありました。

1997年の春ごろの話です。


巫女として派遣された
レストランでの神前結婚式の帰り道で
それは起こりました。

私たちは神主さんの運転する車で
不備なく整えられた
とある新興住宅街の
片側二車線の広い幹線道路を
神社に向けて北上していました。



左側に流れる敷地が気になり
ふと目をやりますと公立中学があり
正門を通り過ぎたときに
全身の身の毛がよだち、
運転席の神主さんに

 

「神主さん!あれは何!!!」
 

とギャアと叫びたくなる声を
なんとか抑えました。


神主さんも気が付いていて
「きほこちゃんにも見えましたか。
ここで何かが起こっていますね。」
と冷静ですが、声は震えていました。

私たちが何を見たかと言いますと
言葉にしても伝わりにくいかと思いますが、
時空がズレているのが可視化されていたのです。


校門を境にして歪みが発生していて、
その隙間からあちらの世界の
魑魅魍魎がドロッと溶岩のように
こちらの世界に流入しているのが
「視えた」のです。

「神主さん、どうしましょう?」

「・・・私ひとりで対処できる領域を超えています。
考えるのは後からです。とりあえずここを退散しましょう。」




先ほど見てしまったものが気になりながらも
私たちは道を急ぎました。


車の中で神主さんが

「きほこちゃんにも視えるようになったのですね」
そのように言葉をかけてくれたのを覚えています。


神主さんが私を巫女に誘ったのは
私の地元の美容室でした。

私が大学生になって、それまで長く伸ばしていた髪を短くして
パーマヘアのスタイルにしようと美容師さんに注文している時に、
隣でスタイリングを終えた常連らしき男性のお客さんが
「そのカット、ちょっと待って!」
と声をかけてきたのです。


「うちの神社で巫女をしませんか?」
それが最初の出会いでした。

あとになって神主さんがおっしゃったことは、
あの時にあなたを巫女にお誘いしたのには理由があって、
この子は自分の霊力の強さに困っているのだろうなと
一目で分かったそうなのです。

 


神社で日々の神事を行ううちに
神様とのご縁がつき
霊力を正しくオン・オフして使えるチャンネルが
できるのではないかと思ったのだそうです。

たしかに、神事の準備を行っている時に、
神様の気配を感じたり、
自我ではない別次元の言葉を脳内に認識できたり、
だんだんに制御できるようになってきたのを感じていました。


「できるようになってきましたね」

そう言われて、それまでできていなかったことを理解しました。

目に見えない世界が日常であった貴重な数年間でした。


神社から帰りの電車内で、
一人になった私は身震いをしていました。


その電車にはほとんど人が乗っておらず
とてもゆっくりと永遠に向かって走っているように感じました。


あの場所はどうなってしまうのだろう?
視えたものは何だったのだろう?
神主さんでも対処できないものって何なのだろう?


週が明けて1997年5月27日火曜日のこと
中学校の鉄格子の正門前に
切断された男児の頭部が置かれているのを
通行人が発見し、警察に通報されました。


その切り裂かれた頭部は、
前の週の土曜日から行方不明となっていた
近隣に住む11歳男児のものと判明しました。


耳まで切そがれ、両方を切り裂かれた口には
酒鬼薔薇聖斗」の犯行声明文が挟まれていました。




地霊があるとするならば、
私が見たあの時空の歪みが
起こりやすい場所というのが
存在すると思うのです。

その後、建築設計の道に進んだ私は
犯人が生まれ育った家の設計図面を見る機会を得たのでした。


当時よくあった建売住宅の画一的な図面を
そのまま反転させたものでした。


EWSの指示は図面の「反転」
図面にかける時間は、ほんの数秒。

「反転の家」に生まれ育った子供が
どのように成長し、どのような人生を歩むことになるのか。

龍のサフィラに、この件の未だ地に残るネガティブを
癒すように命じ、西への派遣を継続しました。