中山作品といえばデビュー作にして技巧どんでん返しの『さよならドビュッシー』や、続編の『おやすみラフマニノフ』が有名で、さらにこのミスファンなら、さよなら~と史上初のダブルノミネートの、『連続殺人鬼カエル男』の、タイトルと脱力するようなカバーイラストを覚えている人もいるんじゃないだろうか。

キワモノ好きの習いでまずは連続~から読み、それからドビュッシーに行って、デビュー作でこんなにネタたくさんだして大丈夫なのかなあ、とか、にしてはかなり、出来上がった感じもするなあ、とかおもったけど、底辺に流れるトンマナは似通ったものを感じていて、まあわかった気にもなってこの人からは遠ざかっていたのは事実。

ところが一転、冤罪と組織という大掛かりなテーマである。ちょっとあわなかった友達が急に、間逆のエリアに転職しちゃってたのを聞いたような気分。
せっかくだしこれもご縁、と、読んでみた。

それだけギャップもあったけど、苦労なく読めた。この作品の主人公は他の中山作品にも出てるみたいだけどその前提が必要ということもなかったし。語り口調も平易であまり専門用語ばかりで理解を読者側に委ねることもなかったからだろう。
強いて言えば長いスパンの話の割にはすこし、主人公の苦悩が、その重たい決意のわりにさらっと書かれすぎていた気もしたけど、そういった細かい部分をすっとばす、最後の加速度は圧巻。
あの部分が伏線か、とか、え、この人が、とか、いっこほぐれたら全部、みごとに倒れてゆく爽快感はなかなかのものだった。

犯人像とその許容のあたりはすこし釈然としない感もあるけれど、まあこうなるしかない、必然の論理といえなくもない。
トータルでみたら、確実に買いだと思う。



最後までわからなかったのは、主人公の名前が明かされなかった理由。苗字はもちろん開示されているが、なぜか下の名前はぼかされていたと思う。なんか意味があるのかどうか、それこそ、全部の作品を登場人物でドットでつなぐ辻村深月みたいに、なんらかの仕掛けがあるのかもしれない。あるいはもう少ししたら島田荘司の異邦の騎士みたいに、サーガ仕立てになっているのか。

48歳の遅咲きの作家なだけに、さまざまな戦略で作品を展開しているらしい。成長著しい、のではなく、地の力がある人だった、ってことなんだろうなあ。