担当:きり

 

1子ども食堂の誕生と歩み

1-1 子ども食堂の始まり

1-1-1 子ども食堂の最も古い事例

a 横浜市寿地区で1976年に開かれていたもの

b 寿地区は、日雇い労働者の街として知られる

c キリスト教会の牧師さんが、毎週土曜日に開催

d 経済的に厳しい家庭の多い地域で、キリスト教会が慈善活動として行う食事会のイメージ

→1976年の子ども食堂は「食べられない子」のいく所

1-1-2 「子ども食堂」という言葉を使用していなくても、子ども相手の共食活動は存在

a 自治会の子ども会活動

←地域の大人たちとの食事を通した交流

b 社会教育が活発な地域、低所得者が集住する地域

←経済的な厳しさや孤食に着目した子ども相手の共食活動

 

1-2 子ども食堂誕生の背景

1-2-1 リーマンショック

←2008年9月にアメリカ発の経済危機として起こり、日本を含む世界経済に深刻な打撃を与えた

a その後提唱されたのが、「包括的な成長(Inclusive Growth)」

←大多数の人を切り捨てる格差拡大型の成長ではなく、底辺もともに持ち上がってくるような成長を表現

1-2-2 SDGsとのつながり

a 「持続可能な開発目標」

b  2015年に、2030年までに世界が到達すべきゴールとして世界180の国と地域で17の国際目標が合意された

c SDGsのメインスローガンである「誰一人取り残さない社会の実現」は、「包括的な成長」の理念を引き継いでいる

d 子ども食堂は「にぎわいをつくりたい。そこから弾かれる子どもを減らしたい」という思いを共有している

←SDGsの基本理念と一致

1-2-3 東日本大震災

a 2011年3月11日に発生

b 「ふだんの、くらしの、しあわせ」という広義の福祉の貴重さを痛感させた

c ふだんからの地域のつながりの大切さを強く意識させた

d これを身の回りでつくっていこうという動きは、まさに子ども食堂が目指すもの

 

1-3 現代的な子ども食堂の始まり

1-3-1 2012年、東京都大田区で近藤博子さんが「こども食堂」ののれんを掲げた(写真1)

a 近藤さんは、「子ども専用食堂」「食べられない子たちの場」にするつもりは最初からなかった

b 近藤さんが子どもの貧困問題に関心を寄せていなかったわけではない

→「どなたでもどうぞ」というスタンスを取りながら、一緒に食べる人たちのなかにそれでお腹いっぱいになれる子がいるなら、それこそ子ども食堂冥利に尽きる

 

1-4 貧困対策としての子ども食堂の始まり

1-4-1 こども食堂の育ての親、栗林知絵子さん

a 東京都豊島区でプレーパークを主催していた

b そこで学習支援ボランティアを行ったところから、無料塾、子ども食堂へと活動を展開

1-4-2 時代的な背景

a 2013年「子どもの貧困対策の推進に関する法律」制定

→地域でどんな取り組みが可能なのか、社会的な関心が高まる

b 子どもの貧困問題に関心を寄せる地域の女性たちに、自分の手に届く取り組みとして子ども食堂という形を掲示

 

1-5 子ども食堂の広まり(図1)

1-5-1 2016年、朝日新聞が、「319箇所まで確認できた」という旨を報道

1-5-2 2018年には、2286箇所まで増加

a全国の子ども食堂が開催回数を積み重ね、徐々に実態が地域に浸透し、理解が広がる

b 地域交流拠点としての機能と価値に反応する人々が続々と子ども食堂を開催

1-5-3 2019年には、3718箇所となる

a 同じ地域で展開する子ども食堂同士の横のつながりをつくるネットワーク化の動き

b 地方自治体との官民共同

Ex) 補助金支給、コーディネーター配置

1-5-4 2022年には、7363箇所に

 

1-6 子ども食堂の特徴

1-6-1 市民の中から自然発生的に生まれた活動

1-6-2 基本情報

a 目的:こども、その親、および地域の人々に対し、無料または低額で食事や暖かな場を提供すること

b 運営主体:主にNPOや地域住民などの地域のボランティア

c サービス提供頻度:月に1、2回のところが多い

d 法的根拠:なし

e 運営費調達手段:寄付、会費、国・自治体の補助・助成金

f 会場:公共施設(公民館・児童館など)、団体所有の施設、他団体・個人等所有の施設を有償または無償で借りる場合

g 子どもは無料、大人は有料のところが多い

 

1-7 子ども食堂に対する認識

1-7-1(株)インテージリサーチの調査(2019年)(図2)

a 子ども食堂の認知度は82%強

b 2018年から2019年にかけての変化を見ても、10ポイント近く上昇

→「子ども食堂」という名称は、多くの人にとって「聞いたことのある言葉」に

1-7-2 子ども本人への調査(朝日小学生新聞、2018年)(図3)

a 「近くに子ども食堂があれば行ってみたいか」という問いには、65%が行ってみたいと回答

1-7-3 日本老年学的評価研究機構の調査(2018年~2019年)(図4)(図5)(図6)

1-7-4 対象者

a インターネット調査

→小学校1年生から中学校3年生の子どもを持つ保護者3420名

b 子ども食堂開催日に行った質問紙調査

→こども食堂かくしょうじに参加する小学校1年生から中学校3年生の子ども58名とその保護者43名

1-7-5 こども食堂はどのようなところだと思うか

1-7-6 こども食堂を利用している子どもの75.9%、保護者の67.4%が「誰でも行けるところ」と回答

a 一般の人全体では、30.9%のみ

1-7-7 「みんなで一緒にごはんが食べられるところ」「皆で一緒に食卓を囲めるところ」という認識

a 利用している子どもの84.5%、利用している保護者の53.5%

b 一般の人全体では29.7%にとどまっている

→実際に利用したことのある人とない人では認識が異なる

 

1-8 子ども食堂の機能

1-8-1 「地域づくり」

a 少子高齢化、地縁コミュニティの希薄化、ライフスタイルの多様化、一人暮らしの増加

→地域から「にぎわい」を減らしていった

b 子どもから大人までが集う光景は、「子ども会」を思い出させるもの

→福祉や子どもの貧困問題に強い関心を持たない人たちまでも惹きつける要因

c 子ども食堂は「おなかをすかせた子がいなくなれば不要になる活動」ではない

d 「人がそこに暮らしているかぎり、あったほうがいい活動」

1-8-2 子どもの貧困対策

a 先進諸国の貧困は「見えにくい」

←飢えているわけではなく、見た目もほかの子と何もかわらない「黄信号の子」

b 放置すれば、一部は赤信号に転落するおそれ

c 子ども食堂は、黄信号の人たちが「青信号の顔をして」訪れることができる場所

d 地域のお祭りや商業地のイベントと異なり、子ども食堂の運営者には「気づきたい、気づいたら自分にできる手助けをしたい」という意思がある

→子ども食堂に貧困の予防対策としての機能をもたせる

1-8-3 食育や孤食対応

1-8-4 親支援、子育て支援、虐待予防

a 核家族化、長時間労働における夫の家庭不在

→現在の子育ては母親一人に強く依存した形に

b 子ども食堂では、地域の大人が子どもを見てくれる

c 母親同士の交流が生まれる

→母親に「レスパイト(休息)」を提供する場に

1-8-5 高齢者の健康づくり

a 子ども食堂は、地域の高齢者に子どもと関わる機会、そこでの役割(お役立ち感)を提供

b 調理ボランティアの主力が60代70代の高齢者だという子ども食堂も珍しくない

c 子どもと関わり、「誰かのためにがんばる」ことにより気持ちの張りを保つことができる

 

2これからのこども食堂

2-1 「小学校区に1つ」をめざす

2-1-1 小学校区=小学生などの子どもが歩いて行ける範囲

2-1-2 徳島県のある子ども食堂にて

a いつも通ってきていた小学生が急に姿を見せなくなる

b 運営者がしばらくしてたまたまその子に会った

c 子ども食堂に来なくなった理由を尋ねると、小学生は一人で学区外に行ってはいけない、という決まりがあったからであった

d その学区には子ども食堂は無かった

→隣の学区にあっても、実際にアクセスできないのは。その子にとっては「ない」も同じ

2-1-3 「すべての子がアクセスできる状態の実現」は、子ども食堂の人たちの願い

 

2-2 やりたい人が「やりたい」と言える環境に

2-2-1 子ども食堂に関心を寄せる地域の人たちはとても多い

a 短期間で爆発的な広がりを見せる

b 子ども食堂は依然として「食べられない子が行くところ」と思われている

→抵抗感を抱く人も少なくない

c 「『やりたい』と言えない」と感じる人がまだまだたくさんいる

 

2-3 すでに始まっている取り組み

2-3-1 立ち上げ支援の講座やワークショップの開催、マニュアル作成

a 子ども食堂の運営者等が、これから立ち上げを検討している人たちに向けた講座やワークショップを開催

b 地域ネットワーク団体がそれらのノウハウをまとめた冊子をつくって配布

c 特にボランティア経験がない人にとっては、実際に運営している人達の経験を聞くことは何よりの力になる

d 自治体などによる計画的支援、コーディネーター委嘱

e 立ち上げ支援の補助金を用意

f 事業を担う団体を、自治体が「コーディネーター」として委嘱

g 立ち上げ支援講座の企画・運営

h それを聞いて関心を高めた人に見学先を紹介

i 電話等の相談に応じる

j 活用できる行政や民間の補助金の紹介

k 立ち上げた際には顔を出し、支援企業・団体・個人をつなぐサポートを行う

2-3-2 広報啓発

Ex) 自治体の広報誌で積極的にとりあげる、「子ども食堂マップ」を作成・配布する、市のホームページに掲載する

a 子ども食堂のことを「よくわからない」と感じている人たちの不安を払拭

b 「市も応援している取り組みらしい」という認知を広げる

→間接的に「やりたい人がやりたいと言える環境」を整える

2-3-3 自治体の関与宣言は、民間活動である子ども食堂に行政の「お墨付き」を付与することにつながる

a 子ども食堂に批判的な人の声を弱くしてくれる

Ex) 埼玉県・滋賀県の知事「全小学校区に子ども食堂を含む子どもの居場所ができるようお手伝いする」

Ex) 山口県知事「こども食堂応援宣言」

 

2-4 多様な業種が子ども食堂に参入

2-4-1 子ども食堂の数をさらに増やしていくためには、さまざまな業界が業界単位で子ども食堂を開設することを促していく必要がある

2-4-2 お寺

a 布教や葬祭の場のイメージ

b もともと、地域における教育や文化、福祉の拠点としての役割も担っていた

c 子ども食堂は、こうした本来のお寺の機能を復活させる取り組みといえる

d 様々な宗派で子ども食堂を開設していこうという取り組みを始めている

2-4-3 保育園

a 宮城県仙台市「おうち保育園かしわぎ」にオープンした「ほいくえん子ども食堂」

b 子どもの成長を支え、子育て世帯を地域で支援する仕組みとして大きな期待と可能性がある

 

2-5 企業の取り組み

2-5-1コンビニエンスストアのファミリーマート

a 「ファミマこども食堂」

b イートインスペースを有する全国300店舗で開催(2020年2月時点)

2-5-2 ソシオークホールディングス

a 学校給食事業や保育事業などを展開

b 「てしおこども食堂」を品川区に開設

2-5-3 吉本興業グループの沖縄ラフ&ピース専門学校

a 「あそぶガッコ食堂」

b イベントスペースに併設

 

2-6 子どもの主体性確保に向けて

2-6-1 子ども食堂の多くが大切にしている価値の一つに「子どもは、常に世話をかけるだけ、助けられるだけの存在ではない」というものがある

2-6-2 子どもも一緒に食事作りをする子ども食堂は多い

a 子どもが一方的に世話をされる立場でばかりいないように

2-6-3 中高生になってボランティアで参加する例も

a 何年か継続している子ども食堂では、かつて食事や学習の支援を受けていた子どもが中学生、高校生になってスタッフとして参加

b 自分がしてもらったから、それがうれしかったから、今度は自分が、と自然に発想できる

2-6-4 大人は人生のロールモデル

a 子ども食堂に集う子どもたちにとって、年長者の存在は大きい

←少子社会、核家族化により、身近に接する大人は親、学校の教師、習い事のコーチだけ、という子どもも

b きょうだいの少ない環境で育つ子どもにとって異年齢の子どもとのふれあいは貴重

c 親や先生とは違う役割をもつ大人との出会いは新鮮かつ有意義

d 視野を広げ、多様な価値観を知り、そこから自分の将来像を描いていくためにもなるべく多くのロールモデルと出会えることが望ましい

e 子ども食堂はそのための大きな役割を担っている

 

2-7 誰もとりこぼさない社会へ

2-7-1 「誰もとりこぼさない」はSDGsの中心理念

2-7-2全国こども食堂支援センター・むすびえは、「こども食堂の支援を通じて、誰も取りこぼさない社会をつくる」というビジョンを掲げて活動

←子ども食堂の広がりは、「誰も取りこぼさない社会をつくる」ために必要

 

2-8 子ども食堂は人をタテにもヨコにも割らない場

2-8-1 多くの子ども食堂は、「どなたでもどうぞ」とオープン型・共生型で運営

→「人を割らない、選別しない、評価しない場」

2-8-2 子ども食堂の爆発的な広がりは、このような場が人々から求められていることの証

2-8-3 学校教育システムは、人をタテ(年齢や属性)とヨコ(所得)で割る

a そこから選別と評価が生まれることも

 

2-9 民間か、行政か

2-9-1 民間のままか行政が担うべきか、両方の意見あり

a 本来このような福祉的活動は行政が政策として税金を使ってなすべき

b 行政が手を出すべきではなく、民間の様々な寄付や助成金などの支え合いのなかで運営されていくべきもの

2-9-2 民間の弱み

a 税金が投入されない

→財政的に脆弱である、ボランティアでは人手が十分に集まらない、スタッフの専門性が担保されない

2-9-3 民間の強み

a 子ども食堂は、0歳から100歳までの幅広い人たちが交流する「多世代拠点」

b 運営者の人たちは、気づいた課題に柔軟かつ臨機応変に対応

Ex) 誕生会をやってもらったことのない子どもがいたら、盛大な誕生会を子ども食堂で行う

c 周囲からの支援が集まる

Ex) 地域の事業者、農家さんなどいろんな地域住民たちが寄付をくれたり、ボランティアに参加してくれたり、規格外の野菜を提供してくれたりする

2-9-4 行政の強み

a 税金により、運営するための諸基盤が整えられる

2-9-5 行政の弱み

a 柔軟性・発展性に乏しい

Ex) 限定的な利用者、制度内での運営

2-9-4 民間にも行政にもそれぞれ強みと弱みがある

a お互いの強みを尊重し合うことが重要

 

2-10 子ども食堂の持続可能性

2-10-1 資金・資源の必要性を考える

→民間の強みを生かす方向に進んでいくことが重要

a 食材や場所の提供や、ボランティアの参加によって支出を下げる

→ガツガツ集めなくても運営できる体制をつくる

b 収入としては、会費や寄付、それに一部で民間や行政の助成金・補助金を充てていく

c 特別な出費にはクラウドファンディングなども考える

 

2-11 行政は「民間独自の活動なので手を出すべきではない」でよいのか

2-11-1 民間の理解を広げていく取り組みこそが、行政の新しい支援と政策化を引き寄せていく

a 支援の輪が広がり、多世代交流拠点のもつメリットが多くの地域の人たちに理解される

b そうした場所を支えるための税金が投入されることに対して、国民との約束ができる

c 今はまだ多くの人の納得を得ることができていない

→民間としてがんばって、理解を広げていくことが、望ましい形での政策化を可能にする

 

3 子ども食堂の実例

3-1 朝ごはんやさん(大阪市東淀川区)

3-1-1 基本情報

a 開始:2016年10月~

b 場所:大阪市立西淡路小学校 家庭科室

c 実施日:週 3日(月・水・金)

d 登校前の 7:30~8:30までの間 1時間

e 担い手:地域のおばちゃんが中心

3-1-2 学校での活動が可能になったワケ

a 代表、表西弘子さんは「食べられない子」のために朝ごはんを提供したいと考えていた

b 大阪市の区民提供型事業に応募したが、とりあってもらえなかった

c 見かねた校長が「うちの家庭科室、使います?」と助け船を出した

←地域で半世紀にわたって活動してきた人への信頼感

3-1-2 学校で開催するにあたっての工夫

a 「家庭環境の厳しい子」というレッテルが貼られてしまうかもしれない

b 校長と表西さんは、PTA役員に頼み、役員の子どもたちにも来てもらうなどして「いろんな子が行ってる」感を出した