担当:きり
1 オルデンバーグのサードプレイス概念
1-1 サードプレイス:第一の家、第二の職場に続く「第三の場所」
1-2 機能
1-2-1 近隣住民を団結させる
1-2-2 新入りが古株に引き合わせてもらえる
1-2-3 「仕分け場」としての役割
a 共同作業で役立ちそうな能力に基づいて人々を仕分けする
1-2-4 中間準備地としての機能
a 災害などが起きたとき、情報を得たり、協力したり、援助を仰ぐ必要があるとき
1-2-5「顔役(パブリック・キャラクター)」と呼ばれる人々を供給する
←近所のあらゆる人を知っていて、近所のことを気にかけている人
1-2-6 若者と大人を一緒にくつろがせ、楽しませる
1-2-7 年配者が現役の人々と接触を保つ手段を提供する
1-2-8 毎日のように通うことができ、会合の主催地にもなりうる
1-2-9 娯楽をもたらす
1-2-10 コミュニティへの帰属意識をもたらす
1-2-11 政治討論の場
1-2-12 知的討論の場
1-2-13 執務室(オフィス)の代わり
1-3 特徴
1-3-1 中立の領域:個人が自由に出入りでき、誰も接待役を引き受けなくて済み、全員がくつろいで居心地よいと感じる場所
1-3-2 会話が主な活動
1-3-3 サードプレイスとして機能している施設のほとんどが、一日のどんな時間帯にも利用できる
1-3-4 サードプレイスでの活動は、無計画で、型にはまらない
1-3-5 常連の存在
2 日本型サードプレイスの分類
2-1マイプレイス型
2-1-1 周りを気にせず個人で居心地よくすごす
2-2 社交的交流型
←社交的な交流を主な目的とする
2-3 目的交流型
←社交以外の具体的な他の目的を明確に意図する
3 サードプレイス概念の拡張
3-1 「バーチャルサードプレイス」
←オンラインへと拡張されたサードプレイス
3-2 「演出された商業的サードプレイス」
←飲食だけが目的であり、個人のプライバシーが強調される消費であるが、アットホームな演出がされている場合
3-3 「テーマ型サードプレイス」
←テーマコミュニティであるサードプレイス
3-3-1 テーマコミュニティ:時間をかけて特定のテーマに取り組むことを中核に据えるコミュニティ
3-4 テーマ型サードプレイス・バーチャルサードプレイス
→目的交流型
3-5 伝統的サードプレイス : オルデンバーグの提唱したもの
→社交交流型
3-6 演出された商業的サードプレイス
→マイプレイス型
4 日本のサードプレイスの現状
4-1 サードプレイスへの期待
4-1-1多様な人々が集うため、日常生活ではかかわりを持たない者との出会いや対話の機会を提供
4-1-2 断片化した地域社会を統合し公共意識を養う機能を持つと考えられている
4-2 伝統的なコーヒーショップのような他者との会話や交流を楽しむ場所は減少しつつある
←街路やレストランなどでの集合的経験から、テレビの前での個人的経験にライフスタイルが変化したため
4-3 「コミュニティカフェ」などの地域の拠点をつくる取り組み
4-3-1多くは、テーマ型サードプレイス
Ex)子育て支援、障がい者の生活自立支援
4-3-2 明確なテーマを掲げない、社交の場としてのコミュニティカフェづくりも行われている
4-4 まちの居場所づくりは、近年問題となっている社会的孤立を解決するために有効である
4-5 コミュニティカフェの問題点
4-5-1交流を好む一部の人々に専有されやすくそれ以外の人々が排除されやすい
Ex)高齢者や女性の利用者がなじみを形成しやすく、若者や男性が気軽に立ち寄れない雰囲気が作られやすい
5 公共空間における構造的問題
5-1サードプレイス利用の傾向
5-1-1自分の時間を過ごすために公共空間を利用する人々は近年増加している
←マイプレイス型のサードプレイス利用
5-1-2 サードプレイスは交流を好む人々に専有されがち
←伝統的サードプレイスの利用
5-2誰もが通える居場所
5-2-1一人で過ごしたい人と、みんなで過ごしたい人の両方が利用できる場
→構造的に困難
5-3 居心地の良さを作り出す要因
5-3-1場所が持つ物質的要因
Ex)照明・空間のデザイン・音楽・コーヒー
5-3-2社会的要因
Ex)店主のパーソナリティ・情緒的なつながりを感じられる人々がそこに居るか・仕事や仕事上の立場から逃げられる場所であるか
5-4 居心地の良さを生み出す社会的要因が共有を妨げる原因となっている可能性がある
5-4-1 社会的要因は利用者ごとに全く異なる
a 仕事や仕事上の立場から逃れたい人たちにとっては、職場の同僚がその場に居ることは居心地の悪さを作り出す
b 会話や交流を通した情緒的なつながりを求める人たちにとっては、知人や友人がいることは居心地の良さとなる
5-4-2 物理的要因は利用者によらず、おおよそ同じ傾向の印象を与えることが報告されている
5-4-3 一方の利用行動が居心地の良さを作り出す社会的要因を介してもう一方の利用行動を阻害する
←構造的問題
a 社会的要因は場所に集う利用者によって作り出されるという側面を持っている
b 交流を好む利用者が増えればそれだけ会話や交流の機会が増え、自分の時間を過ごしたい利用者にとっては居心地の悪い場所となる
c 自分の時間を過ごしたい利用者が増えればそれだけ会話や交流の機会は減り、ゆえに交流を好む利用者にとって居心地の悪い場所となる
5-5 利用傾向別の分類(図1)
5-5-1伝統的なつながりや関係性より自らの楽しさや充実感を重視し、自分の時間を過ごせる居心地の良さを求める
→個人志向の人々
5-5-2 他者との会話や交流という居心地の良さを求める
→社会志向の人々
5-5-3 社会的つながりを失うリスクにさらされている個人志向の人々
a サードプレイスでの共存は個人志向の人々に社会志向の人々との偶然の出会いや交流をもたらす
b 地域コミュニティなどの既存の社会関係への再統合を促す
5-6公共空間を社会志向の人々と個人志向の人々が共存できるサードプレイスとして設計する
→居心地の良さを作り出す社会的要因に注目し、専有を引き起こす構造的問題を解決する必要がある
6 シミュレーション方法
6-1 仮説
6-1-1サードプレイスでは会話や交流に起因して居心地の良さが生み出されており、その居心地の良さに誘引された行動が一方の志向による専有を引き起こしている
6-2 エージェント・ベース・モデル(ABM)の構築とシミュレーション(エージェントシミュレーション)
←各主体の意思決定と相互作用をモデル化し、相互作用の結果としてどのような集団行動が現われるかを観察するアプローチ
6-2-1 ある利用者の行動が居心地の良さを介してほかの利用者の行動に影響を与える、といった関係を適切に表現できる
6-2-2 ABMは、複雑な影響関係にある設計の効果を評価し、統制された条件の下で結果を比較することを可能にする
6-3ある一つのサードプレイスとそれを利用する可能性がある潜在的な利用者集団をモデル化
6-3-1利用者の行動は特に交流や会話に起因して発生する居心地の良さに動機づけられた行動に着目してモデル化
a 社会志向と個人志向の人々によってサードプレイスがどのように利用されるかをシミュレーションから観察
6-4 利用者の行動を単純化
6-4-1 各利用者はある単位期間ごとにサードプレイスを訪れるかどうかの意思決定を行う
a サードプレイスを利用して居心地が良かった場合
→次の期間もサードプレイスを訪れやすくなる
b 居心地が悪かった場合
→訪れにくくなる
6-5 一人の利用者を一体のエージェントとして表現
6-5-1社会志向の人々をモデル化
→社会志向エージェント
6-5-2個人志向の人々をモデル化
→個人志向エージェント
6-5-3 2種類のエージェントは居心地の良さを感じる基準やサードプレイスで交流する傾向が異なる
6-6 地域住民のために開かれる小規模なコミュニティカフェをサードプレイスとして具体的に想定
7 シミュレーション結果
7-1何も設計が施されていない状況(図2)
7-1-1図について
a白は共存が実現した試行、薄いグレーは社会志向エージェントに専有された試行、濃いグレーは個人志向エージェントに専有された試行の割合を示している
b 横軸は個人志向エージェントの割合
7-1-2 個人志向エージェントが少ない、また多い条件では、個人志向エージェントによる専有が起こりやすい
7-1-3個人志向エージェントと社会志向エージェントの数が同じ程度の条件では社会志向エージェントによる専有が起こりやすい
7-1-4 個人志向エージェントの数が多い条件では、いくらか共存が起こる
7-2 利用エージェント数の推移(図3)
7-2-1図について
a 社会志向専有となったある試行の利用者の推移
b 青線:個人志向エージェントの利用数
c 赤線:社会志向エージェントの利用数
7-2-2 専有の切り替わりを含むやや複雑な過程であることがわかる
7-3 利用者数の増加減少が起こるメカニズム(図4)
7-3-1 初期段階(Ⅰ)では、利用者が十分集まっていないため、交流が起こる回数は少ない
a 個人志向エージェントにとって居心地が良くなる
→個人志向の利用数の拡大と継続利用が進む
b 社会志向エージェントにとっては居心地が悪い
→社会志向の利用は拡大しない
7-3-2 切り替わりが起こる(Ⅱ)では、個人志向エージェントの利用者数が増えたことで、一部の社会志向エージェントの閾値を超える数の交流が起こり始める
a 閾値:ある判断を下すための基準点や限界値を指す言葉
b 閾値が低い一部の社会志向エージェントの定着が起こり、サードプレイスでの交流が増加する
c 増加した交流は、わずかに閾値が大きいほかの社会志向エージェントを定着させ、交流をさらに増加させる
d この繰り返しにより、社会志向エージェントは段階的にすべて定着する
e 一方で、増加した交流は段階的に個人志向エージェントの閾値を上回っていくので、個人志向の継続利用は減少していく(以降、継続利用が止まることを離脱と呼ぶ)
7-3-4 社会志向エージェントが多数定着する(Ⅲ)
a サードプレイスで起こる交流のほとんどが社会志向エージェントの閾値を超えるため、社会志向エージェントの離脱は起こらない
b 同時に、ほとんどの個人志向エージェントの閾値を超えるため、個人志向エージェントの定着は起こらない
→社会志向に専有された状態で安定
7-3-5 分析
a 個人志向エージェントが少ない条件では社会志向による専有は起こらないといえる
←個人志向エージェントが少なく、社会志向エージェントの閾値を超えるほどの交流も起こらず、個人志向による専有期間(Ⅰ)で安定するため
b 個人志向エージェントが多い条件では共存が起こる
←社会志向エージェントが少なく個人志向エージェントの閾値を超えるほどの交流が起こらず、切り替わりが起こる期間(Ⅱ)でいくらかの個人志向の利用者が離脱せずに残るため
7-4共存と個人志向の寛容さ(閾値の高さ)
7-4-1 個人志向が不寛容
a 個人志向しか利用しない期間(Ⅰ)において、不寛容さゆえに多くの個人志向エージェントが離脱
b 全てが離脱するわけではなく、社会志向エージェントが定着するために必要な量の交流が生じない
c 個人志向の専有状態となる
→共存不可能
7-4-2 個人志向が寛容
a 期間(Ⅰ)でわずかに離脱していた個人志向エージェントが、寛容になったために離脱しなくなる
b 個人志向エージェントの割合が少なくても充分な数の個人志向が定着し、ゆえに社会志向エージェントの定着が可能になる
c 多少の社会志向エージェントが利用していたとしても、専有の切り替わり期間(Ⅱ)で離脱する個人志向の利用者が少なくなる
→個人志向エージェントの数が少ない状況で、社会志向の専有や共存が起こりやすくなる
7-4-3 個人志向の寛容さ(閾値の高さ)は、個人志向の利用を拡大するのではなく、社会志向による専有と共存を促進する
7-5 居心地の良さを作り出す物理的要因と二つの志向の共存(図5)
7-5-1 居心地の良さを作り出す物理的要因は、個人志向エージェントの割合が多い状況では、共存を促進
7-5-2個人志向エージェントの割合が中程度もしくは少ない状況では、社会志向による専有を促進
7-6 二つの志向間のコミュニケーションの操作
7-6-1 実際のコミュニティカフェやチェーン店カフェでは、空間配置などの設計を通して利用者間で起こるコミュニケーションを操作し、それにより居心地の良さを作り出している
a 偶然の会話が生まれるように慎重に配置されたカウンター席・店主の声かけの計らい(コミュニケーション促進条件)
→社会志向の人々に居心地の良さを提供
b 一人がけの机や個室(コミュニケーション抑制条件)
→個人志向の人々に居心地の良さを提供
7-6-2 図について(図6)
a薄いグレーは社会志向エージェントに専有された試行、濃いグレーは個人志向エージェントに専有された試行、黒は非利用となった試行の割合を示している
b 二つの志向のコミュニケーションを抑制することで、個人志向の専有が促進される(a)
←個人志向による専有期間(Ⅰ)でどれだけ個人志向エージェントの利用者数が増えても、社会志向エージェントが定着するために必要な量の交流を得られないため
b 二つの志向のコミュニケーションを促進することで、社会志向の専有が促進される(b)
c ただし、非利用となる試行もあらわれる
7-6-3コミュニケーションの操作は、共存を促進するというよりは、一方の志向による専有を促進する
7-7 コミュニケーションの操作に加えて、物理的要因からの居心地の良さを提供した場合
7-7-1コミュニケーション抑制条件では、物理的要因の明らかな効果はない(c)
7-7-2コミュニケーション促進条件では、社会志向の専有がさらに促進される(d)
7-8サードプレイスの利用を動機づける外的要因の強さとサードプレイスの状態の関係(図7)
7-8-1 図7について
a薄いグレーは社会志向エージェントに専有された試行、黒は非利用となった試行の割合
b 横軸はサードプレイスの利用を動機づける外的要因の影響の強さ
c 外的要因の影響が弱いほど、専有阻止を意味する非利用が増加
Ex)広告や宣伝、口コミがあまり行われない状況
d 外的要因の影響が強いほど、非利用が減り、社会志向専有になる
8 まとめ
8-1多くの条件で一方の志向によるサードプレイスの専有が起こる
8-2集団に含まれる個人志向エージェントの割合と個人志向エージェントの交流への寛容さによって、どちらの志向の利用者に専有されるか、共存が起こるかが変わる
8-2-1 物理的要因に起因した居心地の良さを提供することで共存を促進できる(7-5-1 図5)
a ただし、物理的要因に起因した居心地の良さの提供は、個人志向の者が十分に存在しなければ共存を促進しない
8-2-2 2つの志向間のコミュニケーションを促進することで一方の志向による専有を妨げることができる(7-6-2 c 図6)
8-2-3外的要因の影響が弱い状況では、非利用が増加し、専有を阻止できる(7-8-1 c 図7)
8-3 社会志向の人々に専有された場所を、個人志向の人々も共存できる場所にしようとする
8-3-1 常識的には、個人志向の人々にとって居心地の悪さの原因を取り除くことを考える
a コミュニケーションの抑制を試みる
8-3-3 実験結果より、逆にコミュニケーションを促進することが有効であるとわかった
Ex) コミュニティセンターや公民館で利用者の流動性を高めたいとき
a 社会志向に専有されやすい
→積極的に宣伝しない(外的要因の影響が弱い)ことで、専有を防止できる
8-4 2つの志向間のコミュニケーションを促進し、物理的要因に起因した居心地の良さを提供すること
→社会志向と個人志向が共存する上で有効な方策となる