担当:ふて

1. 孤独を理解する
1-1 目の前にあるのに気づかないもの
1-1-1 「1」は最も孤独な数字とは限らない
a 「loneliness(孤独)」:「自分が欲する社会とのつながりが
欠けている」という主観的な感情
b 「親密圏の孤独(感情的孤独)」
←愛と信頼の絆で深く結ばれた親友や親しいパートナー
を欲している
c 「関係圏の孤独(社会的孤独)」
←良質な交友関係や社会的なつながりとサポートを求め
ている状態
d 「集団圏の孤独」
←目的意識や関心を分かち合える人的ネットワークやコ
ミュニティーに飢えている状態
f 上記の3つの領域のどれかが欠けると孤独を感じる可能
性がある
←結婚生活は充実しているが、友人やコミュニテ
ィを求めるなどが起こる
g 社会的なつながりをどの程度求めているかは個人差が
あるため「孤独を防ぐためには何人友達を作った方がいい
か」ということは語れない
h「loneliness(孤独)」という主観的な感覚と違い「, isolation(孤
立)」は客観的・物理的に周りと交信がないこと
←人と関わる機会が少ないため孤独を感じやすいと考え
られている
i 人に囲まれていても孤独を感じることがあったり気持
ち上では一人きりだと感じることもありうる
→物理的に一人であることが孤独に直結するとは限ら
ない
j 心の安らぎが孤独かどうかを決める
k 「solitude(単独であること)」:「loneliness(孤独)」とは異
なり自ら進んで周りから離れている状態であり、内省の時
間になる
l 「solitude(単独であること)」により内省が進んだ結果心
が安らぎ、「loneliness(孤独)」から逆説的に自らを守ること
につながる
1-1-2 孤独にまつわる調査
a ヘンリー・J・カイザー・ファミリー財団の2018 年の報

告書←アメリカの全成人のうち 22 パーセントが孤独感を
感じている
b 「UCLA 孤独尺度」を用いた AARP(全米退職者協会)の
2018年の調査
←アメリカの 45 歳以上の3人に 1 人が孤独であると答え

c カナダでは中年及び高年層のうち、約5分の1の男性と
約4分の1の女性が週に一回かそれ以上孤独を感じると
答えた
d オーストラリアでは成人の4分の1が孤独を感じてい

e イギリスでは20万人以上の高齢者が「自分の子供や家
族や友人たちと電話で話したりする頻度が週一回より少
ない」と報告された
f 日本では政府が定義する「引きこもり」という社会的撤
退状況に該当する人数が100万人いる
g 人は孤独であると、孤独を自らの汚点だと捉えて他人と
のつながりを避けるようになる
→さらに人と交流する機会が減っていき孤独が加速する
ことにつながる
h また周りにいる人も「心の問題はセンシティブであるか
ら」と深く探ることをためらうようになってしまう
→さらに孤独感が増し、ドラックやアルコールなどにより
自己破壊的な行動が起こるリスクが高まる
i こうした孤独のサイクルを食い止める方法は、社会との
つながりという誰もが持っている重要な欲求の存在を認
めること
←普遍的な欲求であると認めることで孤独に対する負の
イメージを払拭することができるため
j オリンピックで23個の金メダルを獲得したマイケル・
フェルプスのようなプロアスリートやレディーガガ、J・K・
ローリング、ドゥエイン・「ザ・ロック」・ジョンソンの
ような文化人が自身のうつ病の経験を公表するようにな
った
→孤独やうつは身近な問題で、人とのつながりを求めるこ
とは普遍的な欲求であるという認識を浸透させるのに役
立った
1-1-3 生死に関わる問題
a ジュリアン・ホルト・ランスタッド博士は大学卒業後人
間関係の研究に取り組んだ
b ジュリアン・ホルト・ランスタッド博士は社会とのつな
がりが強い人は弱い人より早死にする確率が 50%低いこ
とを明らかにした
←一日に煙草を 15 本吸うことと同程度寿命を縮め、肥満
やアルコールの過剰摂取や運動不足よりも大きなリスク
c この研究が世間に浸透する
→イギリスやオーストラリアの機関が自国の孤独問題に
ついて対処するプランを立てるためにジュリアン・ホル
ト・ランスタッド博士に諮問をする
d またさらなる研究で孤独感を感じている人は相対的に
睡眠の質が低く、免疫システムに障害が起こる可能性が高
く、衝動的な行動を起こしやすく、判断力が下がると示唆
した
1-1-4 欠けていたピース
a 2013 年に行われた調査でイギリスの開業医の 75 パーセ
ントが、孤独を主因とする患者が毎日1人から5人はいる
と回答した
b 開業医のヘレン・ストークス=ランパードは「英国家庭
医学会」の会長で就任演説の際孤独の苦しみについて言及
した
→イギリスの医師会は孤独への対処にほとんど対処して
こなかったため会の優先事項にした
c 上記の演説でヘレン・ストークス=ランパードは、晩年
に夫を亡くして深い孤独を感じているイーニッドという
患者とその患者に対して自らが施した治療やサポートの
仕方を紹介した
d ヘレンはうつ病患者であるイーニッドに抗うつ剤の処
方よりも、患者とコミュニケーションを取ることや様々な
コミュニティーの紹介を行うことを重要視した
e 最終的に地元の小学校とつながり持ち、家族と離れて暮
らしている若い母親の相談相手になった
→人とのつながりを得たことやアドバイス送ることによ
り他社を助けている実感が湧くようになり鬱の症状に改
善が見られた
f このような治療の仕方は「社会的処方(social prescribing)」
と呼ばれる
→ヘレンが行ったような患者が健全な社会的つながりを
構築するために、孤独が健康に害を及ぼし、そして人は一
般的に人とのつながりを求めるということに基づいて社
会資源やコミュニティ活動を紹介する(処方する)こと
1-1-5 社会的処方
a サチン・ゲイン医師もヘレン・ストークス=ランパード
と考えを持っていた
→社会とのつながりという観点で患者たちをサポートす
るために2017年に「トゥゲザネス・プログラム」を立ち上
げた
b 「トゥゲザネス・プログラム」は患者たちの家庭訪問や
毎週の電話、コミュニティ内の社会プログラムの紹介を行

→プログラムに短期間で600人もの患者から応募があった
c ヴァーダーという女性は糖尿病を発症しその合併症で
脚に慢性的な痛みを抱えるようになり働けず家に引きこ
もる
d アパートをシェアしていた成人した娘とも衝突するよ
うになった
→良好な人間関係を維持できずふさぎ込むようになって
いった
e 家にハガキが届き「トゥゲザネス・プログラム」のこと
を知り利用することを決めた
f 登録して数日後から定期的に「トゥゲザネス・プログラ
ム」の一環として「フォンパル(電話友達)」から電話がかか
ってきた
→人との何気ない会話によって心が休まるようになって
いった
g「トゥゲザネス・プログラム」に理解のある夫婦から家を
借りる
→一人暮らしをしながらその夫婦の飼い犬と生活するよ
うになりうつ病も改善した
1-1-6 死にゆく患者の願いを叶える病院
a ターン・ネビル医師はカナダの医師であるデボラ・クッ
クの取り組みを参考に「スリー・ウィッシーズ・プロジェ
クト」を始めた
← ICU 患者を対象にした死に際して疎外感を感じさせず
充実させるためのプログラム
b ミシェルは夫のヴィンセントが「骨髄異形成症候群
(MDS)」を発症しICU患者となった
c 病院スタッフは適切な医療措置を行ったが機械的な印
象をもち、精神的なサポートが不十分に感じたためミシェ
ルは孤独を感じた
d ミシェルは「スリー・ウィッシーズ・プロジェクト」を
利用した
→「スリー・ウィッシーズ・プロジェクト」はミシェル夫
妻にイベントを企画や困難な状況に陥った際にそばに居
続けた
e ミシェルの夫のヴィンセントが亡くなった後にはケア
チームの面々からお悔やみの手紙が届くなどのサポート
もあった
f 筆者は人は皆ありのままの自分を見てほしいという深い
欲求を持っていると主張している
→それが満たされるとより健康的で、より生産的で、より
充実した生活を送る傾向にある
g 反対にそれらが満たされないと苦しむことになる
h 人とのつながりは人間の生存に不可欠なものであり、進
化の過程で組み込まれたものだとするのは難しい
i 孤独に飲み込まれるのではなく、(飢えや渇きのように)そ
の不足を補う方法を探るべき
→孤独感を抱く期間を減らすことができるどころか、生活
に質を向上させられるかもしれない
1-2 孤独の進化史
1-2-1 孤独博士
a ジョン・カシオポ博士は孤独を飢えと渇きにたとえた最
初の人物
→彼の仕事はこの分野で中心的なものとみなされている
ため、多くの人は彼を「孤独博士(ドクターロンリネス)」と
呼んだ
→孤独は生化学的・遺伝的なルーツを持つ重要な警告のシ
グナル
b 大きな自動車事故で瀕死の重傷を負い、人生の終わりを
意識した際頭によぎったのが仕事や名声ではなく、愛する
人たちだった
→研究テーマを再考
→孤独に関して重点的に取り組むように
c オハイオ州立大学の大学院に進んでから社会的行動と
脳の関係や心の状態が身体に劇的な影響を与えるという
考えに興味を持つように
→大学院の教授等を含む懐疑派たちは、生物学的について
心理的要因から考えるという彼のアプローチを本格的な
科学とはみなさなかった
→社会的要因と神経系にはなんの関連性もない、と言われ
ていた
→最終的に大学院時代の旧友であり研究者仲間であるゲ
イリー・バーントソン博士とチームを組んで、「社会神経
科学」という分野を創設し生物学的システムと社会的プロ
セスの相互作用を理解することに尽力
d シカゴ大学で大きな研究プログラムを立ち上げ、社会心
理学科を率い、認知・社会神経科学研究センターを作り、
そこでの研究で、現代における孤独への理解を変えた
←孤独やつながりが生物学的プロセスに与える影響を詳
しく説明
「社会的なつながり」に対する人間の欲求が、単純な感情
やその場の都合で生まれるものではないことを明らかに
した
←孤独は、その欲求を満たせと伝えてくる警報として進化
してきたのだろう
1-2-2 進化の道筋
a 人間が種として生き延びてきたのは身体の大きさや強
さやスピードといった身体的なアドバンテージではなく、
社会集団のなかで繋がりを築く能力があったからという
考察
←人類の進化という点から孤独について考えるジョン・カ
シオポの説
←「人の強みは意思疎通をし、力を合わせて作業する能力
だ」
b 最初期のサルや類人猿は、これまで一部の科学者が考え
ていたようなペアとしてではなく、オスとメスを含む大き
なグループとしてつながっていた
←オックスフォード大学の人類学者チーム(2011)
←ジョンの説を裏付ける証拠

研究の筆頭著者のスザンヌ・シュルツ博士は、それまで夜
行性だった霊長類が日中に狩りを始め、天敵に見つかりや
すくなった時期からこうした傾向が始まっているという
仮説を立てた
→数が多いほうが安全でいられる
c 約300万年前のアウストラロピテクスが物を投げる能力
を身につけだしたころ、人間の祖先であるヒト科の動物に
とって特にグループでいることに価値があった
→心理学者のウィリアム・フォン・ヒッペル博士
→力を合わせていっせいに石を投げつけたほうが生き延
びやすくなる
投げる力を身に着けてからの人間は利点があるため共同
作業を多く選択するように進化した
→協力することで、未来の計画を立てることが可能になっ

→狩りや採集で得たものを備蓄し、飢える人間が出る可能
性を低くすることができた
→すぐに当時の人類は、周りと離ればなれになると襲われ
たり飢えたりする可能性が劇的に高くなることを学んで
いった
d グループの中でつながると、各自が交尾できる数と安全
が確保
→部族の増殖・存続が可能になっていった
信頼できる大人たちが一つの大きな家族のようにして子
育てを分担することによって、部族の生存を守るのに役立
った
→個人のみならず種全体も、社会的なつながりに生存がか
かっていた
e 「人間は、たとえいますぐ何かが得られるわけではなく
とも、考えているものを他者と共有するようになった地球
上で唯一の生物だ」
←つながりは生存の確率を高め、イノベーションの確率を
高め、種の創造性を強化するもの
←共通認識を築き、互いをより良く理解するのに役立ち、
長期的には協力関係や能率面でもアドバンテージになる
f 「人は感情的な共通認識を形成できるように進化してい
った」
→助け合うために相手を信頼してよいだろうか?といっ
た共通認識を記録し育んでいくために物語が発達
わたしたちの祖先の初期設定が「人とつながり合うこと(ト
ゥギャザネス)」であった
→狩猟採集民は時間の三分の一を仕事に、三分の一を車高
や子供のとの遊び、残りの三分の一を睡眠に費やしていた
ためほとんど離れることがないため、物語を交換する時間
がふんだんにあり、その状態を好んでいた
←人類学者たちの推定
g 人は、ひとりでいることを不快に感じるように進化して
いった
→初めて孤独が問題とされるようになったが、他者がそば
にいなかったとしても、物語が人とのつながりを感じさせ、
帰属意識を高めた
→ストーリーテリングが人間の価値観や目的意識やアイ
デンティティを強化し、心の絆を育むのに大きな役割を果
たしている理由の説明となる
→人間の社会的な進化は、身体的な進化と深く結びついて
いる
h ジョン・カシオポによれば孤独が「人類を種として規定
している社会的つながりに注意し、気を配れ、というシグ
ナルとして機能している」
→物語、感情、記憶、心配事などを共有することで帰属意
識を感じる
→人とのつながりが強ければ強いほど、文化は豊かになり、
社会もより強固になる
1-2-3 つながりを求める本能
a つながりを求める本能がどのように起動するのか
←人助けのような向社会的行動は、不安や怯えを減らしよ
り安心感を与えてくれる
人間は生物学的に、人と一緒にいるほうが心地よいだけで
なく、人と一緒にいることが普通だと感じるようにできて
いる
←このメカニズムを支えているのがオキシトシン、エンド
ルフィン、ドーパミンなどのホルモンや神経伝達物質を介
した体内の反応
オキシトシン
←不安やストレスを軽減してグループ内のつながりを促
進する一方で、グループ外部の人間に対する警戒を高める
エンドルフィン
←痛みの感覚を減らし、多幸感や恍惚感をもたらす
ドーパミン
←人とのつながりを強く後押しするものであり、孤立状態
になると増加して、仲間を探せと促してくる
b 神経科学の専門家マシュー・リーバーマン博士は人間が
ひとり座っているときの脳の活動には、社会的思考と非社
会的思考の異なる2つのネットワークで処理されているこ
とを発見
←何らかの非社会的思考を終えるたび、ほとんど一瞬のう
ちに社会的な思考のネットワークが反動のようにして返
ってくる
c 自分は極度に内向型だとかタスク指向型だと思ってい
たとしてもほとんどの時間、人間は他者のことを考え、常
に次の出会いや、恋愛や、衝突に備えている
←他者との関係が自分を規定している
d 「セルフ・プロセシング(self-processing)」
→個人的な判断をしているときや、個人の好みを味わって
いるときなどに活発になる活動のこと
e アイデンティティというものは、社会的なスポンジのよ
うに、周りからの影響を取り込んでいく
→人間の脳はつながりを求め、他者に意識を集中させ、周
りの人間を通して自分を規定している定義するように進
化してきた

f 他者の存在はたしかに必要だが、人とつながる能力も無
限にあるわけではない
→社会的な関わりを増えすぎるのを防ぐなんらかのメカ
ニズムを生み出しているに違いない
→そうしたメカニズムは存在する
1-2-4 味方か敵か
a 最初期の人類は、「全員が一様に他者に対してポジティ
ブな姿勢だったわけではない人は他人を利用したり、罰し
たり、脅したり、強要したりし合うものだ」
←味方である相手を間違って敵を敵だと判断してしまっ
た場合は、あまり問題ないが、間違って敵を味方だと判断
してしまった場合、命を失いかねない
←人間にはつながりを持つよう促す神経ネットワークだ
けでなく、誰とは友好関係を築かないでおくかに判断をサ
ポートするメカニズムも必要だった
←相手が信頼できる人物かを瞬時に見分ける能力
b 「知覚狭小化(Perceptional Narrowing)」
→脳の発達過程において、通常認識しない刺激を認識する
能力が弱まること
新生児は最初の1から2ヶ月は、ほとんどどんな顔にも関
心を持つが、生後3ヶ月を経つと知覚狭小化のプロセスが
始まり自分の家族の人種や民族の顔を好むようになる
←信頼できるサークル以外の人の顔を見分ける力が低下
していき、他人種の人たちの顔は区別できなくなっていく
が、自分と最も近く親しい人々のちょっとした微妙なシグ
ナルには、より敏感になっていく
←乳児は家族の面々の絆を深め、自分の安全や信頼感が強
まるシグナルを察知できなければならないが、それを学ぶ
には脳に大きなパワーが必要に確保するために習得しな
ければならない言語以外の能力は失われていく
←部族で暮らしていた祖先の時代には、知覚狭小化は帰属
意識を高め、敵かもしれない部外者から身を守るという決
定的に重要な目的を持っていた
d 部族から離れ、信用ならない部外者の中ひとりで取り残
されたりした場合「過覚醒(強い警戒状態)」となり、眠りは
浅く、身体には大きなストレスがかかるようになる
←最初に孤立の兆候が見えたとき、交感神経系が警戒態勢
に入り、不安が引き起こされ、闘争か逃走可の準備が始ま

←人間の身体は、孤立した状態や、ときには孤立の危機を
感じるだけですら、緊急事態だと読み取る
→孤独は精神的・肉体的疲労を引き起こす
なるため、知覚狭小化にはそうしたパワーを集中させるた
めに役立つ
c 乳児の関心外となった人種や民族の顔はだんだん見分
けられなくなっていく
←似たような選別のプロセスが言語でも起きている
←信頼出来る人々とコミュニケーションをとって安全を
確保するために習得しなければならない言語以外の能力
は失われていく