担当者:きと
1摂食障害
1-1 定義
a 主に心理的要因から正常に食べる事が困難になる病気
b 厚生労働省の指定する難病の1つ
1-2 種類
a 神経性やせ症(制限型)
b 神経性やせ症(過食・排出型)
c 過食性障害
d 神経性過食症
e その他(食物回避性情緒障害、異食症など)
←14種類に分析される
1-3 摂食障害の患者人数
a 1980年:2900人
b 1998年:23200人
c 2014年:24508人
→増加傾向
d 病院を受診していない摂食障害の人はさらにいると推測
1-3-1 増加原因
a 摂食障害の知識、認識の普及
b 1970年代アメリカから「痩せを美徳とみなす文化」が流入
c 1980年痩身のアイドルが人気を博す
→「痩せている」ことが良いという認識が普及
d SNS普及によるルッキズム、誹謗中傷
1-3-2 男女比
a 男性に比べ女性が圧倒的に多い
←女性が患者全体の9割を占める
1-4 原因
a 文化社会的要因
Ex) 痩身の崇拝、ルッキズム
b 心理的要因
Ex) 孤独感、ストレス、完璧主義、自信の喪失
→様々な要因が絡み合って発症
c 生物学的要因は不明
2 神経性やせ症
2-1 特徴
2-1-1 摂食型
a 食事が偏る
←カロリー摂取を過剰に制限
Ex) 揚げ物を食べない、野菜のみに制限
b カロリー計算をしないと食事が不可能
c 家族の食事を監視
←自分がその量より少なく食べることで安心感を得るため
d 睡眠時間の減少
e 痩せるために行う過剰な活動
f 料理に関する情報を追い求める
←飢餓状態により興味も行動も食に関する事へ変化
g 下剤の乱用
h 自分が摂食障害であることを認めない
←自分が正常であると認識、病院や治療を拒む
2-1-2 過食・排出型
a 摂食型の特徴に加え、過食・嘔吐を伴う
←飢餓の反動から過食し、過食した罪悪感から嘔吐
2-2 心理的症状
a 集中力、思考力、判断力の低下
b マイナス思考
c 抑鬱、無気力
d 頭の中が食に関することに支配される
←脳が危険信号を発信
←過度な摂食により飢餓状態になる
e 痩せへの執着
f 強迫性が増す
Ex) 決められた食事制限や運動をこなさなくては何も手がつかない、体重が減少しないと不安
2-3 身体的症状
a 低体重
b 骨粗しょう症
c 肌荒れ、脱毛
d 無月経
e むくみ、低体温
f 脳機能の萎縮、身体組織の弱体化
g 歯の消失
←嘔吐による胃酸
h吐きだこ
←嘔吐するための行為(手を口に入れる)により手に炎症がおこる
3 過食性障害・神経性過食症
3-1 特徴
3-1-1 過食性障害
a 肥満体形
←排出行動がないため
b 食事のコントロールが不可能
c 短時間で大量に食べ物を摂取
d 自制を失い、繰り返す
→罪悪感、焦燥感
e 過食の恥ずかしさから1人での食事を好む
→孤独化、症状の悪化につながる
f 経済的困窮
←過食にかかる膨大な費用
3-1-2 神経性過食症
a 過食性障害の特徴に加え、排出(嘔吐・下剤の乱用)を伴う
b 普通体形である場合が多い
←過食と排出を繰り返す
→周囲が病気に気づくことが困難
3-2 身体的症状
a 脂肪肝:肝臓に中性脂肪がたまった状態
b 急性膵炎:膵臓の急性炎症
c 唾液腺の晴れ
d 胃拡張
e 吐きだこ、歯の消失(神経性過食症の症状)
3--3 心理的症状
a 自己嫌悪、自己肯定感の低下
b 食事の楽しみの喪失
←食事がストレス解消の手段となる
c 罪悪感、無力感
4 事例
4-1 事例① 木村の場合(神経性やせ症、摂食型)
4-1-1 きっかけ
a コロナで学校が休校になり、部活が無くなる
→体重が2キロ増加
b 友人に丸くなったと言われダイエットを決意
4-1-2 経過
a 食事量を減らす、有酸素運動・無酸素運動を組み合わせて取り組む
b 1週間で2キロ減量
→痩せることへの喜びと達成感を得る
c 食事をする前にグラムを測り、カロリー計算をすることが習慣化
d 料理方法に過敏
Ex) よりカロリーを減らせる調理法(揚げる→ゆでる)に変化
e 自分で決めた運動メニューを1つでも達成できない場合罪悪感に襲われる
←1日でも怠ってしまえば今までの努力が無駄になってしまうと思考
f 夜中の12時~午前4時まで運動
←メニューが終わるまで眠ることが不可能
g 1日1300キロカロリー以下の摂取カロリー
h カロリーを減らせれば減らせるほど達成感と充実感を得る
4-1-3結果
a およそ1ヶ月半で体重が6キロ減少、BMIが18.5(低体重)未満になる
b その他の身体的症状は無し
c 心理的症状が多く現れる
Ex) 食事が頭から離れない、カロリー計算をしないと食べられない、強迫性
4-1-4 その後
a 学校の再開と共に食事制限が緩和
b 痩せたい願望よりも部活で活躍したい気持ちが勝る
→筋肉をつけるため、練習するために食事が徐々にもとに戻る
c BMIが19.2(普通体重)に戻る
d しっかりと食事をとることで食に捉われる生活から抜け出す
e 無意識のうちカロリー計算をする癖は残る
f 定期的に痩せるための衝動(過度な食事制限・運動)が起こる
4-2 事例②安藤瞳さんの場合(神経性やせ症、過食・排出)
a 小学3年生の少女(9歳)
b 完璧主義な性格
c 細身
4-2-1 きっかけ
a 友達の間でダイエットが流行
b 興味本位で始める
c 何でも1番になりたい完璧主義な性格
→ダイエットを本気で取り組む
4-2-2 経過①初期
a 1ヶ月で2キロの減量に成功
b 頑張った分成果が出ることに喜びを感じる
c ダイエット本を見て勉強、カロリーを暗記
→自分はカロリー制限出来ているかを確認し安堵
d 痩せることにのめり込む
4-2-3 経過②中期
a 常に体重が気になり始める
b 食事、太ることに恐怖を感じる
c 食べることを進めて来る人を敵対視
d 体重6キロ減少、15キロ以下
4-2-4 経過③さらなる体重減少
a 固形物を口にしなくなる
←ゼリーやヨーグルトのみを摂取
b 病院で治療を受けるも太ることが許せず治療を拒否
c 体重が12キロ以下に減少
d 歩くことが不可能、意識朦朧
e 状況が悪化しても周囲の心配や痩せることの喜びが勝る
4-2-5 経過④入院
a 入院、治療を開始
b 入院から5カ月:12キロから16キロに増加
c 退院できるまでに回復
4-2-6 経過⑤過食
a 拒食の反動で過食症になる
b 食事量をセーブできないことで自己嫌悪に陥る
→友人と会う事、登校を拒否
c 小学校卒業時:体重38キロまで回復
4-2-7 経過⑥繰り返す拒食症
a 小学校で遅れた勉強を取り戻すため中学で必死に勉強
b 自分を追い込み辛くなる
→拒食症が逃げ場となり再発
c 中学1年の冬から学校を休み入退院を繰り返す
4-2-8 経過⑧改善
a ボウリングがきっかけ
→ボウリングで家族みんなの笑顔が見られる
b 痩せること以外に喜びを感じる
c 拒食症と向き合いつつプロボウラーを目指す
4-2-9 その後
a 30歳になりようやく拒食症を受け入れる
b 拒食症になり20年経つも再発する恐れ
c 拒食症と闘い続ける生活
←プロボウラーとして活躍するために体力をつけることが心の支え
6 治療法
6-1 3つの分類
a 九州大学病院心療内科で長年摂食障害の臨床実験をした瀧井正人先生
b 病型分類での治療より精神病理の分類での治療が効果的
←摂食障害の原因は心理的問題が大きい
c 摂食障害の原因となる精神病理を3つに分類
6-1-1 中核的摂食障害
a やせ願望が強い
b 強迫的に摂食障害であり続ける
c 克服することを強く拒否
←摂食障害であることが生きがい(現実回避)
d 精神病理の中で最も重症
6-1-2 軽症摂食障害
a やせが尊重される社会風潮に影響されダイエット開始
→エスカレート
b 精神病理は比較的軽い
6-1-3 境界性パーソナリティ障害的摂食障害
a 境界性パーソナリティ障害(Borderline Personality Disorder):青年期までに発症することが多い精神疾患。対人関係,自己像,感情などにおける広範な不安定性,ならびに著しい衝動性が生じる。
←症状の一つとして摂食障害が存在
b 摂食障害の治療よりもBPDの治療を重視
6-2 支持的精神療法
a 患者の生活史、行ってきた選択を支持、受容的な態度で傾聴
b 適宜質問しながら状況確認
→新たな考え方や見方により症状改善を期待
c 患者の自然な自己治癒力がある場合有効
d 心理問題が重大な患者には効果的でない
6-3 認知行動医療法
a 考え方(認知)の偏りを修正し、行動に変化を起こす治療法
←行動を正す(過食・拒食を辞めさせる)だけでは根本的解決は不可能
b 行動を改善する行動療法と、心理的問題を改善する認知療法の組み合わせ
6-4 精神分析的精神療法
a 精神分析の治療技法を応用した週1,2回の面接
b 人の形成に大きく影響する無意識に着目
c 心の奥の問題を分析し、アプローチ
6-4 家族療法
a 家族の相互交流システムを問題視
b 患者本人の治療だけでなく家族全が治療の対象
c 1人目の治療者が家族の交流に溶けこみ、2人目の治療者が別室から観察
d 2人目の治療者が家族にアドバイス
e 日本で家族療法を行っている施設は少ない
f 治療者が2人関わるため高額
6-5 栄養療法
6-5-1 経口栄養
a 口から食事を摂取
b 自然な食事形態
c 患者が食事可能な場合有効
6-5-2 経管栄養
a 命が危険でもどうしても食事に抵抗が強い場合
b 強制的に栄養を投与
c 鼻からチューブを胃まで入れる経鼻胃チューブ
d 手術によりへその横から胃や腸にチューブを入れる胃瘻、腸瘻
6-5-3 中心静脈栄養
a 中心静脈へ直接栄養を輸液
b 末梢神経への輸液よりも濃度が濃いものを使用可能
c 高カロリー輸液と総称
d 痩せ深刻化し胃腸の消化吸収能力が低下している場合に実施
6-6 定常体重療法
a 理念:体重を変えずに、こころの中を変える
b 患者と家族が本来の心理的課題に取り組むための治療法
←食べる・食べないの概念から離れる
c 精神療法と栄養療法を組み合わせる
d 通院、入院を通し心理的な成長を育む
7 社会の関わり方
7-1 学校
a 生徒の変化に気づく
b カウンセリング
c 家庭、医療機関との連携
d 症状により授業の参加や課題の量を調節
e 生徒に寄り添う事が必要
7-2 家族
a 摂食障害についての知識を身に着ける
b 本人の状況を理解し、容認
c 食事の強要、批判の禁止
←本人と症状を分けて思考
d バランスの良い食事にこだわらない
←少しでも食事したことに目を向ける
e 家族間で摂食障害の原因を押し付け合わない
→今後のアプローチに目を向ける
e 摂食障害に関すること以外のコミュニケーションを積極的に図る
←共感が重要
f 医療機関、学校との連携
Ex) 本人の行動、症状を記録し状況の共有
g 長期的な視点のサポート
←摂食障害は繰り返す確率が高い
7-3 社会
a ルッキズムの禁止
b 過剰な痩せ崇拝の廃止
Ex) 過激なダイエットを進める企業の広告規制、
c 個人がありのままの自分を表現できる環境を形成
7-4 患者本人
a 現状を受け入れる
b 現実可能な小さな目標を立てる
←達成することで痩せ以外の喜びを得る
c 自身をつける
8 まとめ
8-1 身近に潜む摂食障害
a 摂食障害は誰でも陥る可能性
b 再発を繰り返す難病
c 改善には症状自体でなく、その行動が現れる原因となる心の問題にアプローチすることが大切
d 周囲の理解とサポートが鍵
8-2 社会のあるべき姿
a 摂食障害のきっかけとしてルッキズム、痩せの風潮など社会的背景が存在
b 価値観を押し付けない社会づくり
c 一人ひとりの個性を尊重し合う環境
8-3 自身の経験からの意見
a 些細なことから摂食障害に発展
b 当事者は行動の異常性に気づくことは困難
c 痩せへの執着は行動の改善が見られても生涯つきまとう
d 健康体である自分を認めることが大切
←痩せの風潮やルッキズムに流されない