担当者 なゆ
1 サンリオピューロランド(以下SPL)
1-1 基本情報
1-1-1沿革
a 1987年:株式会社サンリオ・コミュニケーション・ワールド(現 株式会社サンリオエンターテイメント)設立
←SPLの運営会社
b 1990年12月:東京都多摩市にテーマパーク「サンリオピューロランド」オープン
c 日本初の「屋内型」テーマパーク
d 世界では韓国ロッテワールドに次ぐ2番目の事例
e サンリオ創立30周年記念の、総工費650億円を賭けた一大事業
1-1-2 施設
a ライド/アミューズメント
b パレード/ショー
c イベント/キャンペーン
d フォトスポット
e キャラクターグリーティング
f グッズ/ショップ
g フード/レストラン
1-2 業績
1-2-1 来場者数
a 初年度(1990年度):195万人
b 5年後(1995年)には半減
c その後10年以上にもわたって来客は減少
d 2008年にはSPL、ハーモニーランド合わせて101万人
e 2015年:123万人から152万人と大幅な増加
←「ミラクルギフトパレード」がきっかけ
f 2018年:193万人(創業以来の数字に到達)
1-2-2 実績
a 開園から売上も減少を続ける
b コストカットで赤字幅を減らすも、2008年には売上62億、赤字14億
c 2017年度に悲願の黒字化達成
←「ぐでたま」「アグレッシブ烈子」などの新規のライブキャラクターの登場
d 1990年からの32年間の運営において黒字だったのは2017~19年の3年間のみ
1-2-3 費用
a 初期建設費700億円
b 1992~94年あたりは売上80億円前後
c それに対し営業利益は50~60億円のマイナス
d 32年間で積みあがった累積営業赤字は550億円
e 来場者数の増加に伴い、売上高も2015年度から2018年度に至るまで前年度比で約10%の伸び
1-2-4 単純計算
a ファン一人当たり平均2000円の入場券とグッズ・飲食費3000円=合計5000円
b 実際のサービスには8000円のコストがかかる
←「サンリオが支払っている余分な3000円」は未来への投資
c その場に足を運んだ数千万人はよりサンリオを好きになる
d サンリオのグッズを将来買ってくれるという期待
→テーマパーク事業自体の赤字は受容
2 SPLの館長小巻亜矢が感じたこと
2-1 マイナス面
2-1-1 スタッフに笑顔が少ない
a 閑散とした館内で手持ち無沙汰な感じで立つ姿
b ショップには色とりどりの商品が陳列
c 心に色が届いていない
2-1-2 レストランの食事
a 温かくあってほしい料理が冷たいまま提供
b それ以前に食べたいと思えるメニューがない
2-1-3 施設の老朽化
a お客様用駐車場の壁の汚さ
b 剥がれたペンキ、シミが浮いたコンクリート
←お客様が最初にSPLに触れる場所
2-1-4 お土産
a 商品にオリジナリティがない
→あえて買わなくていいのでは
b シーズンイベントをやっている時期なのにイベント関連のグッズが売り場にない
2-1-5 館内の案内表示
a 案内表示の文字の色やフォント、キャラクターの配置
b コーナーによってバラバラで統一感がない
2-2プラス面
2-2-1 天候に左右されない屋内型の施設
a 酷暑やゲリラ豪雨などの影響を受けない
b いつ来ても快適に過ごすことが可能
2-2-2 本格的なショーを開催できるシアター
a 演者さんの頑張りが伝わり高いクオリティ
b ストーリーとともに世界観を作れる施設
2-2-3 サンリオの理念を発信できる
a 「みんななかよく」
b 東日本大震災など多くの災害の経験
c 国民が絆や助け合うことの大切さに気づく
d 多くのお客様に理念を深く共感してもらえる
3 SPLのスタッフ
3-1 スタッフ教育
3-1-1 根本的な問題
a 各部署やスタッフ間で情報が共有されていない
b コミュニケーションが足りないため起こる問題
→みんなで話をする機会を増やすことが必要不可欠
3-1-2 役職や部署ごとのワークショップ
a 約200人の社員と約700人のアルバイト
←全員の話を聞くことで解決策を探る
b スタッフ同士が気軽に話せる風土作りが目的
c 幹部を含め社員を12のグループに分ける
d 1グループ6~16人
e 1回60~90分
→1か月かけて全員の話を聞くことに成功
3-1-3 5つの質問
a なぜ、SPLで仕事をしようと思ったのか
b なぜ、大変な時期でもSPLを辞めなかったのか
c これまで一番頑張ったことは何か
d これまで一番大変だったことは何か
e SPLを誰かに紹介するときアピールしたいポイントはどこか
←ベースはコーチングでよく使う質問
f メンバーの思いを引き出し気づきや原動力に変えることで組織の力を高める
3-1-4 参加者の感想
a 「SPLについてこんなに熱くなれる自分に驚いた」
b 「頑張っているのに報われない」「これだからSPLはダメなんだ」
c 不満の声は期待の裏返し
d 背景にある思いを引き出し再び心に火を灯す
3-1-5 話し方と聞き方
a 「やさしい話し方」「あたたかな聴き方」
b この2つを心がけると社内の雰囲気は大きく変化
c 否定せずに話を聞いてもらえると話し手の承認欲求が満たされる
→意見を言ってもいいと思えるように
d 自分には直接関わりがない部署のことだから黙っておこう
e いいアイデアがあったら伝えたほうが役に立てるのではないか
3-2 ウォーミングアップ朝礼
3-2-1 館内スタッフの接客スキル向上
a お客さんと直接触れ合うスタッフ=SPLの顔
b 教育する場がないから接客スキルが低い
c 日々のルーティーンとして体にしみこませる必要
3-2-2 目的
a 接客スキルの基本を身につける
b モチベーションをアップして一日を笑顔で過ごしてもらう
c チームワークの強化
→部門やエリアの垣根を超えた仲間意識の芽生え
3-2-3 概要
a 平日は1日に9回、休日は多くて17回
b 1回の所要時間:約15分
c 参加者:サービスを担当するスタッフ全員
3-2-4 やり方
a 自己紹介
Ex)名前と働くエリア、最近のマイブーム、好きなキャラクター、好きなサンドイッチの具
←自己開示に繋がる質問でスタッフの笑顔を引き出す
b サービススキルの研修
Ex)「お客様に聞かれてわからないことがあれば、『申し訳ございません。担当者に確認してまいりますので少しお待ちいただけますか』とお伝えしましょう」、「立ち姿勢はまっすぐと。手は前で軽く重ねて、おもてなしの姿勢を示しましょう。」
c キャラクターを一筆書きで書いてみる
←キャラクターへの理解や愛情を深める
d スタッフ同士での見た目チェック
Ex)コスチュームの着こなし、髪の毛の乱れ
e 締めの合言葉:「今日もよろしくお願いします。キティ大好き!」
←「キティ」、「大好き」のどちらも母音がイなので自然と口角が上がる
4 PEST分析
4-1 政治、経済、社会、技術の4つのマクロ環境を網羅的に把握
4-1-1 政治(Politics)
a クールジャパン戦略:外国人がクールだと思う日本の魅力を積極的に発信
b サンリオの「かわいい」キャラクターやSPLのコンテンツ
c 日本特有のサブカルチャーやハイカルチャーを文化の象徴として打ち出す
4-1-2 経済(Economy)
a 「モノからコト」、体験型消費へと変化
4-1-3 社会(Society)
a おひとりさまやオタクがマイナーではなくなる
b 価値観の多様性
c 世の中の楽しみ方がよりテーマパーク寄りに
d 震災以降、絆や思いやりの重要性の高まり
→サンリオの理念「みんななかよく」が届きやすい
4-1-4 技術(Technology)
a SNSの爆発的な広がり
b 低コストで面白いものを作ることが可能に
5 V字回復のために
5-1 ターゲット層
5-1-1 メインターゲットを変える
a 当初は幼い子ども連れの家族がほとんど
b 20歳前後の学生から30代半ばの働く女性たち(いわゆるF1層)まで取り込むことが最重要課題
←来場者数を増やすため
5-1-2 F1層
a 消費のけん引役でありSNSのヘビーユーザー
b 彼女らが何度も来たいと思えるSPLにする
5-1-3 子ども向けにしてはいけない
a 子ども向けの施設やコンテンツでは大人は来ない
b 大人向けに作るとおのずと子どももついて来る
c キャラクターではどうしても子ども色が強い
5-2 ポスターやプロモーション用のビジュアルの方向性
5-2-1 ストーリー性
Ex)ポスター用の写真の絵作り
a ポスターのためにキャラクターが正面を向いて「はい、ポーズ!」というパターン
b キャラクターたちが日常で会話しているようなビジュアルに変更
5-2-2 キャラクターの存在
a 自然に関わり合い、会話し合い、楽しそう
←目がくぎ付けになる
b お客様にとって身近な存在
c キャラクターたちが自然に楽しんでいる様子や世界観を伝えることでライブ感が生まれる
d 「メイキング」のようなイメージに近い
e 伝わる熱量が断然高まる
5-3 イケメン俳優による2・5次元ミュージカル
5-3-1 それまでのミュージカル
a 登場人物も内容も子どもを強く意識したもの
5-3-2 大人女子向けのショー
a イケメンの力を借りる
b 出演者のファンになってもらい、リピート客として繰り返し来てくれる可能性
5-3-3 企画開発
a 株式会社ネルケプランニング:ミュージカル『テニスの王子様』など数多くのヒット作を生み出す
5-3-4 『ちっちゃな英雄(ヒーロー)』
a 2015年6月スタート
b SPLで初の男性ミュージカル
c ストーリーテラー:マイメロディ
d 愛をテーマにしたコンテンツが多い中で男性的な響きの英雄は新鮮味を持って受け入れられる
e フェアリーランドシアター
←植物や木の装飾で造りこまれたメルヘンな雰囲気
f 上演の最後に客降りしたねずみ男子とハイタッチ
g 客席と舞台の近さを生かした演出
5-4 Miracle Gift Parade(ミラクルギフトパレード)
5-4-1 大人の女性たちにも好まれる「かわいい」とは
a 2015年末にスタート、SPLの25周年を飾る
b メインパレードの一新は前作の『Believe』以来、約8年ぶり
c 「かわいい」の世界観を 衣装、振り付け、音楽、照明で表現
5-4-2 テーマパークのパレード
a 目の前を通り過ぎていくものが一般的
b SPLの場合、館内の中央にあるシンボル「知恵の木」を囲みながらパレードが進む
c 狭いスペースという悪条件、屋内という強み
d 世界観を作りこむことが可能
e 観客は没入感をたっぷりと味わえる
f 天候に左右されることなく、どこから撮ってもインスタ映えする演出も可能
5-4-3 製作段階
a アートディレクター:増田セバスチャン
←きゃりーぱみゅぱみゅのライブ演出を担当、「カワイイ」カルチャーの牽引役
b オープニングと参加楽曲の振り付け:MIKIKO
←演出振付家、Perfumeの振り付けやライブ演出を担当
c 参加楽曲の作詞・作曲:ヒャダイン
←アーティスト、ももいろクローバーZなどの楽曲を手掛ける
5-4-4 テーマ:「奇跡=ミラクル」
a 平和で美しいいちご王国で暮らすいちごの王様
b そこに闇の女王が現れる、というストーリー
c 「かわいく」「なかよく」「思いやり」が込められたビジュアルとストーリー
d キャラクターたちによる歌とダンスの披露
e 天井からつるした布を使う空中パフォーマンスのエアリアルティシュー
f 華やかなフロート(キャラクターが乗る山車)
5-4-5 参加グッズ
a ミラクルハートライト
b LEDライトを搭載、パレードの音楽やシーンに合わせて自動で光の色が変化
c 自分自身が光を生み出している気分になれる、体験型イルミネーショングッズ
→お客様と一緒に作り上げるというコンセプト
5-4-6 見どころ
Ex)ハローキティがゴンドラから降りてくるシーン
a 今までのパレードはダンサーが一旦動きを止め手を差し伸べて待っている構成
b ゴンドラがゆっくり下降する間も出演者が常に踊っている構成に変更
c どこから見ても楽しめるように作りこまれている
d 一度観るとまた観たくなる
←出演者の踊り、キャラクターが見える場所
5-4-7 伝えたいメッセージ
a 闇の女王は誰もが持っている人間の一面
←笑顔になれない、光を見たくない、元気になりたくてもなれない
b 対立する相手も排除しない
c わかり合う、待ちたい、いつかまた笑顔になれることを信じたい
d なかよく助け合って生きていける
e 自分の中のネガティブな面を否定しないで、自分の可能性を信じて、自分と仲良くすることを忘れないで、という願い
→大人女子のリピート客増加に繋がる
5-5 シーズンごとのイベント
5-5-1 オリジナルキャラクターという強力なIP(無形の知的財産)
a アイドルやアーティスト同様多くの人の憧れ
b 癒しや趣味の対象
c シーズンイベントと相性がいいキャラクターが多数存在
5-5-2 イースターのイベント(2017~)
a 春先はイベントが少なくテーマパークにとっては苦しい時期
b 数年前から日本でもイースターの盛り上がり
c イースターといえばウサギと卵
←マイメロディとウィッシュミーメル、ぐでたま
5-5-3 七夕
a リトルツインスターズ(キキ&ララ)
5-5-4 梅雨
a けろけろけろっぴ
5-6 レストランでの飲食
5-6-1 キャラクターフードコート
a お腹を満たすことが主軸
b フードコートらしいメニューを揃えつつキャラクター色を出すことに成功
c 奇抜な色のキャラクターカレー
Ex)シナモロールの水色、マイメロディのピンク色
5-6-2 サンリオレインボーワールドレストラン
a 老朽化を受け内装をガラリと作り変える
b 当初はパスタなどテーマパークで需要が高いメニューを温かくおいしく提供することを意識
c SPLでしか味わえないメニューを楽しみたい
d SNS映えするメニューの増加
Ex)ぐでたまのローストビーフ丼
5-6-3 館のレストラン
a SPLのなかでも高価格帯
b テーマ:キャラクターに会えるレストラン
c 深みのある緑や茶色を使った落ち着いた色味のコスチュームに身を包んだキャラクター
d 食事とキャラクターとの触れ合いを同時に楽しむ
e 施設内もシックなデザインに一新
f SPLでは異色の大人っぽい雰囲気
5-6-4 シナモロールドリームカフェ
a 気軽に立ち寄れるカフェスタイルの店舗
b シナモロールがモチーフのスイーツやドリンク
c シーズンイベントと連動したスイーツメニュー
5-7 ドレスコード
5-7-1 軽めのコスプレ
a テーマパークの世界観に入り込む
b 非日常を味わうときに欠かせない
5-7-2 カチューシャ
a 老若男女問わず多くの客がカチューシャを着用
b ここ数年で爆発的にヒット
5-7-3 売り場の工夫
a 以前はショップの中まで行かないと買えなかった
b 園内に入った瞬間他の客を見て欲しいと思うはず
c 入ってすぐ右にあるお土産ショップに陳列
d 来場したらまず買って着ける流れの定着
5-7-4 その他のアイテム
a 手首に着けられるシュシュ
b 先端に星がついたコンペイトウスティック