担当;かゆ、なま、しし

 

はじめに

0-1いかに「質の高い意思決定」をするか

0-1-1今ある情報でいかに意思決定するかが大事 

a意思決定するときに「わからないこと」があるのは当然

b知りたいことを調べ上げる時間はない

0-1-2 限られた情報を頼りにして、「質のいい意思決定」をするには、どうすればいいのか

←これに対するヒントを提供するのが本書の目的

0-1-3意思決定をする前には、想像できる限りのことを想像する努力が必要

aすなわちチェックすべき要素を洗い出す

b不確実な要素については、「どうなる可能性があるのか?」と考えていく

0-2「数字を割り切る」と「人の気持ちをくみ取る」

0-2-1今日一万円もらうことを選ぶ人のほうが多い傾向

←今日一万円もらえるか、一年後に一万五百円もらえるか

0-2-2 一年待てば五百円上乗せということは年利が銀行預金より得をすることになる

0-2-3ところが多くの人は一万円を選ぶ

a人間は目先の利益に目を奪われやすい

bなんでも数字で割り切って決められるほど合理的ではない

0-2-4だから意思決定をするときは客観的な正解でうまくいくというわけではない

←理屈を通すと、人の気持ちをくみ取れないことがあるから

a数字で割り切れる意思決定は数字を正しく導くべき

b現実は複雑で数字に落とし込めることは簡単ではないが基本的な考え方は理解しておく必要がある

0-3尺度や基準はいろいろある

0-3-1意思決定は決める人の考え方によっていろいろな尺度や基準がある

0-3-2『スター誕生!』という人気番組

←歌手志望の少年少女をコンテスト方式で選抜して、芸能界にデビューさせる

a昭和のアイドルを多数輩出

0-3-3中国で同じような番組を放映する話が上がるが、日中関係者の意見が対立

a日本の選考は芸能事務所のスタッフが契約したい子を指名する

←デビューできるかどうかは「この子はスターになりそう」というプロの勘で決まった

b中国の選考は採点項目を設定して得点が高い人がデビューする

c日本側は「感性」を大事にし、中国側は「客観性」を大事にした

0-4意思決定のメソッドを総動員する

0-4-1本書では経営コンサルタントをする著者が、知っておきたい意思決定の基本を紹介

aどのような場合にどのような決め方をするべきかという「意思決定のメソッド」を取り上げている

0-4-2内容は、早稲田大学ビジネススクールの著者の授業「経営者の意思決定」がもととなる

a受講生とのやり取りを再現して意思決定のポイントを学ぶ形式

→ケーススタディ形式のディスカッション、判断に必要な数値化の演習、人間のクセや限界を知る行動経済学の実験

0-4-3ビジネスの意思決定に欠かせない手法や考え方

←意思決定の質を高めるには、こうした理論を総動員する必要

0-4-4 計算できない不確定要素に対し、質の高い意思決定をすることがリーダーとしての経営者の役割

イントロダクション

 

01ケーススタディ

考慮すべき要因を洗い出す

1-0-1 2011年3月11日の東日本大震災で東京ディズニーリゾートは休園

←東京ディズニーリゾート(Tokyo Disney Resort )(以下TDR)

a TDRがある千葉県浦安市で液状化現象が起き、TDRの駐車場も被害を受けた

bアトラクションなどの施設は大きな被害がなく、数日後には稼働できる状況

1-0-2東北地方は震災での被害状況の把握すらできず、復旧の目処は立っていなかった

Ex)津波による福島第一原発の問題、計画停電による鉄道の運行本数の減少、ガソリン不足

←そのため震災発生から10日たった3月21日になっても、TDRは休園

1-0-3いつ、どこのタイミングで営業を再開するか

1-0-4そのときに判明していた状況

a東京電力管内では計画停電を実施

bセ・リーグは予定通りに対し、パ・リーグは延期

1-0-5開園時期を以下の選択肢に分け、挙手

→「すぐ」「1週間後」「2週間後」「1か月後」「3か月後」「半年後」「無期限閉園」

1-1営業再開にはどういう条件が必要か?

1-1-1授業参加者の答え

a「すぐに開園」

←いつ何が起こるかわからないから、開園できる状態ならどんどん動かすべき

b「2週間後」

←すぐにというのは世間の目を気にするため、少し経ってから

c「3か月後」

←TDRは夢を提供する場所であり、それを崩さないために電力と人材が安定する時期にすべき

d「無期閉園」

←計画停電を実施するときに再開するのは理解が得られない

e「条件付き」

←福島第一原発の問題が片付いてから、交通機関の安定、余震の可能性、ホテルの営業状況

1-2ステークホルダーは誰か?

1-2-1ステークホルダーは大きく分けると、顧客、従業員、株主、取引先、社会

←営業を開始することに対する世論を考慮する必要

1-2-2プロ野球のセ・リーグ開幕問題

aセ・リーグは震災の中、ファンサービスのためとして開幕を押し切ったが、新聞や世論に叩かれる

bパ・リーグが開幕を延期としたことによりセ・リーグの悪者ぶりが目立つ

←セ・リーグも世の中のためにと考えたことだが話がこじれる

1-3お客さんは誰か?

1-3-1外国人の顧客は1割以下

1-3-2主な顧客をセグメントで分けるとファミリー、学生、リピーター

1-4「営業再開なんてけしからん」という人は誰か?

1-4-1当時のTDRの年間入園者は2700万人

aリピーターの存在により、客が途絶えない

1-4-2アンチディズニーランドの世論を形成するのはノンユーザーの傾向

aノンユーザーは短絡的な経営に影響はない

bヘビーユーザーの反応を伺うことが必要

←経営面で顧客はヘビーユーザー、ライトユーザー、ノンユーザーに分けられる

1-5資金操りは大丈夫か?

1-5-1 企業が倒産するかしないかというのはキャッ

シュがあるかどうかで決まる

1-5-2オリエンタルランドの当時の財務諸表の流動

資産

a流動資産560億円―流動負債416億円=144億円

→もし営業しないで債務を返済しても差し引き144

億円は手元に残ることになる

b損益計算書の販管費は年間で474億円、1か月あたり40億円

→手元に144億円あれば3ヶ月は経営が持つ計算になる

1-6従業員のパフォーマンスを維持できるか?

1-6-1従業員の生活、パフォーマンスが重要

1-6-2閉園したときの従業員への対応の難しさ

a閉園しているということは従業員の仕事がなくな

るということ

→閉園期間中も給料を払うかどうかという問題

b非常事態にはパートやアルバイトにやめてもらえ

ばいいという考え

←営業再開するとき、もう一度質の良いキャストを

集めるか、やめてもらった人たちに戻ってきてもら

う不安要素が多い

1-6-3部分開園という方法

Ex)アトラクションを限定する、昼間だけ営業する

、ディズニーランドかディズニーシーのどちらかだ

け再開する

1-6-4競合の動きを見ることが重要

a Universal Studio Japan(以下USJ)のマーケターは

過去にTDRはそれほど競合として意識する必要がなかったと明かしている

→それぞれの顧客がTDRは関東の人、USJは関西の

人と偏っていたため

1-6-5「競合がどうするか」より先に、「そもそも

競合しているかどうか」考える必要がある

1-7株主は何を望んでいるか?

1-7-1開園できる状況で開園しないというのは機会

損失になる

→それによる業績の悪化は株価に影響を及ぼす

1-7-2短期売買の株主

a株価はできるだけ早く値上がりしてほしい

b将来は気にしない、業績回復を急いでほしい

1-7-3長期保有の株主

a長期的に値上がりや配当、株主優待を楽しみたい

b目先の業績より安定的な評価がほしい

c株主の中にも「長い目」の人と「短い目」の人が

いる

→短い目の人は比較的少ない

1-7-4長い目で応援してくれる株主に報いるために

ブランドと顧客ロイヤルティーを維持することが大

1-8企業の論理と社会の論理はどう違うか?

1-8-1意思決定をするときには「企業の論理」と「

社会の論理」が働く

a企業の論理

←お客さんや従業員に喜んでもらう

←利益を上げて投資家に還元

←税金を納めて国や地域に貢献

b社会の論理

←企業が利益を上げるために私たちが不利益を被る

ようなことはやめてほしい

←困っている人といい思いをしている人が同時に存

在しているのは釈然としない

1-8-2企業の論理で考えるべきこと

Ex)従業員の確保・維持、財務、顧客の安全など

→上記のことを企業の論理で考えていくと社会の論

理を忘れてしまうことがある

1-8-3企業の論理と社会の論理のバランスを維持す

る難しさ

Ex)世論を気にし、営業を再開する

→一時的に生き延びても、長い目でブランドが棄損

したり、顧客ロイヤルティーが下がる可能性

1-9短期的な利益と長期的な利益のどちらを取るか

1-9-1速やかに開園すれば当面の収益は回復するが

長期的にもいいとは限らない

Ex)従業員を十分に確保できないためにサービス

の品質が低下し、お客さんをガッカリさせてしまう

→中長期的には収益が下がってしまう可能性

1-9-2早期開園を望む声とホスピタリティーのレベ

ルの維持、様々な声に対応する必要がある

1-10一番大事にすべきこと

1-10-1(U):一番大事な資産はよく教育されたキャ

スト

→キャストが離れる前に開園するべき、休園してか

ら遅くとも一ヶ月後の再開という意思決定

1-10-2(V):一番に考慮すべきは顧客ロイヤルティ

→そのためには世論を味方にする

→再開待望説が出てきた時点ですぐ稼働できるよう

準備しておく

1-11世論を待つのではなく世論を動かす

1-11-1 世論を操作する

a被災地支援

→積極的なアクションがロイヤルティーを高める

→社会貢献で盛り上がったときに開園

b国の復興計画や地震の対応策に合わせる

1-12東京ディズニーリゾートの実際の判断

1-12-1 TDRは4月15日から営業を再開

a閉園時間は通常の午後10時から午後6時に変更

→園内の照明を抑えて節電

b来園客一人につき300円を日本赤十字社に寄付

cオリエンタルランドはその年の上半期は赤字とな

ったが、下期には最高益を上げた

1-12-2 TDSは4月28日から営業を再開

 

2-0ディシジョンツリー 選択肢を整理する

2-0-1意思決定←「選択」

2-0-2意思決定の第一歩

←どんな選択肢があってその選択をした場合にどうなるのかを整理する

2-0-3「ディシジョンツリー」←意思決定の問題をツリー状に分解して損得を考えるもの

2-1東京オリンピック開催で値上がりしそうな土地の売却

2-1-1前提

a売却予定の土地はオリンピックの開場予定地が集まる臨界地区にある

b A社が売却予定している土地は一年前の見積もりで50億円

c A社は一年後に40億円の社債の償還が迫っている

dオリンピック開催地決定の半年前に二つの不動産会社から買取の提案があった

不動産会社X:今取引するなら55億円で買い取る

不動産会社Y:取引はオリンピック誘致の結果が判明した後で誘致が成功した場合62億円、成功しなかった場合48億円で買い取る

2-1-2東京がオリンピック誘致に成功する確率:40%

2-1-3開催地決定の半年後(社債の償還に間に合う期限)の土地の価格の見通し

a東京が誘致に成功:60億円

b東京が誘致に成功した半年後に65億円に値上がりする確率:30%

反動で値下がりして58億円になる確率:70%

c東京が誘致に失敗した場合、その直後は45億円

d東京が誘致に失敗した場合その半年後に50億円になる確率:30%

eさらに値下がりして42億円になる確率:70%

←最悪のシナリオであるが社債の返済には十分足りる

Q1 A社は、どういう選択をするのがいいだろうか?

Q2 東京がオリンピック誘致に成功する確率が60%だったら、どうなるか?

2-2場合分けして期待値を計算する

2-2-1 A社が自分たちで決められること

a土地の売却時期

b売却相手

←これらを整理して、それぞれの場合の確立、土地売却価格を整理していく

2-2-2 A社が自分たちでは決められないこと

aオリンピックの開催地

b土地の価格の推移

2-2-3選択肢を整理しそれぞれの期待値を計算する

2-2-4期待値←どれだけの結果が期待できるか

→aコインを投げて表が出たら300円もらえて裏が出たら500円払うという賭けの期待値:300円×50%+(-500円)×50%=-100円

←この賭けを続けると毎回、平均100円の損をする

bコインを投げて表が出たら500円もらえて裏が出たら300円払うという賭けの期待値:500円×50%+(-300円)×50%=100円

←この賭けを続けると毎回、平均100円の得をする

2-2-5複数の選択肢がある場合それぞれの期待値を計算することでどれが有利なのかを数字で判断することができる

2-2-6ディシジョンツリーを描く時には自分で決められる分岐は「□」、自分で決められない分岐は「○」にする

2-3 Q1の答え X社にすぐ売る」が一番有利

2-3-1最初の分岐点の選択肢は3つある

a X社の提案に乗ってすぐに土地を売る

b Y社と契約する

c X社ともY社とも契約しないで待つ

2-3-2 X社にすぐ売る場合売却価格は55億で確定する

2-3-3 Y社と契約した場合の期待値

62億円×40%+48億円×60%=53.6億円

2-3-4開催地の決定まで待った場合

a誘致成功ですぐに売った場合:60億円

b誘致に成功しさらに半年まで待つ場合の期待値

:65億円×30%+58億円×70%=60.1億円

←東京が誘致に成功した場合はさらに半年待つ方が期待値は高くなる

c誘致に失敗しすぐに売った場合:45億円

d誘致に失敗しさらに半年後まで待つ場合の期待値

:50億円×30億円+42億円×70%=44.4億円

←誘致に失敗した場合はすぐに売る方が期待値は高くなる

eそれぞれ高い方の期待値をもとにして最初の分岐点で「開催地の決定まで待つ」を選んだ場合の期待値

:60.1億円×40%+45億円×60%=51.04億円

←期待値で比較した場合「X社にすぐ売る」が一番有利

2-4 Q2の答え Y社と契約する」が一番有利

2-4-1 X社に土地を売る:55億円

2-4-2 Y社と契約した場合の期待値

:62億円×60%+48億円×40%=56.4億円

2-4-3開催地の決定まで待った場合

a誘致成功ですぐに売った場合:60億円

b誘致成功でさらに半年まで待つ倍の期待値

:65億円×30%+58億円×70%=60.1億円

←誘致に成功した場合はさらに半年待つ方が期待値は高くなる

c誘致に失敗しすぐに売った場合:45億円

d誘致に失敗しさらに半年まで待つ場合の期待値

:50億円×30%+42億円×70%=44.4億円

←誘致に失敗した場合はすぐに売る方が期待値は高くなる

eここまではオリンピック誘致に成功する確率40%の時と同じ期待値

fそれぞれ高い方の期待値をもとにして最初の分岐点で「開催地の決定まで待つ」を選んだ場合の期待値

:60.1億円×60%+45億円×40%=54.06億円

←期待値で比較した場合「Y社と契約する」が一番有利

2-5条件や確率を変えて計算してみる

2-5-1 Q1とQ2の計算結果を見て「最初の分岐点までは待った方が良い」と考えるひともいるかも知れない

a「東京開催が決まれば65億円で売れる可能性がある」

b「もし東京が負けても最低42億円で売れるから社債の返済に支障はない」

そういうときにどういう結論を出すのかはその人の考え方によって異なる

←「リスク選好度」などによって異なる

2-5-2意思決定には「こうでなければいけない」という絶対的な正解があるわけではない

2-5-3いろいろな状況を想定し条件や確率を変えて計算をしてみる

←前提が変わると数字が変わる

2-5-4「この決定では何を重視すべきなのか」を踏まえて最善の選択肢を選ぶ