担当:とみ

 

1 表情の伝染研究

 

1-1 表情の同調的反応

a 人は他者の表情に対してそれと同調的な表情を表出する

b 自発的顔面模倣(Hatfeld, Caccioppo, & Rapson ,1992)

c 顔面伝染(Hinsz & Tomhave ,1991)

1-1-1 Lipps (1907)

a 模倣動因によるもの

←無意識的かつ反射的に他者の表情を模倣する

b 人は模倣した表情を知覚的にフィードバックすることで相手の感情状態を自ら体験しようとする

1-1-2 Tomkins (1962)

a Lippsの考えを支持

b 他者の否定的な表情に対して否定的な表出を、肯定的な表情には肯定的な表出をするのは当然予測される

1-1-3 Hinsz & Tomhave (1991)

a 同調的反応が生起するかの検討

b 結果

c 笑顔 →同調的反応が起こる

d 嫌悪の表情→ほとんど同調的反応は起こらない

e 印象評定法を用いる

f 表情刺激を見ている観察者の表情を他の観察者に評定させる

1-1-4 Gump & Kulik(1997).

a 笑顔のみならず嫌悪の表情も同調的反応を引き起こすと報告

1-1-5 Lundqvist & Dimberg (1995)

a 同調的反応が生起するかの検討

b 基本6感情すべてに対する

基本6感情(Ekman & Friesen, 1975):笑顔・嫌悪・怒り・恐怖・悲しみ・驚き

c 結果

d 恐怖以外の表情については概ね同調的に反応する

e 顔面EMG(electromyography)法

f 顔面筋の動きを測定

g 筋電図から何の表情であるかをFACS (Facial Action Coding System; Ekman & Friesen, 1977)に基づいて解釈する方法

←印象評定法を用いた研究結果と直接比較することは困難

 

1-2 表情研究方法

1-2-1 印象評定法

a 従来最も多く用いられた方法

b 長所:表情全体から受ける印象を直接に評価できる点

←個人の表情が評定対象とされるため

c 欠点:その顔の形態的特徴が表情評定に大きく影響する

1-2-2平均顔を用いる

a 平 均 顔 :表情画像を加算平均して得られる顔

b 印象評定法の欠点を克服する新たな方法

c 加算平均の対象となる顔画像が共通にもつ表情の特徴を浮き彫りにすることができる

d 長所:個々人の顔の形態的差異による影響を最小限 にできる点

 

2  刺激表情 に対する観察者の同調的表情(市川寛子・牧野順四郎,2004

a 基本6感情を表す表情すべてに対して観察者が同調的反応を起こすか検討

b 平均顔を用いる

c 被験者→20名 の国立T大 学生(男女各10名)

 

2-1 観察者に提示する刺激ビデオ

2-1-1 材料

a 劇団に所属する7名の演技者(男性3名,女性4名)に基本6感情を表す6表情(怒り、嫌悪、恐怖、幸福、悲しみ、驚き)を表出させる

b ビデオカメラを用いて観察者を撮影

2-1-2 ビデオ内容

a 映像を組み合わせた刺激系列を作成

b 基本6感情の各演技表情の録画

c 表情が典型的に表れている部分を中心に前後合わせて約30秒間を抽出

d 表情刺激:6(表 情)×7(人)で 計42 個

e 自然の風景を30秒間写した映像を6つ用意

f 各感情の表情刺激提示前に挿入

2-1-3 内容

a 提示時間は21分9秒

b 30秒間の風景映像を提示

c 演技者1による幸福の表情刺激を30秒提示後、 画面が3秒間ブラックアウト

d 演技者2による幸福表情を30秒間提示後、画面が3秒間ブラックアウト

e 同様に演 技者7の幸福表情まで提示

f 風景映像を30秒間提示

g 演技者1による驚き表情を30秒間提示後、 画面が3秒間ブラックアウト

h 同様に演技者7の驚き表情まで提示

i 同様の構成で恐怖、怒り、嫌悪、悲しみの順に表情刺激を提示

 

2-2 実験方法

2-2-1 手続き

a 20名の被験者(以下、観察者) に対して2度、同一の刺激ビデオを見せる

b 42個の 表情刺激がそれぞれ基本6感情のどれを表しているかを判定させる

c 該当するカテゴリー名に丸印を付けるように教示

d この後刺激ビデオをもう一度提示

e 刺激ビデオ提示時の観察者の表情を撮影

2-2-2 平均顔 の作 成 材料

a 1回目の刺激ビデオ提示 時 に録画 した観 察者表情のビデオテー プを再生

b 6感情すべてに対する観察者表情について表情変化の有無を判定

c 驚きから悲しみまで6感情を表す表情刺激 に対して反応した観察者表情の平均顔3種 類 を作成

d 男性、女性それぞれの観 察者表情から作った平均顔

e 男女を合わせて作った総合平均顔

2-2-2 平均顔の作成方法

a FaceToolの中のFaceFitを利用

←情報処理振興 事業協 会(IPA)に よって 開発されたPC版 顔情報処理ツール

b 総 合 顔 :Figure 1、女 性 顔:Figure 2、男 性 顔:Figure 3(図表1)

c どのような表情を作ったかを問わず表情の変化の有無 のみに着目

d 実験者が7カ月の間隔をおいて2度行う

e 2度とも表情変化があったと判定された観察者表情だけを反応ありとする

f 表情刺激 に対 して反応 ありとされた観察者表情のそれぞれの中で表 情が最 も変化したピーク時点を静止画として抽出

 

2-3 結果

a いずれの平均顔の分類についても有意な分布の偏りが認められた

2-3-1 幸福と驚きの2表情

a 総合顔・女性顔・男性顔すべての平均顔が同調的である と判定

b 男女差もみられない

c 幸福の表情に対して同調的反応

←多くの先行研究と一致する結果

d 驚きの表情に対して同調的反応

←印象評定 法を用いた研究はこれまで見当たらない

 

2-3-2 方法

a 観 察者 とは異なる62名の判定者(男性40 名女性22名)

b 判定者に6つの平均顔が基本6感情のどれに該当するか を分類させる

2-3-3 幸福 、驚きを表す表情 刺激

a 同調する表情を作る

b 幸福を表す表情刺激を見ている時の観察者表情の平均顔

c 総合顔・女性顔・男性 顔→幸福と分類(95%以上 )

d 驚きの表情刺激を見ている時の観察者表情の平均顔

e 総合顔・女性顔・男性顔→驚きと分類(79%)

2-3-4 嫌悪、恐怖を表す表情刺激

a 同調的な表情を作らない

b 嫌悪の表情刺激を見ている時の観察者表 情の平均 顔

c 総合顔・男性顔→悲しみ

d 女性顔→恐怖

e 嫌悪と分類した判定者は20%未満

f 恐怖を表す表情刺激を見た観察者表情の平均顔

g 総合顔・女性顔・男性顔→怒り、嫌悪

2-3-5 怒りを表す表情刺激

a 男女顔で異なる傾向がある

b 怒りを表す表情刺激を見ている時の観察者表情の平均顔

c 総合顔→怒りに分類(41.9)、嫌悪に分類(41.9%)

d 女性顔→ 嫌悪と分類(48.4%)、怒りと分類(27.4%)

e 男性顔→悲しみと分類(35.5%)、嫌悪と分類(25.8%)

2-3-6 悲しみを表す表情刺激

a 男女顔で異なる傾向がある

b 悲しみを表す表情刺激を見た観察者表情の平均顔

c 総合顔 →恐怖と分類(51.6%)、悲しみと分類(17.7%)

d 男性顔→怒りと分類(50.0%)悲しみと分類(6.5%)

e 女性顔→悲しみと分類(58.1%)

 

3 顔アイコンに対する同調的反応

 

3-1 情動の伝 染

a 人は笑顔の表情にある他者を見ることで自身の表情も同調的 に反応して笑顔になる

b 楽しい気分になる

c 現実の笑顔だけではなく映像や 写真によっても同様の反応が起きる

3-1-1 目口のパーツからなる笑顔のアイコンを付加した作品

a 気分が改善する心理的効果が期待

b 自身の表情も同調的に反応 して気分が変化する

3-1-2 ワークショップ

a ハロウィンの かぼちゃ作りを実施

b 目口のパーツを付ける

c 参加者が自分の作品を見て笑顔になる現象を確認

d 小児医療施設で紙粘土 でナースコールを制作

e 参加者が目口のパーツを付けた作品を制作

f 自分の作品に向かって笑顔で話しかける様子を確認

 

3-2 顔文字に対する表情判別と脳活動 の研究

顔文字:メール やチャットなどで用いられる記号を組み合わせ、顔の表情をあらわしたもの

3-2-1 考察

a 顔文字が非言語コミュニ ケーションに関連することが示唆

b 表情を簡素化した顔アイコンを見ることで自身の表情 も同調的に反応して楽しい気分になる

c 表情のフィードバッ クによって感情が変化する可能性

3-2-2 顔文字を見た時

a右紡錘状回は有意に賦活しない←顔の認知に関連する

b 右下前頭回が有意に賦活する←感情の弁別に関連する

 

3-3 目口のパーツからなる顔アイコンに対する同調的反応調査

3-3-1 目的

a 表情の変化 を調査

b 笑った顔および怒った顔のアイコンを鑑賞、配置、描画する

c 異なる創造レベルの課題を実施

3-3-2 方法

a 実験 協力者:21~24 歳の健常な大学生8名

b 安静閉眼15sec、安静開眼15secのレストを行った後15sec の課題を実施

c Android のアプリケーションを用いる

d 実験後に記述アンケート調査 と口述調査を実施

e 気分の変化、絵画や描画に対する嗜好や馴染みに関する

f 使用する顔アイコン

→プログラムのデザイン要素として取り入れやすい点や線の表現による簡易な形の目口のパーツ(図表2)

 

3-3-3 課題内容(図表3)

a 創造 レベル4種類、表情2種類の計8パターンを実施

b Level1 Static Image:顔アイコンの静止画を鑑賞

c Level1 Dynamic Image:普通の表情から変化する顔ア イコンの動画を鑑賞

d Level2:目口のパーツを配置して顔ア イコンを作成

e Level3:目口のパーツからなる顔アイ コンを描画

f 表情2種類:笑った顔、怒った顔

 

3-4 結果

3-4-1 表情の変化

a 笑った顔を描画する課題において口角が上がる表情の変化がみられる

b 絵画鑑賞や描画を好む、描画に馴染みがある実験協力者に起きやすい

3-4-2 Level1 Static Image :顔アイコンの静止画を鑑賞

a 笑った顔→実験協力者全員に表情の変化はみられない

b 怒った顔→実験協力者 A に口角が下がる表情の変化

3-4-3 Level1 Dynamic Image:普通の表情から変化する顔ア イコンの動画を鑑賞

a 笑った顔→実験協力者全員に表情の変化は みられない

b 怒った顔→実験協力者 C に口角が下がる表情の変化

3-4-4 Level2目口のパーツを配置して顔ア イコンを作成

a  笑った顔と怒った顔→実験協力者全員に表情の変化はみられない

b 課題実施時間の全体を使って配置する作業を行っていたことが関係

3-4-5 Level3:目口のパーツからなる顔アイ コンを描画

a 笑った顔→実験協力者 8 名中 5 名に表情変化を確認

b 課題実施前(レスト)と描画時、描画後を比較

c 口角の上昇、頬の上昇、目が細くなる、唇の 動き

d 怒った顔→実験協力者全員に表情 の変化はみられない

3-4-6 記述アンケートと口述調査

a 気分の変化を感じている 実験協力者全員に表情の変化を確認

3-4-6 実験 後の調査

a 怒った顔の課題に気分の変化を感じている実験協力者については表情の変化はみられない

b 怒った顔の動画および静止画を鑑賞する課題

c 口角が下がる同調的な反応がみられた実験協力者

d 描画を好んでいることを確認

e スマイルアイコンによって気分が改善する心理的効果

f 絵画や 描画に関する嗜好や馴染みが影響

スマイルアイコン:心理的効果が期待できる笑顔のアイコン

 

4 笑い声の伝染・増幅効果

 

4-1 笑 いの神 経伝 達 回路

a 笑い刺激により活性する脳の領域をfMRIによって可視化

fMRI(機 能 的 核磁 気 共鳴 画像法

):MRI装置を使って無害に脳活動を調べる方法

4-1-1 笑 い の神 経伝 達経 路 を3つ の過程 に分類

a 笑い刺激を認識し快と不快を判定する過程(情動判定)

b 笑いを表情や笑い声として表出する過程(情動表出)

c 笑いに伴う感情を体験する過程(情動体験)

4-1-2 笑いの2分類

a くすぐり刺激等によって誘発される先天的な笑い

→大脳辺縁系の扁桃体で情動判定される

b 漫才等によって誘発される認知的な笑い

→扁桃体と大脳皮質の前頭前野で情動判定される

扁 桃体 :内外環境から加えられた刺激を受容して、それが決か不快か(好きか嫌いか) 判定する領域

←情動 の中枢

4-1-3情動判定された笑い

a 共に線条体と前帯状回を介して笑い表情や笑い声として表出される

b 前帯状回は情動を体験する領域としても考えられる

 

4-2 笑いの伝染効果

4-2-1 1962年タンザニアで起きた学校閉鎖事件

a 小学校の授業中に少女3人が笑い始めた

b その笑いが学校中に伝染

c 小学校が臨時閉鎖となった

4-2-2 笑い誘発実験(Provine)

a 他者の笑い声のみでも笑いが誘発可能であると報告

b 大 学生 に笑 い 袋 を持 たせる

笑い袋:ボタンを押すと録音された笑い声が再生されるジョークグッズ

c 約5割 近 くの被験 者 に笑 いが誘 発 された

d 約9割 近 くの被験 者 に笑顔 が誘発された

 

4-3 心理学における笑い声に関する研究

4-3-1 ラフトラック

a "laugh track"や"canned laughter"と呼ばれる笑い声に関する研究

ラフトラック:ラジオやテレビ番組のサウンドトラックに加えられている予め録音してある笑い

b 人の笑いを増幅させる効果

c 様々なジョーク集にラフトラックを付加

d 人の笑いが増幅されたという研究成果が 報告

e アニメやコメディ動 画にラフトラックを付加

f 笑 いが増 幅 されたという研究成果も報告

 

4-4 Chapman(1973)らの研究

a 他者と一緒にコメディ動画を視聴

b 笑いがさらに増幅されると報告

4-4-1 実験結果

a 二 人で動画を視聴した方が有意に笑いと笑顔の頻度が増 したと報告

4-4-2  方法

a 被験者を一人で動画を視聴する群と二人で動画を視聴 する群に分ける

b それぞれの笑いと笑顔の程度を観察

 

4-5 神経科学における笑い声に関する研究(Warrenら)

a 笑い声には笑い伝染効果がある事を報告

b 人が 笑顔になる時に活性する脳の領域補足運動野・運動前野

c 人が笑い声(ポ ジテ ィブな音)を聞いただけでも活性する事を発見

4-5-1 方法

a 様々な非言語音声を被験者に聞かせた時に活性する脳の領域をfMRIで計測

b 被験者が自発的に笑顔になった時に活動する脳の領域を計測

c それぞれの領域を比較

4-5-2 実験結果

a 二つの領域は運動前野・補足運動野で被っていた

b 運動前野・補足運動野領域 における脳の活性量を音声の種類毎で比較

c 笑い声や歓喜等のポジティブな音声の方が強い活性を示す事を発見

 

4-6 苧 阪 らの研究

a 笑いを表した擬態 語(オ ノマ トペ)にも笑いを伝染させる効果がある事が報告

4-6-1 方法

a 被験者に笑いの擬 態 語(ゲ ラゲ ラ等)を聞かせる

b 脳 の活性をfMRIで計測

4-6-2 実験結果

a 舌状回と前運動野・補足運動野が共に活性していた事を発見

b 舌状回:人が他人の笑顔を視覚的に認知する時 に活性する脳の領域

c 前運動野・補足運動野:人が笑顔になる(運動する) 時に活性する領域

4-6-3 追実験結果

a 笑いの擬態語によって線条体も活性化していたことを発 見

b 人が笑いを出力する場合は線条体や扁桃体が活性する

→人は笑いの擬態語を聞くと笑いを出力しようとする事 が推測できる