担当:とみ
1.笑顔の幾何学的特徴
1-1 笑顔の魅力に関するアンケート
1-1-1 魅力的な笑顔の要因を解明することが目的
a 感性工学を取り入れる
b 笑顔を12領域に分割
c 顔の輪郭、額、眉、眉間、眼、目尻、鼻、頬、鼻唇溝、口元、口(唇)、頤、下顎)
d 笑顔を特徴付ける顔の部位
e 眼、目尻、口、口元
1-1-2 人が笑顔のどの部位に魅力を感じるかについてアンケート(図表1)
a 男女ともに最も魅力的に感じる笑顔の部位は眼
b 眼に次いで魅力のある部位は口
c 眼と口に関する部位が回答総数のおよそ64%を占める結果
d 最も魅力的に感じる笑顔の部位を12領域から選ぶ
e 男性画像に対して50名、女性画像に対して31名の回答者
f 口元、目尻などの眼と口に付随する部位も笑顔の魅力要因として大きい
1-1-3 表情の認識
a いかなる顔形態の違いにおいても感情の共通認識が得られる
b 人種や民族の違いはない
c 顔には多様な情報が含まれている
d 認識においては部位によって重要性に偏りがある
1-2 笑顔の魅力を眼と口の相対位置に求めた研究
1-2-1 主観的輪郭図形(Kanizsa,1955)
a 物理的に非等質な平面 に輪郭を知覚
b 特定の図形が浮かび 上がる
c 実際ない図形や輪郭を想起
←人の視覚機能の特性に基づいた行為
1-2-2 笑顔の表情矩形の特徴(図表2)
a 笑顔の表情矩形が黄金比矩形になる
b 笑顔画像の眼と口を2値化処理によって強調
c 外眼角と口角の位置を求める
d 上辺の端点:眼角
e 下辺:口角を通過する線分
f 外眼角、口角よりあて はめられる矩形を表情矩形と仮称
1-2-3 黄金比1.618
a さまざまな矩形のなかで最も美しいとされる
b フェヒナーをはじめとする心理学者の調査で明らかにされている
c 起源は不明だがドイツで使われ始めた
d 建築、絵画、音楽などに用いられる
e 笑顔のアスペクト比が黄金比1.618に極めて近い値
f アスペクト比:矩形の縦横長さ比
1-3 無表情時の表情矩形と笑顔の表情矩形の特徴を比較
1-3-1 調査方法
a 成人男女各10人の無表情時と笑顔の正面写真画像を使用
b 無表情
→開眼でリラックスした状態を被写体に求める
c 喜怒哀楽の感情が読み取れないものを調査試料とする
d 笑顔
→出来る限り自然な笑顔を撮影することを意図
e コミュニケーションを取りながら任意のタイミングで撮影
f 20名の無表情と笑顔の写真試料の表情矩形アスペクト比を算出
1-3-2 笑顔のアスペクト比結果(図表3)
a 笑顔には美の象徴である黄金矩形が表れることが確認された
b 笑顔のアスペクト比はばらつきが少ない
c 最小値:1.57最大値:1.73
d 70%の試料がアスペクト比1.60~1.65
e 笑顔のアスペクト比の平均:1.63±0.04
←黄金比1.618に近い値
1-3-3 無表情のアスペクト比結果
a 無表情のアスペクト比はばらつきが大きい
b 最小値:1.26最大値:1.54
c 無表情のアスペクト比の平均:1.40±0.07
d 無表情時にアスペクト比のばらつきが大きいことは顔貌の違いがおおきく反映されている
1-3-4 顔の形態による違い
a 面長の顔の場合はアスペクト比が小さい
b 童顔と言われる顔はアスペクト比が高い
Ex) 両眼の間隔が離れている、眼,鼻,口のパーツが顔の低い部位にある、眼と口の間隔が狭い
c 顔の形態に基づいた表情筋構造の違い
d 表情筋運動の優劣による違い
e 無表情のアスペクト比が最も低い被写体の変動幅:0.34
←無表情時:1.26笑顔時:1.60
f 無表情のアスペクト比が最も高い被写体の変動幅:0.08
←無表情時:1.54笑顔時1.62
g 全ての笑顔について黄金比が表出するかは定かでない
Ex)ひきつった笑い、苦笑い、照れ笑い
1-4 魅力的な笑顔と魅力の無い笑顔の黄金矩形観察
1-4-1 結論
a 顔の形態では個人差が大きい
→万人の魅力的な笑顔が黄金比を有するとはいえない
b 人は魅力的な笑顔を形成しデザインすることで美しさを自在に表現できる
1-4-2 実験方法
a 成人男女各10名を対象
b 無表情と笑顔の正面写真を撮影
c 無表情:撮影者、被写体共に表情が読み取れないと判断したもの
d 笑顔:「はい、笑って」という掛け声を発した直後の被写体の表情
e 撮影された5枚の笑顔写真画像に対して、被写体が自ら魅力的に感じる笑顔の順位づけを行う
f 5枚の笑顔写真画像のなかで順位が最も低かった画像
→ワーストスマイル
g 最も魅力的だと感じた笑顔画像
→ベストスマイル
h 20名の無表情、ワーストスマイル、ベストスマイルの表情矩形アスペクト比を算出
1-4-3 アスペクト比の平均の結果
a 無表情:1.40±0.06
b ワーストスマイル:1.56±0.07
c ベストスマイル:1.60 ±0.05
1-4-4 総括
a ベストスマイルは黄金比に近い値を示した
b ワーストスマイルに美的な幾何学図形は表出しない
c ワーストスマイルは明らかにベストスマイルに比べて表情矩形のアスペクト比が低い
→笑 顔の特徴に欠けている
d 1-3での調査より笑顔のアスペクト比の平均結果の差が大きい
e 単調な掛け声に対する表情形成
f 口角が十分に引き上げられた強度の強い笑顔の試料が被写体から引きだせなかった
1-4-5 表 情 矩 形 のアスペクト比 を変化 させる要因
a 外 眼 角 の位置 、口 角の位 置
b 外 眼角 の位 置は物理的に は変化しない
c 眼裂が狭まることで認識位置が顔の外側にわずかに移動する
d 口角は頬と口周辺の複数の表情筋によって変化する
←アスペクト比を大きく左右させる
e 魅力的な笑顔のデザイン作りの必須事項
f 大頬骨筋の筋収縮をスムーズに行うような表情筋トレーニングやマッサージ
g 笑顔 の出やすい環境づくり
1-5 眼裂形状の分析
a デュシェンヌスマイル:口や目の周りの筋肉活動が高い、目が笑っているこころからの表情
b ノンデュシェンヌスマイル:不自然な笑顔や社交辞令的ほほ笑み
c 19世紀のフランスの神経学者デュシェンヌにちなんで命名
1-5-1 デュシェンヌスマイルの目の形状特徴を明らかにする実験
1-5-2 結果
a 魅力的な眼の上眼瞼と下眼瞼の傾きは非魅力的な眼より小さい
b 眼裂の面積、円形度、幅、針状度などにおいて有意差が見られた
c 魅力的な眼の眼裂が狭いことを示した
1-5-2 実験方法
a 120枚の笑顔の目の画像
b 魅力度の高い7画像と魅力度の低い7画像を抽出
c 14の眼の輪郭をトレース
d トレース:原図を薄紙などに透かして、敷き写すこと
e 上眼瞼、下眼瞼とそれらに囲まれた眼裂部分の特徴量を算出
f 魅力的な眼と非魅力的な眼の比較
1-5-3 結果を踏まえた実験
a 上記の幾何学的特徴をさらに主成分分析にかける
b 魅力の判断に おける優先順位を求める
1-5-4 結果
a 上眼瞼が滑らか
b 眼 裂が狭い
c 下眼瞼が直線的
←笑顔のアイコンや絵文字の特徴
1-5-5 笑顔のアイコンや絵文字
a 笑 顔のシンボリックな表現の根拠を裏付け
b 目の形状は円弧で表現されることが多い
Ex) (^^)、(^o^)、(^v^)
c 笑顔の上眼瞼の形状 が感性情報として強調されていることが推察される
2.笑顔の認知
2-1 笑いを見抜く方法
a 小山謙二
b NTTコミュニケーション科学基礎研究所 小山特別研究室室長
c 感性伝達を研究
d 感性伝達理論:人間と人間のコミュニケーションの仕組みを感覚や感性から追求
e コンピュータグラフィックスで顔が笑うプロセスに動画像を作成
f 目と口が動くタイミングや表情の変化を分析
2-1-1 笑いを3種類に分類
2-1-2快の笑い:喜んで笑う
a 口が先に動いて目は後から動く
b 口から先に動くのは言葉との関係
c 笑い声が先にでやすい
2-1-3 不快な笑い:嘲笑、苦笑、嘘笑いなど
a 目が先に動く
b 目の動きが止まった後に口が動く
2-1-4 社交辞令の笑い:営業スマイル
a ほとんどは作り笑い、愛想笑い、ごまかし笑いといった類
→不自然な笑い
b 目と口とが同時に動き始める
c 目の動きが終わった後に口の動きが完了
2-1-5 目の中の瞳孔の部分は嘘をつけない
a 瞳孔の大きさが人の気持ちの変化を素直に表す
b 人の瞳孔は、周囲の明るさに応じて大小する
c 何かに積極的な感情(大好き、楽しいなど)を持つ
→大きくなる
d 消極的な感情(大嫌い、悲しみなど)、嘘をつく
→小さくなる
2-2笑いのメカニズムの解明
2-2-1 笑いの表情の種別判定における注視点の影響
a 目と口の動きの時間差が笑いの表情の種別判定に影響を及ぼす
←注視点の影響を考察
b 顔の特定の部位を注視させて種別を判定させる実験
2-2-2 結果
a 注視点を口に固定した場合に快の笑いの割合が有意に上昇
←被験者は先に動き始める部位を注視し続けるという仮説
2-2-3 実験方法(図表4)
a 目と口の動きの開始時刻のみが異なる笑いの表情の動画をコンピュータグラフィックスにより作成
b 目あるいは口の位置にマーカーを約0.7秒間表示
c 呈示後マーカーと同一位置に5桁の乱数を約0.3秒間表示
d 被験者に2つのタスクをさせる
e 笑いの動画を快・不快・社交の笑いのいずれに分類
f 上記5桁の数値を記述
2-2-4 顔面表情と腹部の動きの時間差に基づく作り笑いの解明
a 笑いの表出は主として顔面の目と口の表情に現れる
b おかしいときの笑いでは腹部の激しい運動を伴う
2-2-5 実験結果
a 性別による差がみられた
b 男性の作り笑いでは、自然な笑いに比べ、 腹部の反応がより遅れる
c 女性の被験者群では有意差がない
2-2-6 男性被験者群
a いずれの笑いでも腹部の動きが遅い
b 顔面表情と腹の動きとの時間差平均
c 自然な笑い:0.19秒
d 作り笑い:0.60秒
e 目と口の反応開始時間の差は極めて小さい
→笑いの違いによる有意差はない
2-2-7 実験方法
a コメディビデオを見た時の自然な笑いと作り笑いの表出の違いを検証
b 自然な笑い:面白いため発生した笑い
c 作り笑い:面白くないがわざと起こした笑い
d 2カ所の動きをそれぞれ計測
e 目と口の周辺部の表情筋(眼輪筋、頬骨筋)の動き:筋電計
f 腹部の動き:胸囲式呼吸計
g 各指標の反応開始の時間差を観察
3.作り笑いが受け手に与える影響
3-1 作り笑い
a ネガティブなものと捉えられる
b コミュニケーションスキルの1つ
3-1-1 表出者との相互作用に着目
→コミュニケーション要因に着目
3-1-2 笑いの効果
a 免疫機能の向上、気分や主観的幸福感、肯定的変化、社会機能など
←ポジティブな効果が様々研究される
→次回記載
3-1-3 定義
a 「面白おかしいといった自然な快感情を伴わない、社会的機能を持った笑い」(仙葉ら,2022)
b 研究者によってさまざま
c 「面白おかしいといった自然な感情によらない、表向きだけの笑顔を伴う笑い反応」(押見,2002)
d 「快感情を伴わない、及び社会的機能をもつ笑い」(李ら,2011)
e 「照れ笑い、愛想笑い、といった感情に反したような笑い」(五十嵐ら,2016)
→自然発生的な快感情を伴わない、社会的機能を持つ
f 共通点を認識
3-2 作り笑いの影響
3-2-1 ネガティブな影響
a 精神的・身体的健康のどちらにも肯定的影響を及ぼさない
b 精神的健康度に影響
→日常において作り笑いの頻度が高い人は、低頻度の人に比して有意に低い
c 感情と反した作り笑いには心理的抑圧が働くと考察
d ネガティブな感情がそのまま結果に反映された可能性
e 作り笑いを分類
→「同意する笑い」「オーバーリアクションな笑い」「回避する笑い」「無理な笑い」
f 「同意する笑い」「無理な笑い」がネガティブ感情を促進
Ex)抑うつ・不安、敵意、倦怠等
3-2-2 ポジティブな効果
a 整膚と笑いヨガを用いて検討
整膚:皮膚を引っ張り組織を陰圧にすることでリンパと血液循環の促進をさせる
笑いヨガ:笑いと深呼吸を組み合わせた健康体操
b NK活性の有意な上昇
NK活性:がん細胞やウイルスに感染した細胞を攻撃するNK細胞の強さ
c ストレス(コルチゾール)の低下傾向
d 緊張や不安、抑うつ、敵意や怒り、混乱、疲労の低下
e 活力の増加、気分の良好な変化
f 自尊感情の向上及び状態不安の低減
g 活動的快や親和などの感情を促進
←オーバーリアクションの笑い
3-2-3 笑顔の判断
a 表情筋活動の順序の違いによる認知
b 発生動機の判断も可能
c 科学的に識別可能な笑いの差異
d 人間の知覚水準では不十分
e コミュニケーションの受け手としての観察力の性差
f 女性の観察者の方が「極端な笑い」の評価点が低い
3-3 作り笑いが受け手の気分や印象に与える影響実験
3-3-1 実験結果
a 「敵意」について交互作用が有意(図表5)
b 敵意:敵意のある・攻撃的な・憎らしい・うらんだ・むっとした
→笑い多用群よりも笑い禁止群の方が高い
c 笑い禁止群において敵意の著しい上昇
d 個人的親しみやすさ:明るい・すなおな・親しみやすい・ユーモア・ 親切な・さっぱりした・感じのよい・心の広い
→笑い禁止群に比べ笑い多用群の得点が有意に高い(図表6)
3-3-2 実験方法
a 先輩・ 後輩ペアを対象
b つまらない話を2回するという場面設定を用いる
←予備調査、予備実験によって決定
c 先輩が話し手、後輩が聞き手と役割を統一
d 笑い多用群:聞き手に笑いを多用するよう求める
e 笑い禁止群:笑わないよう求める
f 実験中の両者の様子の回答を求める
Ex)作り笑いをしていたか、指示通り作り笑いができたか・または笑顔をもちいず対応できたか、どのような作り笑いをしたか←笑い禁止群の聞き手は無回答
3-3-3 作り笑いが受け手の気分に与える影響
a 受け手が敵意を抱くことを防ぐことができる可能性
b 作り笑いの社会的機能を実証
c 敵意はネガティブ感情の指標
d ネガティブ感情の抑制
e 作り笑いの受け手の気分にポジティブな影響
3-3-4 作り笑いが受け手の印象に与える影響
a 笑顔の魅力度向上効果が作り笑いでも生じる
b 対話中の作り笑いについて印象の評定
→これまでの知見と異なる結果
c 二者間の相互作用の中でポジティブな側面を発揮
3-3-5 顔画像を用いた研究(李ら,2012)
a 日本人は作り笑い顔に対してネガティブな印象、不信感を持つ
b コミュニケーションの文脈がない作り笑い
→受け手に不信感等のネガティブな印象を与える
c コミュニケーションの中で用いられる作り笑い
→相手の印象がポジティブなものとなる
←関係性維持や雰囲気の調整などの社会的機能が働く
3-3-6 作り笑い顔画像の観察(Surakkaら,1998)
a 非感情的笑顔にポジティブな影響は見られない
3-3-7 作り笑いが受け手に与える影響の検討
a 相手の気分や印象の悪化を防ぐ可能性
b 相手との関係性の維持
c 双方の気分の肯定的変化
→コミュニケーションの良循環、関係性が良好になる効果
d 積み重ねが不十分
e 受け手に与える影響は一義的でない