第5章 消費者行動分析、第6章 製品戦略、第7章 ブランド戦略

第5章 消費者行動分析

第6章 製品戦略

第7章 ブランド戦略

(公式)日本マーケティング協会 監修 恩藏直人・三浦俊彦・芳賀康浩・坂下玄哲 編著
ベーシック・マーケティング第2版　同文館出版
 
担当：さあ、たか、よさ

第5章 消費者行動分析

5-1 マーケティングにおける消費者行動分析

5-1-0 顧客の理解

a 企業が生き残るためには、規模や業界を問わず消費者や顧客の理解が不可欠

←消費者行動分析がマーケティングの基本となる

b マーケターは自社製品のターゲットだけでなく、それ以外の消費者についても理解や考慮が必要である

5-1-1 消費者行動の分析水準

a ドラッカーは｢マーケティングの最終目標は、セリングを不要にすることである｣と述べる

←顧客志向に合わせれば、売り込みをしなくても消費者が自ら行動するであろうという考え

b 社会志向の実現にも消費者行動分析は不可欠

Ex) CSR(企業の社会的責任)の評価

c 消費者行動分析は3つに分類できる

←消費行動：貯蓄と消費や消費支出の配分など

←購買行動：ブランド選択や購買量／購買時期など

←購買後行動：消費行動、リサイクル、クチコミなど

5-1-2 消費者知覚の特性

a 刺激に対する人間の知覚は他の要因によって変化する

←このような解釈の歪みを知覚バイアスと呼ぶ

b 知覚の選択性(選択的知覚)

←接触した情報の全てではなく、一部にのみ注意をむける特性

c 知覚の選択性に影響を及ぼす要因はさまざま

←物理的要因：大きさ、色、動き

←認知的要因：対照的、違和感や意外性のある刺激

d 知覚の解釈段階にもこうした要因が影響することも

Ex) こたつの熱電源をオレンジ色にする(物理的要因)、妥協効果や魅力効果(認知的要因)、1人で食べる食事より友人や家族との食事がおいしく感じる(情緒的要因)

5-1-3 知覚マップ

a 知覚品質(perceived quality)

←消費者によって主観的に意味づけされた品質

b 知覚品質に影響を及ぼすものにブランドがあるため、知覚マップを用いて消費者がどのようにブランドを知覚しているか確認する必要がある

←多様なブランドに対する消費者の知覚を図示したものである(図表5-1)

c 知覚マップのメリット

←ポジショニング戦略の方針を固めやすい､競合ブランドの識別や競争状況の把握､手つかずのポジションの発見

d 知覚マップにも限界がある

←消費者の態度は表現されないため、空白領域を発見しても消費者ニーズや、市場の潜在性があるとは限らない

5-2 ブランド･カテゴライゼーション

5-2-1 ブランド･カテゴライゼーションとは

←ある製品カテゴリーに含まれるブランドの全体を、消費者の認知、情報処理、態度によっていくつかの下位集合へと分類することで整理しようという枠組み

a Brisoux and Laroche(1980)のモデル

b Peter and Olson(2005)の枠組み

←考慮集合と想起集合を区別して考える

c 想起集合サイズ(想起集合に含まれるブランド数)

←サイズは平均3前後で消費者要因により異なる

d 想起集合サイズとは正の関係や負の関係になる

5-2-2 ブランド･カテゴライゼーションから導かれる戦略課題

a あらゆるブランドは想起集合に入ることが最終的な戦略目標となる

←自社ブランドをどの製品カテゴリーとして消費者に認識させるかが重要な課題に

Ex) ｢紅茶味のフレーバー水｣、｢透明な紅茶｣

b 同化対比理論

←ある一定の範囲を境として、範囲内はほとんど同じ、逸脱していれば実際より大きな差として知覚する傾向

Ex) ガム、ブランド名

c 想起集合に入るには当該製品カテゴリーの中でほどよい異質性をもたせることも有効

5-3 消費者の購買意思決定プロセス

5-3-1 現状における消費者の満足度

a 現代の企業は消費者の意思決定プロセス全体により目を向ける必要がある

b ある商品の購買を想起した消費者が、購買に至る前にプロセスを中止してしまうことは少なくない

Ex) レジの行列、販売員の対応、商品を決められない

c 購買意思決定プロセスの途中で起こる問題は、自社の顧客や見込み客が他者の顧客になる可能性がある

5-3-2 購買意思決定プロセス

a CDP(Consumer Decision Process)モデル

←問題認識、情報探索、選択肢評価、購買、購買後評価

b 理解することのマーケターのメリット

←消費者が商品を購買(非購買)した理由を考察できる、追加的購買の促進方法を発見できる、製品開発において重視すべき属性が把握できる、消費者が欲している情報を効果的なフォーマットで提供することが可能になる　

c 消費者の満足度は購買前の期待と実際得られた製品パフォーマンスの差により決定

d 期待が直接満足度に影響を及ぼすことも

5-3-3 決定方略

a 消費者が想起集合から購買する商品を選ぶ際、決定方略(decision strategy )という心理的操作が行われる

b 決定方略にはさまざまなタイプがある

←加算型、加重加算型、連結型、分離型辞書編纂型、感情依拠型

c 同一の消費者でも、状況によって異なる方略を用いる

5-4 情報処理アプローチ

5-4-1 消費者意思決定研究の流れ

a S-Rモデル：1960年代

←どのような刺激(stimulus)に対してどのような反応(response)が生じるかを解明する研究

←生活者(organism)はブラック・ボックス

b S-O-Rモデル：1960年代中盤

←消費者の内的な反応過程を解明しようとする

c 情報処理モデル：1970年代から現在

←自ら積極的に情報を探索し処理する能動的な消費者像を仮定

5-4-2 消費者関与概念

←ある対象物や事象と消費者の関わり合いの程度

a アサエルの購買行動類型

←関与と消費者購買行動をまとめた有名な枠組みで､消費者関与の高／低とブランド間知覚差異の大／小によって､消費者の購買行動を４つに分類したもの

Ex) 高×大

←消費者は複雑な情報処理を行ない購買するため､あらゆる顧客接点で適切な情報提供をするように心掛ける製品カテゴリーの分類が必要

Ex) 低×小

←消費者は慣性的な購買行動(常に買う商品､特売商品の購入)をとるため､店頭プロモーションの重要性が高まる

Ex) 高×小

←商品の購買後､消費者の認知的不協和(この商品で良かったのか等の自己内部の矛盾)が生じやすいため､広告が有力なツール

Ex) 低×大

←バラエティ・シンキング(現在の使用ブランドに満足しているが刺激や多様性を求めるためにブランド・スイッチをすること)が生じやすいため､製品のバリエーションを増やすライン拡張が重要

第6章 製品戦略

6-1 製品とは何か

6-1-1 製品の捉え方

a 中核部分：製品のベネフィット(便益)

Ex) ミラーレスカメラ：撮りたいものを撮りたいときに撮る

b 実体部分：製品デザイン､ブランド名､パッケージ､特徴､品質水準

Ex) 上記のミラーレスカメラのベネフィットを提供するために名称､部品､スタイル等が組み合わされている

c 付随部分：付加的なサービス

Ex) 長期保証､使い方の無料講習､カスタマーサポート

6-1-2 製品の分類

a 製品とサービス：有形か無形かという違い

b 耐久財と非耐久財：耐久性があるか否かという違い

←耐久財：長期の使用に耐えうる財

Ex) 冷蔵庫､自動車､工作機械

←非耐久財：短期の間に消耗してしまう財

Ex) 食料品や日用雑貨品

c 消費財と生産財(産業材)：消費者向けか産業向けか

d  FCBグリッドによる製品の分類

←関与の度合いと製品特性の違いから製品を4つに分類

6-1-3 製品ミックス

←製品ライン(企業がとり扱う製品カテゴリー)と製品アイテム(各ラインに含まれるブランド､価格､サイズ､スタイル等のバリエーション)の組み合わせ

a 「幅」「深さ」「長さ」「整合性」の４つから捉える

←「幅」：製品ラインの数

←「深さ」：各製品ラインに含まれる製品アイテムの数

←「長さ」：企業がとり扱っている製品の総量

←「整合性」：用途やチャネル等の面から､各々の製品ラインがどれだけ密接に関わっているかという程度

b 製品ミックスの拡大方法

←水平的拡大：既存の製品ラインと同じ市場のなかで新たな製品ラインを設けていく方法

Ex) 飲料メーカーが炭酸飲料に加え､乳酸飲料を新たに提供する

←垂直的拡大：製造工程からみて既存の製品ラインよりも前方ないし後方の市場へと進出していく方法

Ex) 繊維メーカーが一般的な衣料を作り始める

←異質的拡大：今までの製品ラインとは大きく異なった市場へと進出していく方法

Ex) 一般向けの衣料スーパーが野菜の販売を始める

6-2 製品開発

6-2-1 参入順位

a 先発者：いち早く製品開発に携わった場合

←メリットは、消費者の心中に参入障壁を形成、経験効果が得られる､うま味のある市場を獲得できる等

b 後発者：他者よりも遅れて製品開発へ携わった場合

←メリットは、需要の不確実性を見極められる､研究開発やプロモーションに要するコストの縮小､消費者の変化に対応しやすい等

6-2-2 単独開発と共同開発

a 単独開発：自らの組織だけで製品を作る

←ニーズ志向：消費者調査による要望や不満等を製品開発へ活かしていく

←シーズ志向：自らの組織が持っている技術やノウハウを製品開発へ活かしていく

b 共同開発：他の組織とともに製品を作る

←垂直的共同開発：チャネル段階の異なる組織同士

Ex) コンビニと食品メーカーが協力して製品を制作

←水平的共同開発：チャネル段階が等しい組織同士

Ex) 複数の自動車メーカーが協力して1つの新車を制作

6-2-3 新製品開発のプロセス

6-2-4 一般的なプロセス

←以下6つの手順から生み出される

a アイデアの探索と創出：新製品の為のアイデアが収集され整えられる

Ex)組織内：トップ・マネジメント、販売部員、製造部員

組織外：消費者、取引先、業界紙、競合他社の製品

b スクリーニング：組織の目標や標的顧客などを念頭に置き、良いアイデアは採用、悪いアイデアは除去する

c 事業性への分析：定性的な分析と共に定量的な分析がなされる

←消費者の選好が調べられ、新製品の特徴が定まり、アイデアが製品コンセプトとしての性格を持つようになると市場におけるポジショニングを検討でき投資収益率などの定量的な分析が可能となる

d 開発：新製品のプロトタイプを作成する段階

←部門の壁を越えて交渉する機会が増えるため、意見を調整するだけの時間や労力が求められるようになる

e テスト：実際の市場や実験室を用いて新製品のプロトタイプの成果を確認する

←リスク回避や価格戦略、プロモーション戦略の手がかりを得ようとする目的で行われる

f 市場導入：テスト結果を踏まえ調整がなされた後、見込みのある新製品が導入される

←市場において機運が高まっており、競合他社との兼ね合いも好ましいタイミングの中で製品は導入されるべき

6-2-5 アプローチの違い

←新製品の開発スピードを左右する要因になる

a リレー型アプローチ：開発プロセスの段階ごとに組織内の役割分担がはっきり示され直列的に進むアプローチ

←特定の段階を任された部門やグループはその段階で生じた問題を全て解決した後に次の段階へ作業を引き継ぐ

b ラグビー型アプローチ：プロセスの各段階を重複させながら、いくつかの部門やグループを開発期間の最初から最後までほとんど同時期に活動させるアプローチ

←各段階が並行して進んでいくため、新製品を生み出すための開発期間は短くなる

c 単純重複型アプローチ：各段階を少しずつオーバーラップさせるため、開発作業を次の段階へ預けるのにデッドタイムが生じない分開発期間が短縮されるアプローチ

←異なる部門やグループ間で食い違いが生じたとしても少ない時間と労力で調整が進められるため様々な開発の中で採用しやすい

d 短縮連鎖型アプローチ：1つ1つの段階に要する時間が少なく各段階が鎖のように繋げられていくアプローチ

←部門などはそれぞれの役割に専念できるが段階ごとの作業時間がしっかり管理されるため開発途上で起こりうる新しいアイデアや修正のリクエストには対応しにくい

6-3 製品ライフ・サイクル

6-3-1 製品ライフ・サイクルの概念

←製品が市場に導入されてから消滅するまでのプロセス

a 導入期：新製品が初めて送り出された段階

←市場内で製品のベネフィットが明確に理解されない為、売上高は低いレベルに、利益高も新製品開発に要する設備投資や多大なプロモーション費用でマイナスとなる

b 成長期：市場が大きく膨らみ生産コストの低下に伴う値下げなどにより売上高が急速に伸びる段階

←利益高も同様に上昇するが後半はブランド間の競争が激しく、各種コストが高まる為利益高はピークを迎える

c 成熟期：売上高の伸びが鈍り始め利益高も下降する

←買い替えなどが主流で自社のシェアを高める為に他社のシェアを奪取しなくてはならない為競争は激しくなる

d 衰退期：売上高と利益高が共に減少していく段階

←代替製品、技術発展、トレンドの変化、政府の規制、海外からの競争圧力などが要因となり衰退を招く

←売上高は不適切なマーケティングにより減少する場合もあるため、その原因を細かに探り成熟期をさらに伸ばすような延命策やライフ・サイクルを成長期へと若返らせる工夫も求められる

6-3-2 製品ライフ・サイクルとマーケティング・ミックス

←製品ライフ・サイクルの段階に則したマーケティング・ミックスを考える

a 導入期：新製品を浸透させるためのプロモーション戦略に主眼がおかれる

←マス広告による知名度の向上 

←消費者向けセールス・プロモーションによる試用 

←流通業者向けセールス・プロモーションによる販路におけるブランドの取扱いの増加 

←製品戦略では市場の反応に従い品質調整がなされる 

b 成長期：競合ブランドに負けないブランド・ロイヤルティを育成することが要点となる

←導入期と同等、またはそれを上回る規模のプロモーションが求められる、また製品の基本品質を良くする見直しも必要となる

c 成熟期：ブランド・ロイヤルティを高めるための戦略が進められる

←広告：製品特徴を訴える理性的表現よりも製品イメージを伝える感性的な表現が使われる

←製品：パッケージなどの副次的な要素の中で差別化が図られ、ユニークなポジションの確立が狙いとなる

d 衰退期：ブランドの全面的なモデルチェンジないしは市場からの撤退が検討される

←ブランドの全面的なモデルチェンジ：改良に留まらずイノベーションを伴った修正が求められ、市場におけるポジショニング変更の可能性も考えられる

←市場からの撤退：収穫戦略のもとで追加投資せずに最大限の利益をしぼり取っていく方法が優先される

6-3-3 特殊なケース

a スタイル：食べ物､アパレル､娯楽等で特定の製品が流行ったり、廃れたりしながら何世代にも渡り続く様子

Ex)アパレル：特定の素材やカラーが数年ごとに流行しながら生き残っている

b ファッド：市場投入後、熱狂的に受容されるものの流行のピークへ達してしまった後は急速に廃れていく様子

Ex)熱心な支持者の間で早いうちに広まるが品質が旧製品と変わらない為すぐに飽きられる

←製品の持久力を高めるアイデアに注力する必要がある

c 計画的陳腐化：旧製品のライフサイクルを意図的に短縮させつつ新たな需要を得ていく手法

←定期的に売上を上げられる為継続して成長していくことができるが、行き過ぎた実行による資源の浪費や旧製品の処理、リサイクルを怠るような事態は避けるべき

第7章 ブランド戦略

7-1 ブランドとは何か

7-1-0 ブランド戦略

←現在の市場のパリティ化(均一化)、コモディティ化(一次産品化)の状況を打破する可能性を持つ

7-1-1 ブランドの歴史

a ブランドの語源

←古ノルド語の「焼き印をつけること」を意味する”brandr”から派生し、古来ある生産者の製品をほかの生産者の製品から区別するために用いられてきた名前、シンボルであり、ブランドや商標は古代の陶器や石工のマーク、中世のギルドのマークに遡ることができる(Keller 1998)

b ナショナル・ブランド(National Brand：NB)

←製造業者のブランドの事で南北戦争後のアメリカで全国流通網の整備、高品質製品の安価大量生産、パッケージの進歩、米国商標法の改正による商標保護などの諸要因により1880年代以降に齎され1915年までに定着した

c プライベート・ブランド(Private Brand：PB)

←小売業者の独自ブランドのことで、1929年の大恐慌後に市場支配力を持った小売業者が積極的に展開した

d ブランド・マネジャー制

←1931年にP&Gが初めて導入した

e 1950年代～70年代：ブランドへの消費者の愛顧の拡大

f 1980年代：M&Aブーム

←財務的資産としてのブランドへの注目、ブランドの財務的価値向上のための長期的品質・広告投資の必要性認識などブランドへの関心が高まった

g 1980年代以降

←ブランド・エクイティ論(Aaker 1991)の研究や実務面での大いなる進展を受け、今日に続く発展をみせている

7-1-2 ブランドの種類と範囲

a ブランド戦略の主体

←NBやPBなどの企業が主体のものだけでなく様々なものが主体となる

Ex) 大学ブランド、地域ブランド

b 企業(メーカー)が消費者に訴求すべきブランド：企業ブランド、製品ブランド/個別ブランドが代表的

←企業ブランドと製品(個別)ブランドは機能・役割の違いがある

7-1-3 ブランドの機能

←他社製品と区別するという識別機能

a エンドーサー(品質保証機能)：企業ブランド

←当該企業がビジネスで成功し信頼感がもたれ、企業名だけで品質が保証されていると消費者が感じる形で発揮

b ドライバー(購買駆動機能)：製品(個別)ブランド

←当該製品が技術､性能などの機能的価値やデザイン､イメージという情緒的価値で差別的優位性を持つ場合発揮される