担当:わさ
 
1 嗅覚

1-1 嗅覚の影響力
1-1-1 人間には視覚、聴覚、味覚、触覚、嗅覚の5つの感覚をもって生きている
a 人間が記憶や感情において影響を受ける5感の順位
【五感が記憶や感情に直接作用する重要度ランキング】
1位: 視覚(58%)
2位: 嗅覚(45%)
3位: 聴覚(41%)
4位: 味覚(31%)
5位: 触覚(25%)
リンストローム著(2005)ダイヤモンド社
b 嗅覚は第2位
c 香りと脳は密接に関係していることがわかる
d どうして香りは聴覚や味覚よりも強い影響力を持っているか
d-1 その答えは嗅覚のメカニズムにある 
 
1-2 嗅覚のメカニズム
1-2-1 嗅覚とは
a 人間の五感の一つ、香りを感じる感覚機能
b 人間の五感のうちで最も原始的、本能的な感覚であり、人間の生存にストレートに結びつく重要な感覚
1-2-2 嗅覚器官
a 空気中を漂う香り物質は、鼻腔内にある嗅上皮の粘膜にキャッチされ、嗅細胞に受容され刺激を与える
a-1 「化学的信号」から「電気的信号(インパルス)」に変換される
a-2 嗅神経を経て、脳の大脳辺縁系に達する
b 人間の脳は脳幹、小脳、大脳、大脳辺縁系、大脳新皮質の大きく四つの部位から構成される
b-1 大脳新皮質
←人間の進化の過程で新しく発達した「新しい皮質」
b-2 大脳辺縁系
←人間が進化する前の性質、本能的行動、情動、記憶などを支配する「古い皮質」
c すべての五感は、大脳辺縁系に伝わる
c-1 視覚、聴覚、味覚、触覚の情報
←いったん視床下部や大脳新皮質へ伝えられた後、大脳辺縁系へ
c-2 嗅覚の情報のみ
←嗅神経から直接、大脳辺縁系へ
d 嗅覚だけが直接的に大脳辺縁系へ届けられ、この差が印象にいける影響力の違いを生む
 
2 香り、香水

2-1 香りの語源
2-1-1 「香り」を表す「Perfume」
a ラテン語の「PerFumum」(煙によって立ち昇る)が語源
b 火によって生じる煙は、香りとともに天に昇っていき、それがどこか、神と通じるものがあった
 
2-2 香りの歴史
2-2-1 香りの始まり
a 古代エジプト、神の存在が食料の確保や外敵から守ってくれると信じ、行われた祭りや宗教儀式
a-1 その際、香りの良い草木を焚いていたのが始まりとされる
b 香料は神聖で悪を排除し、悪から身を守るものとされ、神への供物の防腐目的として、また宗教的な目的に多く利用された
c 香りの神秘的な力は宗教的な目的のみに留まらない
c-1 特権階級の人々の間では、権威を表す小道具や美容目的でも使用された
e 東西交易(シルクロード・絹の道)の重要なアイテム
f 十字軍の東方遠征で香料はヨーロッパにも拡がり、近世の世界的な航海時代でも東西交易のもっとも重要な産物でありつづける
g ヨーロッパ、中近東、インド、中国、日本の間をめまぐるしく行き来する商船隊が最も重視して運んだ
g-1 香辛料は金銀より高価と言われていた
 
2-3 香水の歴史
2-3-1 アルコールの発明
a 現代香水に使用されているエッセンシャル・オイル (精油) は、植物類の水蒸気蒸留によってつくられる
a-1 中世イスラムでエッセンシャル・オイルを抽出する「水蒸気蒸留法」という手法をはじめて確立
b 同時期、同じ蒸留器で発酵物からアルコールが抽出可能になる
b-1 アルコール発明以前←油脂で香料を溶かして用いられる香油やポマードが主流
b-2 アルコールが発明後←「香水」の文化が広まる
2-3-2 香水の始まり
a アルコールベースの香水で、レシピの残っている中で「最も古い香水」ハンガリー王妃のために作られたハンガリーウォーター(若返りの香水)
b 14世紀頃、70歳をすぎたハンガリー王妃エリザベートに献上され、入浴や洗顔や化粧などに「ハンガリーウォーター」を使用したところ、持病のリウマチが治り、更には、美しさも取り戻し、ポーランドの若き王から求婚されたという伝説がある
c 現存するハンガリーウォーターのレシピによると、新鮮なローズマリー、ラベンダー、レモン、ミント、セージ、マジョラム、ネロリ、ローズなどを加えたもの
d当時は「香水」としてではなく「薬」として利用した
 
2-4 近代香水
2-4-1 合成香料の発明
a フランス←様々な天然香料の産地を有し、自国で香料生産が生産可能
b ドイツ←化学的に香料を生産する合成香料を開発する
c 合成香料の発明で、世界中で大量生産され、日本でも手頃な価格で香水が手に入るようになった
d 自然界に存在する香り成分の再現(ネイチャーアイデンティカル)を目標とした合成香料
d-1 現在では自然界に存在しない香り成分(ニューケミカル、アーティフィシャル)も創り出されるようになり、香りのバリエーションは拡大
2-4-2 近代香水の歴史的名香
a ウビガン社の「フジェール・ロワイヤル(Fougere Royale )」
a-1 当時開発されたばかりの合成香料クマリンを配合し、まったく新しいテイストの香りで一大メンズ香水ブームを巻き起こす
b 「CHANELNo.5」
b-2 当時開発されたばかりの合成香料アルデヒドが大胆に使用されている
b-3 「香水の歴史はCHANELNo.5以前とNo.5以後に分けられる」とも言われている
b-4 マリリン・モンローの逸話でも有名
c フジェール・ロワイヤルとCHANELNo.5により、香水史は塗り替えられる
2-4-3 香水の自然回帰
a 合成香料全盛トレンドは、脈々と続く
b 一方、100%天然香料だけの香水や、素材・製法などをこだわりハンドメイドに近い贅沢な香水(メゾンフレグランス)が人気となる
c 天然香料を多く配合し、また同時に環境や香料産地に対するフェアトレードにも配慮した香水製品の製造が追求される時代へと変化した
 
2-5 香りの研究
2-5-1 空気中をただようにおいはさまざまな情報、働きを持っている
a ドイツの精神科医テレンバハは、嗅覚を味覚とともに「人間の出会いを最深部で媒介する感覚」と表現している
b においは人間の生理や精神活動だけでなく、身体の機能にも影響を与えることが知られている
c においの持つ働きや有効性を科学的に証明しようという研究が始まったのは、およそ1980年頃
c-1 それまでは人間生活において視覚、聴覚に比し嗅覚はあまり重要視されず、においの重要性も低かった
c-2  1982年、林野庁が提唱した森林浴のすすめなど
d香りの機能の見直しとともに様々な香りのビジネスが誕生
2-5-2 香りブームの到来
a アロマコロジー(Aromacology)(香りのaromaと心理学のpsychologyを組み合わせた造語)
a-1 香りの嗅覚刺激による精神生理学的効果
a-2 ニューヨーク香料財団Annette Green 女史によって創り出された新分野
b 1986年7月に開催された“においの心理学に関する第一回国際会議”を起爆剤に世界中で研究が進む
2-5-3 CNVと香りの心理学的影響
a 中枢神経系や自律神経系への香りの作用は、脳波や心拍、皮膚温、血流などの変動によって確認できる
特に、脳波測定法のひとつである
b CNV(Contingent Negative Variation:随伴性陰性変動)
b-1 1964年Watter博士らが発見した脳の電気的現象
c CNVに及ぼすにおいの影響
c-1 被験者にブランク時と、ジャスミン、ラベンダーの香りを呈示した時、得られたCNVの波形
c-2 覚醒効果のあるジャスミン
←CNVの振幅は増加
c-3 鎮静効果のあるラベンダー
←CNVの振幅は減少
c-4 ジャスミンやラベンダーの他にも、様々な香りがCNVの振幅に影響を与えた
d CNVは、においの鎮静あるいは覚醒効果を確認することができ、多くの商品開発に利用されている
2-5-4 香りの記憶や感情との密接関係
a 香りの情報が直接届けられる大脳辺縁系の中
a-1 海馬←「記憶」を一時的に保存しておく器官
a-2 扁桃体←快・不快、好意、恐怖などの「情動」を司る器官
b すぐさま頭の中の記憶が呼び覚まされ、何らかの情動が引き起こされる
c 懐かしさや親しみ、好ましくないと感じる香り
d 香りの情報は人の記憶や感情に強い影響を与える
2-5-5 心地よい匂いと不快な臭い・ニオイ
a 「匂い」と「臭い」の違い
a-1 「匂い」←そのものから漂ってきて、嗅覚を刺激するもの
a-2 「臭い」←嗅覚を刺激する、不快なくさみ、悪臭
a-3 多くの場合、
「匂い」←心地よく感じるもの
「臭い」「ニオイ」←不快に感じるもの
b 心地良い「匂い」
←幼少時の記憶 ex嬉しい、美味しいなど
c イヤな「ニオイ・臭い」
←自分の身に危険が察知される
e x食べ物の腐食臭、雑菌臭など
d しかし、良い香りとイヤなニオイの差は区別できるほど明確ではない
←記憶や感情に密接に関係しているため
e 過去の個人的体験が大きく影響する
2-5-6 香りの良し悪し
A濃淡が深く関わる
a-1 濃すぎると「イヤなニオイ」に、適当な薄さなら「良い香り」に感じる場合もある
b 合成香料「アルデヒド」
b-1 脂肪臭のような人の体臭に近いの匂い
←別名「お父さんの枕のニオイ」とも言われている
d-2 単独で嗅ぐと、多くの人はあまり良い印象を持たない
d-3 先ほど紹介したCHANELNo.5にも含まれている
d-4 それまでの天然香料では出せなかった華やかさやセクシーさを実現させた
e 良い香りとイヤなニオイはほんの紙一重
 
2-6 さまざまな香りの影響、効果
2-6-1 代表的な6つの香りの解説
a シトラス(柑橘類)系
a-1 レモンやライム
a-2 さわやかですっきりとした、爽快感のある香り
効果:覚醒作用、仕事効率向上、気分転換
b フローラル(花)系
b-1 バラやジャスミン、フリージア
b-2 甘く、陽気で、優雅な香り←特に女性に人気
効果:リラックス効果、集中力・記憶力向上
cグリーン、森林系
c-1 緑の草原、森林
c-2 清涼感、清潔感のある香り
効果:心へのやすらぎ、気分を落ち着かせる、安眠効果
d フルーツ系
d-1 イチゴ、桃、アプリコットなど(柑橘類以外)
d-2 フレッシュで甘酸っぱい香り
効果:気分を明るくする、癒し効果
e オゾニック(大気)系
e-1 澄んだ大地、新鮮な空気
e-2 みずみずしく、透明感なある、クールな香り
効果:開放感を伴うため、閉塞的なスペースに最適
f グルマン(食べ物)系
f-1 ミルク、バニラ、チョコレート
f-2 甘く可愛らしい香り
効果:家庭的なイメージ、ダイエット効果
2-6-2 その他の香りも生理的、心理的影響を与えるが、これらがすべての人に当てはまるとは言えない

3 第一印象と香り

3-1 第一印象が香りに与える影響
3-1-1 香水の宣伝
aある大きな社会的課題の達成(素敵なパートナーを魅了できるなど)を促進することを示していることが多い
3-1-2  Purdue大学の調査
a 女性は人気のある香水(「Jungle Gardenia」)を耳の後ろに二滴たらす
a-1 半分はつけ、残り半分の被験者には香水をつけていかない
b 香水をつけている方が好印象
c 香りとともに、服装を変化させる
c-1 インフォーマルドレス条件
←ジーンズを履き、スウエットシャツ
c-2 フォーマルドレス条件
←スカートを履き、ブラウス、ストッキング
d 香りをつけていない時よりも香りをつけて、かつ
インフォーマルな恰好をしているとき、好意的な効果が生じた
d-1 しかしフォーマルな恰好をしているとき、反対の結果になった
e 香りをつけていることにより、彼女の魅力に関する評価が低下してしまう結果となった
f 大学のキャンパスにおいて、例外的な場合を除いてはインフォーマルな恰好が普通
f-1 フォーマルな恰好と香水の組み合わせは何か特別で、近寄りがたい人物と区別された
g 第一印象に及ぼす香りの効果は非常に複雑
g-1 香りの印象に対する影響は、いくつものその他の要因に強く依存している
g-2 少なくともある環境下においては、香りは印象形成の効果的な手段で有り得る
 
3-2 就職面接に香りが及ぼす影響
3-2-1 志願者は面接者に対して、最も好ましい印象を与えることが出来るように最大限の力を発揮する
a 「成功のためのおしゃれ」をして、有能さと知性の「イメージ」を提示する場
b 様々な観点から自らの身体的な容貌を高めようとする
ここで生じた疑問
b-1 [疑問1]香りによって、面接者に受け取られる評価は高くなるのであろうか
b-2 [疑問2]肯定的な影響を誘発したとして、一方、香りを使用することで、不適切な者、ごまかしている者として捉えられては印象がかえって低くなってしまうのではないか
c 以降、詳しく取り上げる

4 香害

4-1 現状
a 体臭、口臭、加齢臭など悪臭の抑制のため、香りが利用され、抗菌、制汗にも悪臭防止として香りをマスキングした商品が近年増えてきた
b 一方で、強い香りを付けた商品が増えていて、他人の振りまくそれらのニオイで不快になる人、健康被害にあう人が急増している
b-1 現状を放置できないと、消費者団体の「日本消費者連盟(日消連)が、活動を開始した
 
4-2 近年の注目されている香害問題
4-2-1 「PATM(パトム)」
a  People Allergic To Meの略
a-1 人にくしゃみや咳、鼻水、目の痒み、目の痛みなどアレルギー症状を与えてしまう体質のこと
b その他の自覚症状
b-1皮膚の痒み、身体から何か蒸発している感覚
c 現在PATMの確実な治療法はない
d  PATM患者の肌からは、化学物質が普通の人よりも多く出されている
d-1 考えられる原因
本来体内で解毒したり、体外に排出されたりするはずの物質が上手く排出されずに、肌から発散されるということ
e 体臭を誤魔化そうとして、香り製品を大量使いすることが、尚更「香害」を増長している場合がある
f  PATMは自己臭恐怖症をも引き起こしかねない
f-1 自己臭恐怖症(自己臭症)←自分の体から実際よりも強い臭いが出ていると思い込み、周りの人から嫌われている錯覚する状態
g まずは自身の体臭の状況をしっかり把握し、的確な改善策を講じて無臭化を目指すことが最優先

5 まとめ

a 香りの性質は複雑で、かつ、変化に富んでいる
b 香りの使用は、使用者にも使用者以外の人にも影響を与える
d-1 香りは社会的相互作用のなかで重要な役割を果たしている
b-2 しかし、香りの手助けを借りることが、常に好意的な印象を与えるとは限らない