投稿者:とう・ふみ・ひろ

演習1

<参考文献>宮川公男 2005年
『【新版】意思決定論-基礎とアプローチ-』
中央経済社

-6・7章-

0.はじめに
前回は意思決定論の経済学的側面と経営科学的側面についてふれた。今回は、将来起こりうる事柄に伴う不確実性に直面しての意思決定プロセスをまとめる。

6.決定論的アプローチ
本章の決定論的アプローチでは将来の不確実性に直面した時の意思決定を問題にしている。

6.1分析のフレームワーク
ペイオフ(pay off):それぞれの結果に対して自分が支払うまたは受け取る金額。
ペイオフ表(payoff table):ペイオフを図で表したもの。
自然の状態(state of nature):意思決定者がコントロールできないもの。
行動代替案:意思決定者がコントロール可能な選択肢を選ぶときの行動。
自然の状態Nに関して意思決定者の持つ情報により三つのタイプに分けることができる。
a完全確定性:自然の状態Nがただひとつの場合に確定している場合。
bリスク:自然の状態の生起に関して何らかの確率分布が分かっている場合。データや経験の有無により主観的リスクと客観的リスクに分けることが出来る。
c狭義の不確実性:主観的、客観的に確率の情報を用いることが出来ない場合。

6.2確定性の場合の意思決定
確定性の仮定の下、意思決定者や分析者は物事を単純化したもの、モデルを扱う。単純化が行われる理由は以下の三つである。
a問題に含まれる不確実性の程度が無視しても差し支えないほど小さいものであると考えられる場合。
b含まれる不確実性の程度は無視できないほど大きいかも知れないが、その分析の困難さや費用が大きいために、不確実性についての配慮は分析が行われた後の意思決定者あるいは分析者の判断に委ねたほうがよいと考えられる場合。
c不確実要因についてはその平均的な値を用いることによって処理してよいと考えられる場合。
 確定性を想定する際、単純化によるモデルの操作性やモデルから導かれる決定の有効性との間で最適なバランスをとるという、きわめて高度の能力に依存することになる。

6.3リスクの場合の意思決定
リスクの場合の意思決定は以下の四つに分けることが出来る。
a期待値原理
自然の状態Nとしていくつかのケースがあり、それぞれの確率の大きさが分かっている場合の確率をP( )と表す。すべての確率の合計は1である。
期待(expectation):各々の自然の状態がその起こる確率に比例して重要であると考えること。
期待ペイオフ:ある行動代替案 を選択し、n個の自然の状態のそれぞれが起こった時のペイオフを総合的に考えるため、n個のペイオフをそれぞれの確率で重みを付けて加えてものと考えること。
期待値原理:m個の行動代替案 の中でどれが最善か決めるために、各 に対する期待ペイオフを比較し、それが最大になるようなものを選ぶこと。
b期待値・分散原理
ペイオフが最大になるような行動代替案を選択する期待値原理に変動性を考慮にいれたもの。
c最尤未来原理
自然の状態の内、も起こる可能性の大きい状態にだけ注目し、他を無視してしまうという考え方。
d要求水準原理
意思決定者が最大化を目的とするよりも自分の達成したい要求水準や目標水準を考え、その達成可能性が出来るだけ大きいような行動を選択する考え方。

6.4 不確実性の場合の意思決定
aデータを探すか実験を行い、確率を推定
bある程度客観的、主観的確率を推定
c不確実性をそのまま扱う

6.4.1 ラプラスの原理
n通りの状態が、すべて1/nの確率で起こりうると考える。→ P(N1) = P(N2) = P(N3) = 1/3
各決定に対する期待ペイオフER
  ER(A1) = 100×1/3 + 50×1/3 + (-5)×1/3 = 145/3
  ER(A2) = 85×1/3 + 60×1/3 + 25×1/3 = 170/3
  ER(A3) = 70×1/3 + 65×1/3 + 50×1/3 = 185/3
 → A3(住居用ビル)を選択

6.4.2 マクシミン原理(ミニマックス原理)
マクシミン原理
 最悪の状態の中で最善(ペイオフが最大)であるような決定を選択する。→ max・min Rij
          i   j
A1の行の最小値 R13 = -5
A2の行の最小値 R23 = 25
A3の行の最小値 R33 = 50
→ A3(住居用ビル)を選択

ミニマックス原理
ペイオフが損害の大きさを表す場合 → min・max Rij
                    i   j

6.4.3 マクシマックス原理(ミニミン原理)
マクシマックス原理
 最善の状態の中で最善の決定を選択する。
→ max・max Rij
   i   j
  A1の行の最大値 R11 = 100
  A2の行の最大値 R21 = 85
  A3の行の最大値 R31 = 70
 → A1(オフィスビル)を選択

ミニミン原理
 小さい方がよいペイオフの場合用いる。
→ min・min Rij
   i   j

6.4.4 一般化マクシミン原理(ハーヴィッツの原理)
意思決定者の楽観度(係数α)を考えて、最善のペイオフと最悪のペイオフの和が最大となるような行動を選択する。→ max{αmax Rij + (1-α) min Rij}
     i   j       j

α= 0.8の場合
  A1の行の最大値 0.8×100 + 0.2×(-5) = 79
  A2の行の最大値 0.8×85 + 0.2×25 = 73
  A3の行の最大値 0.8×70 + 0.2×50 = 66
 → A1(オフィスビル)を選択

6.4.5 ミニマックス後悔原理(サヴィッジの原理)
最大の後悔(rij)が最小になるような行動を選択する。
→ min max rij = min max(max Rij - Rij)
   i  j    i  j  i

N1(景気上昇)の列について
  A1 r11 = max Ri1 – R11 = R11 – R11 = 100 – 100 = 0
  A2 r21 = max Ri1 – R21 = R11 – R21 = 100 – 85 = 15
  A3 r31 = max Ri1 – R31 = R11 – R31 = 100 – 70 = 30
N2(景気横ばい)の列について
  A1 r12 = max Ri2 – R12 = R32 – R12 = 65 – 50 = 15
  A2 r22 = max Ri2 – R22 = R32 – R22 = 65 – 60 = 5
  A3 r32 = max Ri2 – R32 = R32 – R32 = 65 – 65 = 0
N3(景気下降)の列について
  A1 r13 = max Ri3 – R13 = R33 – R13 = 50 – (-5) = 55
  A2 r23 = max Ri3 – R23 = R33 – R23 = 50 – 25 = 25
  A3 r33 = max Ri3 – R33 = R33 – R33 = 50 – 50 = 0
 →A2(店舗用ビル)を選択

6.5 決定原理と行動選択
異なる決定原理を適用すると行動選択も異なる。
→どの決定原理を選べばよいのか?
→一意的な回答はない。
→決めるのは意思決定者自身。

7.デシジョン・トリーとベイジアン決定理論
7.1デシジョン・トリー
デジジョン・トリー(decision tree、決定の樹):意思決定の過程を樹木が枝分かれしているような形の図で表したもの。
デシジョン・ポイント(decision point、決定点):自分の決定により結果が枝分かれする点のこと。
不確定点(uncertainty point):相手の決定により結果が枝分かれする点を指す。ここで相手はどの決定をするかわからない。

7.2自然の状態についての情報とその信頼性
不動産投資の意思決定において、ある調査機関の景気予測情報を使うか使わないかに際して問題となるのが次の二つである。
情報の信頼性:その予測情報がどれくらい信頼できるかということ。
情報のコスト:その情報を提供してもらうためのコスト。

7-2-1予測の信頼性
予測の信頼性は正しい予測あるいは誤った予測がなされる確率で考えることができ、実際の景気動向NがN1あるいはN2のときに、予測情報nがn1あるいはn2のどちらになるか、すなわちNを条件とするnの条件つき確率P(n|N)で表わすことができる。

7.3情報によって変わる自然の状態の見通し-ベイズの定理の応用  
景気予測情報が得られたとき、その情報が多少でも信頼できるものである限り、意思決定者がはじめに持っていた今後の景気のあやふやな見通し(事前確率)はその影響を受けてもっと確かな見通し(事後確率)になると考えられる。
このような見通しの変化はベイズの定理を応用することにより数値的に求めることができる。

事前確率[p(N)]:自然の状態N についての当初の確率。
ここではN1、N2ともに50%である。
事後確率[p(N|n)]:Nについての情報nが追加された後の確率。
同時確率:ここでは、自然の状態がN1でかつ予測がn1である確率。P(N1,n1)と表す。
同時確率の式例
P(N1,n1) =P(N1)P(n1|N1) = 1/2 × 0.8 = 0.4
P(N1,n2) =P(N1)P(n2|N1) = 1/2 × 0.2 = 0.1
P(N2,n1) =P(N2)P(n1|N2) = 1/2 × 0.1 = 0.05
P(N2,n2) =P(N2)P(n2|N2) = 1/2 × 0.9 = 0.45
周辺確率:ある調査機関から予測情報の提供がされる際の、それぞれが提供される確率。
 以上のように、ベイズの定理は意思決定の問題に用いられることから、このような決定理論はベイジアン決定理論と呼ばれる。

7.4事前・事後分析と情報の価値
情報の利用の有無および情報の信頼性および内容によって意思決定は変わるのであり、それはつまり「情報は決定を変える力を持っている」ということである。それが情報の価値というものである。
事前・事後分析:情報を得る前と得た後での決定の期待収益の比較分析を指す。

7.5ベイジアンの決定理論の四つの側面、特徴と意義
ベイジアンの決定理論は、不確定性の下における意思決定の問題のつぎのような側面を扱う。
a事前分析
問題の性質や時間あるいは費用などの制約から、決定をする前に問題に関係のある情報を新しく追加的に得ることができないような場合などは、意思決定者が自分の判断ないし過去の経験だけに頼らなければならない。このような場合には、意思決定者は自分が事前に持っている情報だけにもとづいて決定をしなければならなくこの場合の分析を事前分析(prior analysis)という。
b事後分析
意思決定者の持っている経験や情報は、意識的な経験獲得あるいは情報収集努力や、行動の結果として新しく発生し、フィードバックされる情報によって絶えず変わっていくものであり、情報は必ずしも100%信頼できるものではない。新しく得られたそのような情報によって事前の情報・判断を修正する場合の分析方法を事後分析(posterior analysis)という。
c事前・事後分析
意思決定者は情報の信頼性を考慮しつつ、費用をかけて情報を取得したり、また最終的な決定をのばし、その間を利用して将来の不確実な状態について追加的に情報を得るか、あるいはそのような情報を得ることなく決定するかどちらかに決めなければならない。このような決定のための分析を事前・事後分析(preposterior analysis)という。
d逐次的意思決定
意思決定の問題は、時間的に前後つながった一連の行動(情報収集および分析を含む)に関するものであることがしばしばある。すなわち、多くの場合行動は逐次的に決定することができ、現在の行動の選択のいかんによって、将来もっと多くの情報が得られたときの行動の柔軟性は異なってくる。事前・事後分析をこのような多段階の決定の問題に応用するのが逐次的意思決定(sequential decision making)の分析と呼ばれているものである。