前号に引き続き、診断中に怒り出したデザイナーの方のエピソードです。
彼の怒りは、それは激しいものでした。最初から必要なことを私がちゃんと伝えておけば、彼は間違った方向には行かなかった……と主張したのです。
さらに、カードを並べるにしても、彼は熟考の末に出した結果なので、それを一瞬のうちに私が手で崩したことが、許せないようでした。
「この診断では、最初にすべてをお伝えすることはしません。カードの選び方、並べ方をお伝えしたら、被験者の方がそれをどのように判断し、どのようなプロセスでカードを配置するかも、診断材料のひとつなのです」
「つまりカードを置くところから、診断は始まるということですか?」
「そうです。ちゃんと2回置いていただいたカード配置は、私の頭に入っています。そこには、あなたの社会人としての、またデザイナーとしての仕事ぶりやポリシーが現れていました。決して無駄になってはいません。
ですが、今回のご相談をより有益なものにするためにも、もっとあなたの内面を表現した、3回目のトライが必要なのです」
私の言葉に、彼の怒りは鎮まったようでした。そして一服しにオフィスの外に出て行った後、戻ってきた時は、穏やかな表情になっていました。
「パッパと置けばいいんですね? パッパと」
「そうです。最初に感じたままに、パッパと……」


正方形に並べられた9枚の色カードで診断を行う。
3回目の配置は、1分もかからず終えました。前2回とはまったく異なる配置です。3回目は重く暗い色が増え、中心部には真紅のカードが置かれました。前2回では、赤いカードが置かれても、他の色を隣に置いた後、ケースに戻してしまうシーンが何度かありました。
彼の中心部には、赤のカードに象徴される、表現したい心、自己主張をしたい強い気持ちがあり、それが今の彼を支えているのです。赤のそばには、社会的にもっと上に登りたいという強い欲求を表す色が置かれ、野心と自信が現れていました。
前2回のカード配置では、自分の本質を表さないまま、軽快で明るく、シャープな印象のカード配置にまとめられ、プロフェッショナルな意識が見えました。
前2回のカード配置では、自分の本質を表さないまま、軽快で明るく、シャープな印象のカード配置にまとめられ、プロフェッショナルな意識が見えました。
3回目の配置では、野心や欲求だけでなく、思い込みが激しく、自分の考えにこだわり過ぎる点も明らかとなりました。人とのコミュニケーションや、感情コントロールが苦手。金銭面、人間関係での具体的な悩みも抱えており、体力的にも最近は自信を失っているようでした。
聞いてみれば、現在の事務所では彼を指名するクライアントが50%を超えているとのこと。チームプレーよりは、個人プレーのほうが彼のセンスを生かしやすく、また経済的にも、独立のメリットがあることは明らかです。
ただし、現事務所と余計なトラブルを起こさないように、例えば昔からのクライアントと仕事をするのであれば、マネージメント料を現事務所に支払うなどの方法を提言しました。
彼の苦手とする人間関係を円滑にする工夫、「根回し」や「気遣い」を、丁寧に根気強く行うことは、これからオーナーとしてやっていくための必須条件である……と、アドバイスしました。
ふだん仕事で「色」を扱うデザイナーやスタイリスト……といった職業の方は、「自分の自然な感性に従って色を置いて下さい」と申し上げても、なかなかそれを、カード配置に表すことができません。
優秀なデザイナーであればあるほど、無意識のうちに色の好感度を考え、バランスを考え、自分の心とほど遠い色を置いてしまうことがあるのです。
カラーセラピーでは、大人が被験者の場合、職業的な習性も踏まえて診断を行わなければならず、それがなかなか難しいところでもあります。