約50年のカラーセラピスト生活の中で、数多くの人に出会いましたが、その中でも強烈な印象として心に刻まれている方が何人かいます。
その方は知人の紹介で私のオフィスを訪れました。職業はグラフィックデザイナー。40代前半、現在所属しているデザイン事務所からの独立を考えていました。
今、独立するのがよいのか、それとももっと先に延ばすべきか。方向性を探るために私のところに相談にいらした……という経緯でした。
私の診断では、56色・各色9枚ずつ計504枚の色カードを使用します。カードは正方形で、56色の中から9枚を選んで、箱形に並べて頂きます。同じ色を複数選んでも構いません。
色診断に使用する504枚の色カード。これを正方形に9枚配置してもらう。
デザイナーの男性は、ざっと全体のカード眺めた後、何枚かのカードを手に取りました。ひとつひとつの色をじっくり見てはケースに戻し、それに近い色を選んでは置き、戻し……を繰り返しました。
また箱形に配置をしてからも、何度もやり直しました。色の場所を左右入れ替えたり、置いた後で微妙に薄い色に取り替えたり……と、決定するまでにかなりの時間をかけていました。
彼が色カードを吟味する様子は、とても慎重、真剣で、まるでふだんの仕事ぶりを見ているようです。
私のほうに向き直り、彼が「終わりました」と、言うまでに10分は要したでしょうか。それでもカード配置にはまだ納得がいかないようで、心残りがあるような表情でした。
私は置かれた9枚のカードを手で崩し、元のケースに戻しました。そして彼に「もう一度最初からやり直してください」と、伝えたのです。一瞬彼の体は固まり「なぜ?」と、険しい表情で私の顔を見返しました。
「これは仕事ではありません。心のままに色カードを置いて下さいと申し上げたはずです。ここにあなたの素直な感情は見えていないので、診断はできません」と、私は伝えました。
彼は苦虫を噛み潰したような表情で、再びカードを並べ始めました。
おそらく自信を持って造り上げた作品を、壊されたような気分なのでしょう。
ですがそんな彼の不快そうな表情はすぐに消え、再び色カード選びに集中し始めました。私が前にいることも、忘れているような集中ぶりです。
この様子を見ているだけで、彼は仕事を愛し、大切に作品を作り上げる、良いデザイナーだということがよくわかります。
今度は前回よりも半分以下の時間で、色カードを並べ終わりました。
ですが、見てみると、多少の色の濃淡は違えど、先ほどの配置とニュアンスがよく似ています。とてもスッキリとして、好感度の高い、センスのよい色配置だなと感じられます。
私は再びカードを手で崩しました。
「もう一度並べ直して下さい。今回のものも、やはりあなたの素直な感情が見えません。もっと直観的に、あまり時間をかけずに選んでください。色の位置も、置いた後でバランスを考えて配置し直す……ということは、いっさいなさらないでください」と、彼に伝えました。
さらに、「感覚的に位置が違う……ということで置き換えるのは構いません。ですが、あなたの場合はデザインバランスを考えて、置き換えているように見えます。それでは、素直な感情が見えないのです」と、伝えました。
すると彼はいきなり机をドンと叩き、「それならそれで、最初からそう言ってくださいよ! 今までやった2回の作業は、まったく無駄じゃないですか!」と怒り出したのです。
(次週に続く・6月2日アップロード予定)
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