なんばのカフェで仕事の話をしていた。
目に見える数字と見えない数字と本当の数字の話だったと思う。
だったと思うというのは、とある出来事で話が途切れてしまったからだ。
「……イイネは小さな影響でしかないというより、むしろ惑わせる数字にもなるよね」
「何年も前から言ってたね」
「用途によって与える影響度が変わってしまうから使用者が何に当てはめて使いたいか?を理解する必要がある」
「えーと…ちょっと待ってね。時間かけていい?」
私に瞬発力はない。病的にない。
時間をかけないと理解が追いつかない。
けれど、時間さえかければ深く理解できる自負があった。
「……で、それを踏まえてインプ数の話に戻るけど、インプ数もこの現象と似た性質を持っているから過信せずに本当の数字をはじきだすことが大事になる」
しのけんさん、ガリぞうさんと…
ウチからオファーをかける演者さんは少ない。
だけど、今回はふとした依頼から誰かに新しくオファーをかけなくてはいけなくなった。
その話の打ち合わせで私達は、このカフェにいた。
「イイネよりは全然有効。ひとつの指針にはなる。ただ、あくまで重要なのは本当の数字でそれはイメージと似た性質があるから実体はない」
「…実体はない?ないものを数字として見ないといけないということ?」
「いや、見えない数字+時間ということ」
「ん?」
「目に見える数字、目に見えない数字、目に見えない数字に時間を足したモノの3つは全て別物」
「用途によってどれを重要視するかを依頼者は選ばなくちゃいけないってこと?」
「そそそ。数字+時間がイメージのことね。それを一番重要視しないといけない。それを見れる人が出世しやすい人で、パチンコ業界の中でいうと………」
「おまたせしました。アイスティーとコーヒーソフトフロートでございます」
話の途中で頼んでいたドリンクがきた。
私は袋からストローを取り出し、アイスティーにさした。カランと氷の音が聞こえた。
ミルクもシロップも入れない100%ストレートティーだ。
目線をアイスティーから真正面の人間に移した。すると、さっきまで無表情を貫いていた上司が怪訝そうな顔に変わっていた。
「どうしました?」
私は何気なくそう聞いた。
「しらたまが………………ない」
え?
しらたまが…………ない?
見ると確かに白玉が乗っていなかった。
いつもはソフトクリームの横に白玉が寄り添うように浮いているはずなのに。
そこに白玉はなかった。
「注文ミスじゃないですか?」
レシートを見せてもらうと
白玉トッピング
と書いてあった。
「あ、これ店員さん入れ忘れてるパターンですね」
「すいませーん」
訝しげな表情を浮かべていた上司は店員さんを呼んだ。
そして聞いた。
「白玉トッピングで頼んだんですけど」
すると店員さんは言った。
「あ、こちら底の方にいらっしゃいます」
え
底の方に………
いらっしゃる!????
私はアイスティーを吹き出しそうになりながら必死に笑いを堪えた。
上司は目を見開いて固まっている。
おそらく上司も我慢しているのだろう。
いらっしゃる…?
いらっしゃるって何!?
レジでこの店員さん、新人ぽいなって思って見てたけど
言葉遣いおかしくない!?!?
「あ、そうなんですか」
と言って上司は店員さんに会釈をした。
いや、白玉に会釈をしたのかもしれない。
スタスタと立ち去る店員さん。
「………」
「………」
「めっちゃ笑いそうになってんけど」
「よくツッコまなかったですね」
「我慢したよ」
「なんか、食べるの申し訳なく思ってしまいますね」
「まぁ、尊敬語を使うくらいの相手を食べるわけやからね」
「ですね」
「で、何の話でしたっけ?」
「武藤敬司の引退試合についてじゃなかった?」
「違うでしょ」
この日は そんな
真面目な打ち合わせの日だった