中学レベルの英語でも助かる​

前回からの続きです


ケンジントン・チャーチストリートまで来ると

なんだか道路が静かなことに気づく。

いつもはこんな風じゃないと思った瞬間

隣の席に座っていた黒人男性のほほが

青い光を反射してうつす。


まるで暗い湖のそこを

不思議な生き物が

水面に上がってくるようすを見つめるような

不安感がさーっと背筋にのぼってくる。


後部座席からバックミラー越しに眺めていた

運転手のシャーミンの目が大きく見開き

叫ぶ。


なんてこと!

車を止めろって

この車の中に喫煙者だっていないのに



後ろを見ると大きなバンと

パトカーが二台

サイレンを鳴らしながら後続してる


麻薬捜査だ

今すぐ車を止めなさい


そんな言葉を言ってるのに対して

シャーミンが答えてるので

状況がわかったが

完全にサイレンの音と

不安感の爆発で

外から何を言われているか聞き取れない。



急ブレーキをかけて

シャーミンが車を路肩に寄せると

後ろのパトカーとバンから

8人くらいの警察官と

一人刑事だろうか

平服の男を先頭に

素早く降りてきて

ボーリングのピンのように

閑散とした道路に散らばり

私たちの車の周りを取り囲む。


刑事と見られる男が手にもったピストルを掲げ

きっちり銃口をこちらにむけるのが見えた。



車から全員降りろ

手を挙げて立つんだ

とがなり立てる。


震えておぼつかない手で

自分の座席のドアをあけ

路上に転がり落ちるように降り

車の四方にばらけて

私たちも手を上げたままの体勢で

アスファルトの上に立つ。


何を言われてるのか

なるべく冷静な気持ちで聞きたいと思うのだが

自分の心臓の音がうるさすぎて

上手く聞き取れない。




かろうじて理解できたことが

どうも私たちを拾った車が乗りつけた

大学の通りの角にあったカフェで

今晩麻薬取引をするマフィアがよるという

裏情報があったらしい。


ああ、そういえば

学校に入る前に通ったカフェざわついてたの

そのせいか…と数時間前のことを思い出す。



そこで潜伏捜査していたところ

私たちが外からやってきた車に

乗り込んで移動したから

そこからケンジントン・チャーチストリートにでるまで

警察は後をつけてきたらしいのだ。




寒い冬の最中、

車中でコートを着たままであったわたし。


路上に手を上げたままコート姿で

突っ立っているのだが

ハッと気づいたことがあった。


コートの右のポケットに

大学の学生証を入れたままだ。


入校する時

門衛に提示するため突っ込んであった。



一連の説明を刑事から受けたあと

静かになりジリジリした雰囲気になったので

20メートルぐらいさきにいる

ピストル発砲体勢の刑事に向かって大声で言う。




うのふ:

すいません、サー、

聞いてください

右!




刑事:

右?





うのふ:

右のポケットにわたしの学生証があります

日本人留学生です。

運転手の女性はわたしの先生です!



この瞬間恐ろしげな顔で

私以外の同乗者三人が私を見る。

何で今そんな口答えを

警察官に向かってするの?

とちょっと責める感じの目つきで。



刑事はしばらく黙っていたが

銃口をこちらに向けたまま

調べろと同伴している警察官に

指示を出す声が聞こえた。




一人の警察官がわたしに駆け寄ってきて

わたしの右ポケットをまさぐる。




警官は取り出した学生証と

もう一枚外国人登録証が

同じパスケースにいれてあり

これを急いで刑事に見せに行く。




しばらくそれを見てから刑事はいった。



教師の証明書もあるか確認しろ


シャーミンは車にそれがのってることを告げると

警察官が車内を開けて乱暴に捜査をする。


二つの証明書をみて納得したのか


もう、いい。

行きなさい。


と刑事はすごすごとバンに戻って行った。


・・・・

謝罪ナッシングかーい!



わかったこと、

それは

学生証と外国人登録証で助かることもある


確かに登録時にこれは肌身離さず持ち歩けと

警察署で言われていたが

まさかこんなことに使えると

は思ってもみなかった。


そして

2021年にこんな事件もあったようですね。


昼間の最中、

銃持ち込みで銀行と出版社に入った男がいて

ケンジントン地区のど真ん中なのに

警官に撃たれて亡くなるという。


すごいこの現場から

私の修羅場体験に近いわと思って

ぞっとしたんですが、

高級住宅地も控えてるとこには

重装備警察もいるという状態かわらず。



留学時は被疑者にならないように気をつけよう

そんな誰得情報な思い出話でした。


しょうもないはなしかもしれませんが

日本だけでは経験もできないことも

留学ではたくさんあるので

私の失敗談は一度書いておこうと思いました。


決してアンチ留学思考ではないことをご理解していただけると幸いです。


長々と

最後までお付き合いくださり

ありがとうございました


明日からはまた25年の月日をかさね

平々凡々な主婦になった

私の毎日を綴りますので

引き続きよろしくお願いします。




うのふ