「センターバックのボールの配給に関して、日本に居た時は今のような概念は持っていませんでした」
これは、スペインにコーチの勉強をしに来た日本人がよく口にする言葉です。
日本でセンターバックの配給について語られる場面に出くわすことは非常に珍しいでしょう。
なぜなのでしょうか?
答えをお伝えしましょう。
それは、スペインのサッカー理論は攻撃のビルドアップに関してキチンと体系付けられていて、それが日本には存在しないからです。
salida de balón(サリーダ・デ・バロン)
サッカーで使われるこのスペイン語の表現を初めて訳す時には非常に違和感を抱きました。
直訳すると「ボールの出口」と訳されるこの表記から、スペインと日本の間にサッカーというスポーツの解釈においてとても大きな違いが存在するということがわかるのです。
今日はこのsalida de balónについてお伝えしたいと思います。
まず、salida de balonを詳しくお伝えする前に大事なことがひとつあります。
この概念を理解していないと、salida de balonも深く理解することができないからです。
スペインにおけるサッカー攻撃の概念は
1.始まり
2.進展
3.フィニッシュ
というプロセスを経て行われます。
1.攻撃の始まり
DFライン(キーパーも含む)と中盤が関わり前線にボールを配給するためにボールをチームでキープしている状況
守備ラインで数的有利を作り相手のFWにボールを取られないようにするのがこれにあたります。
2.進展
1始まりと3フィニッシュを繋ぐボールを前に運ぶ段階の局面
例えば、中盤の選手であるチャビやイニエスタがボールを受けて前線のウイングにパスをするというのがこれにあたります。
3.フィニッシュ
文字通りシュートの局面
センタリングからのシュートや、スルーパスを受けてからのシュートがこれにあたります。
そして、salida de balónは1.始まりと2.進展を連結させる部分であり、DFラインからのボールの配球を意味するのです。
これは、技術-戦術的にトレーニングを必要とするものです。
「選択肢を認識することのできる広い視野」を持ち、相手のプレッシングの状況を見極めることのできる「状況分析能力」、そして正確なパスを実行できる「キックの技術」を持っていれば、salida de balónの局面で有効なパスを配ることが可能となります。
FCバルセロナのジェラード・ピケは、この点に関しては世界トップクラスのSalida de balonを持っていると言えるでしょう。
中盤にも的確なボールを配ることができて、尚且つ逆サイドの左のウイングへのロングフィードの精度もピカイチ。
あのハイレベルな配球は、高い戦術眼を持ち、際どいパスコースにも勇気をもってチャンレンジできるメンタル、そして正確無比なキックの精度がそれを支えています。
日本ではこの攻撃のプロセスは「ビルドアップ」としてまとめて扱われて、スペインの様に細分化されていません(5年前の日本に居た時のことですので今はどうかわかりませんが)。
これが日本でセンターバックの配球の話に出くわすことが少ない原因です。
これが話題に上がらなければ指導現場で選手にそれを要求される頻度も少なく、必然的に選手はそれを習得する機会を得ることはありません。
この攻撃の概念の解釈の差が、日本とスペイン間のセンターバックの配球能力の差にも繋がっているのです。
代表クラスでも吉田選手はオランダでプレーしてからこのsalida de balonの能力がとても向上しました。
これは、ヨーロッパのサッカーの概念でプレーして身に付けた能力と僕は見ています。
スペインでも育成年代からこの概念は浸透していますので、日本でもこのように解釈をすれば配球能力の高いセンターバックが出てくることは間違いありません。
さて、ここで前回の左のセンターバックの話に絡めていきましょう。
なぜ、左のCBには左足が得意な左利きが有効なのか?
それは、2つの点から言えることができます。
1.キックの選択肢の多さ
技術的視点から分析すると、左足であればピッチ全体へのボール配給がインサイド、またはインフロント、インステップキックで行うことができます。
では、右足ではどうなるか?
相手ゴールに向いた状態で右足の前にボールを置いた場合には赤のラインのパスコースにはインサイド・インフロント・インステップキックで配球が可能になりますが、黄色のパスコースには上記の3つのキックでパスすることは難しくなります。もしそれをするとしたら、中にボールを持ち直してキックをすることになるので時間がかかり、相手の守備陣にも予測する時間を与えてしまいます。
またその時には、体が中に向くことになるので左サイドの状況を認識することが難しくなるでしょう。
かといって、アウトサイドでのパスはリスクが高いです。
現代サッカーはコンマ何秒の駆け引きが行われていて、持ち直してプレーを代えるのでは遅いので、一定の姿勢から複数の選択肢を持った中で最善の策を選ぶことが有効となります。
2.右足でボールを持つことのリスク
もうひとつは、右足でプレーすることは相手のプレッシングにより近いことにボールを置くことになりますので、安全面から考えると左足の方がいいです。
このように、相手FWに寄せられるとパスコースを消されてしまいますが、左足を使うと以下のように解決できます。
2,3メートル前に持ち出してパスコースを確保する。
さらにこの持ち出しは相手から遠い足で実行されるので失う可能性は右足よりも低いのです。
このような理由から、左のCBは左足を自由に使える選手を置いた方がとても大きなメリットが出るのです。
いかがでしょうか?
前回の記事ではTwitter、Facebook、コメントでたくさんの方にメッセージをいただきました。
本当にありがとうございます。
僕自身も、みなさんとコミュニケーションを交わし議論をすることができてとても良い機会になっています。
そして、その議論は日本のサッカーの発展に繋がるものとなると思っていますので、簡単なつぶやきでもいいのでご意見・ご感想をしてくれたら嬉しく思います。
それでは、Hasta luego!!