正確に言うと、理系思考というのは、ここでは仮説と検証のロジックのことです。
文科系人間にとっては、このことはなんとなくわかっている感じで日常のミーティングとか計画とかをこなしているんですが、本当に分かっているの?というと、そうでない。というか、理系の人間にとっても仮説と検証については、あまり日常すぎて立ち止まって、それ何?と考えることが少ない、と思います。
というのは、理系出身者が混じった経営会議でも、どうも今から決めようとしているプロジェクトとか事業計画を前にして、方法論というか根本的心構えができてなくて、堂々巡りの議論になりがちだったという、過去の経験値が心をよぎるのです。![]()
ある計画をある結果(目標)として構築するとして、それがうまくいかなかったときの処理のしかたです。アホだったからとか時間がなかったとか、誰のせいだとか、そもそも目標がおかしかったとか、百家争鳴ということになりますよね。たいていの場合。これが期間目標の達成度合を評価し、各自責任者としての業績評価にむすびつきます、などということになれば、ますますそうで、何を基準に目標達成かを決めていないことが問題だ、などと理系出身者が根本をひっ繰り返すことを言い出してみんなをギョッとさせつつ、結局何も決まらない、という会議がよくあるんですね。
そこで、私が思うには、よくセミナーやMBA講座で戦略論を勉強するのだけれど、一番簡単で肝心なことが抜けていないか、いつも気になっていました。
それは、仮説と検証のロジックです。![]()
簡単に言うと、仮説というのは、こういうことをすれば(若い人たちのマーケットにプチ贅沢な商品をつくりこみプロモートすること)、こういう結果になるはずだ(新市場を開拓する、その結果売上は今期末で25%上昇する)という結果へのシナリオ・説明ロジックです。そしてもしその通りに行動して、そのような結果が得られなかったとき、何が不達成の原因と考えるのか?それが問題です。その場合、大きく分けて二つの原因がありえます。ひとつは、そもそもそのロジックが間違っていて、若い人たちにプチ贅沢嗜好なんてないんだ、だから新市場ができず売上も出なかった、と考える議論の立て方です。
そして、もうひとつは、前提は間違っていないんだけど、作ったプチ贅沢商品の市場投入が遅れて他社に出し抜かれたから売上が出なかったとか、投入商品の質がイマイチだったのではないか、とか、売り場構成が魅力的でなかったからではないか、というように、前提ロジックは正しいが、その方法がまずかったので、別の方法をとればよかったはずだという議論の立て方です。
第一の方法論は、戦略(ある結果をもたらす方法論のロジック)の前提が違うから結論が違ったのだと考え(だから若い人たちのマーケットなど当社にはないのだ、仮にあっても彼らはプチ贅沢など望んでいない、と結論づける)第2のの方法論は、戦略は合っていたが違う条件を考慮すれば、結果達成できるかもしれない、と考える条件変更志向型の結論となります。
ある結果が出なかったとき、前提が違っていたのか、条件が違っていたのかは、仮説に対する検証をどのようにするべきかに二つの方法論があるということです。
もし、第1の方法論が正しいとしても確かに潔いかもしれないけれど、場合によってもしかしたら、ある条件に気がついてそれを修正さえしたら、見事に目的達成できる可能性を始めから封印してしまうリスクや永久に目標達成できなくなる恐怖があります。
もし第2の方法論が正しいとしても、いったいどの条件をどのように整えたらその結果が得られるのか、無益な努力を延々と続ける徒労感にさいなまれます。
このどちらの方法論をとったらより効率がいいのか、実は理系人間にとってもわからないようです。
とくに理系人間は第一の方法論をとって決めつけをして問題を早く終わらせたいという意識が出るようです。しかし、たいていの理系研究者などは、むしろ第2の方法論でじっくり取り組む姿勢の人も多くいます。
これは一種のジレンマで、ジラフ(シマウマ)型決断をするしかないのかもしれません。ここで、重要なことは、自分はいったいどちらの検証手法をとろうとしているのか、をハッキリ自覚することだと私は思います。
ビジネスパーソンとしては、どうでしょうか?![]()
まずはいきなり第一の方法論で結果から前提を切り捨てるのは、インパクトはありますが実際的でない、と思います。というのはそれは機会損失(つまりそれをしないことによるロス)が大きすぎるからです。だから、第2の方法論で攻めるといいと思います。その場合は、前の例にもあるように、失敗原因を探る第2の仮説(条件闘争の部分)が実は必ずいくつも存在しているので、それ自体仮説になっているということです。全部をつぶすには多大の労力と時間(それはコストです。)がかります。だからこの第2の仮説の絞り込み作業に全能力を注いで(熱血討議して)解の発見スピートを上げるべきなのです。この失敗原因に関する第2仮説の絞り込みが最も戦略達成に必要なことだ、と思います。
このことは実は最近の日経新聞の「交友抄」で友野宏さん(住友金属社長)が「スキーと激論」で若いころのスイス留学時の世界的な凝固現象の権威ビィルフリード・クルツ教授との交流の中で教えられたことだと語っているので、今まで私の考えていたことがここでもいわれているな、と思った次第です。![]()