
読書の秋なので、昭和の漫画や本を紹介したい。写真は、1972年より「漫画アクション」に連載された大人の漫画「同棲時代」。ひたすら暗いストーリーで、同棲のどこが魅力なのかあの頃の私には理解できなかったけれど、上村一夫の描く世界観は繊細なまでに美しかった。73年にはTBS系でドラマ化、脚本を山田太一が手がけ、主役の次郎を沢田研二が、今日子を梶芽衣子が演じた。その後に映画化もされ、大信田礼子が歌った主題歌はなぜか大ヒット。当時から、聴けた歌じゃないとは思ったものの、不思議とその暗さと低音の微妙な音感がしっくりきたのだ。歌は上手さではない、と深く思い知った曲でもあった。♪ふたりはいつも傷つけあって暮らした それがふたりの愛のカタチだと信じた・・・♪ 作詞も上村一夫の世界。貧しいだけの若者のアパート生活を描いた漫画が、こんなにも色づいて見えたのは、きっとこの時代の社会背景のせいだろう。イラストレーターという明日を目指して都会に生きる若者が、輝いて見えた頃なのだ。この漫画の中で、私は初めて花粉症という病気を知った。花が好きなのに花粉に触れると涙とめまいが止まらない女性の話なのだが、その中にも上村イズムは潜んでいた。やがて、本当の花粉症がそんなに美しい病気ではなかったと知ったけれど、騙されたとは思わない。それが、上村一夫の美の哲学だったのだから。
