とりあえず、爪先だけ見つめながら歩き出す。とりあえず、という言葉は良い意味ではないから使っちゃいけません。と、何かで読んだことを思い出す。主人公が母親に言われた言葉だった気がする。どの小説だろう。
日が遮られる。視線を足下から上へと移動させると、両側を塀に挟まれた細い道があった。緩やかに曲がっているらしく、先は見通せない。咄嗟に振り返る。背後にも同じような景色があった。

いつの間に?何が起きているのだろう。何をしているのだろう。どこから来てどこに行こうというのか。混乱は起きるが、すぐにとうでもよくなる。なるようになれ。
気分は悪くない。自分の身長と変わらないくらいの高さの塀が続いていて、その上からは緑が覗いている。沈丁花、薔薇、名前も知らない花。悪くない景色だ。どこにでもある風景、子供の頃から見慣れた町にも、初めて来た町にも思える。

行き先が見えないのは同じだな。ぼんやりと考える。それでも歩いてみようと思えるだけ、前進しているのか。行けるだけ行ってみよう。