砂漠である。
「砂漠」のようなもの、と言った方がよいのだろうか。しかし、見渡す限り砂と空しか見えないとなれば、砂漠と言いきっても差し支えないと思われる。
空は薄い灰色に覆われ、昼とも夜とも判断がつかない。暑くもなく寒くもない。空のグレーと砂のベージュ。世界は二色に分割されている。

立ち上がり、膝に付いた砂を払う。体を起こして周囲を見渡してみる。二色の景色以外に目に写るものは無い。脚を前に出して歩きだそうとしてみるが、どこが前なのかわからず途方にくれる。
もう一度座り直す。どうしてここにいるのか、これからどうすればいいのか、というような思いは浮かばない。さっきまではそれを考えていたのかもしれないが、いつからここにいるのかも定かではないので考えていたかどうかもあやふやだ。ただ、このまま滅びるのは嫌だ、というような不安感だけがある。それも、居ても立ってもいられなくなるような強烈な不安ではなく、今夜の夕飯どうしよう、と同程度の緩い思いである。

時折、風が吹く。風によって起きる砂埃の向こうに、木々が見え水音が聞こえる。人の気配も感じる。が、砂埃が収まれば全て消える。蜃気楼?いや、気のせいか。
風以外に世界は動かない。砂と空、そして私。動くのは、風だけ。この不確実な幻にのってみようか。結局は、私が動くしかないのだから。