出口君の事
出口君(仮名)は私の小学校時代の友人でした。
私は親父の仕事の都合で小学校を2回転校しています。
出口君と出会ったのは最初に転校した時の2年生のクラスの中でした。
この年頃の男の子はやんちゃざかりだと思うんですが、私は転校生にも関わらず、すぐにクラスに
慣れ、そればかりか度を過ぎて先生に怒られて廊下に立たされた(今はそんな事ないですよね?)
事も何度かありました。
でも出口君はそんな私とは正反対で、先生に怒られる事もなく真面目な大人しい子供だったと
記憶しています。
一見は普通です。でも彼にはその性格以上に変わった部分があったんです。
彼はまったくしゃべりませんでした。
最初に私が出会った時に普通に話しかけたんですが、全く言葉を発しない。
子供心にも「あれっ?」て思います。ただ首を縦に振ったり横に振ったり。。
なんとか意思疎通はできるものの、相当面食らいます。
授業中に先生に当てられても全く答えない。健康診断で話しかけられてもただ立ちつくすばかり、、
大人でも初対面の人は戸惑います。
時間が経つばかりなので皆そのうちあきらめていました。
ある時クラスの何人かが彼を話せるようにするためと言いつつ、くすぐる事をしていました。
それでも彼は目に涙をためながらも絶対に言葉を発しませんでした。
そんな光景を見ていた私は子供心に彼がかわいそうになってしまい、その子達にやめるようにと
止めた事がありました。
その時からでしょうか、出口君が私に心を開くようになったのは。
意思の疎通は不十分でしたが、なんとか遊ぶ事をしていたと思います。
今にして思えば彼は重篤な自閉症児だったと思いますが、当時は「オシ」などと呼ばれ、世間的にも
病気がほとんど認められない残酷な時代だったんです。
ある時、私は出口君の家に招待されました。
私は親父の勤める会社の社宅のアパートに住んでいたんですが、彼の家はそこから子供の足で
徒歩15分くらいだったと思います。
子供から見ても貧しそうなアパート。シュロの生い茂る薄暗く古いアパートの一階が彼の家でした。
部屋の中も昼でも蛍光灯をつけなければならないような狭く暗い空間でした。
その狭い空間の中は足の踏み場がないほど雑多な状態で、遊ぶといってもテレビを見る事くらいしか
できなかったと思います。
出口君のおもちゃもなく、何より彼はしゃべりませんでしたから、、
やがて夕刻になった頃、彼のお母さんの「そろそろご飯にするから、、」という言葉と共に
スーパーの総菜と思われるアルミ皿に盛られたほうれん草のグラタンが運ばれてきました。
その時、
「わ~~い」
私は初めて出口君の声を聞いたんです。
低くしゃがれたあまり子供っぽくない声。
「え??話せるの??」
そんな事を彼に言ったように思います。
でも彼はその一言を発しただけで、また元通り何も話さなくなってしましました。
ほうれん草のグラタンは私の分はありませんでした。
出口君のお母さんは、ご飯を口実に私を早く帰らせたかったのだと思います。
釈然としない気持ちと、彼が初めて声を発した事に対する驚き。。
何とも複雑な気分で私は出口君の家を出たんです。
ーーーーーー
そんな子供が小学校時代にいたんだ、、と 私は さとこ に話をしました。
「あ~~、、確かに暗い雰囲気の家だね、、家に入る前に廊下のネコがあなたを見たね、、」
「部屋の中が狭い、、このぶらさがっている物は、、? あ、手紙を入れる収納袋、、あったね昔」
「え~と、、テレビか、、あなたが見ていたのは、仮面ライダーだよ。 2人で見ている、、」
私が説明していない事を次から次へと さとこ が言い出します。
随分昔の事なので記憶も不確かですが、確かにネコがいたような、、仮面ライダーだったような、、
「あ、ダメだよ!メダルを隠しちゃ!!」
これはハッキリ記憶にあります。
出口君は何も言いませんでしたが、家に入るなり私に大ぶりのメダルを見せて来ました。
彼にとって自慢の品らしくゼスチャーなのですが、相当大切にしている雰囲気が分かります。
私はちょっとイタズラのつもりで、彼が居ないスキに座布団の下に隠したんです。
「え~と、出口君だっけ? 彼が話さないのはね~、、口を押さえつけられているんだよ」
「いつからか誰なのか分からないけど、、お爺さん、、着物を着ている、、」
「なんで口を押さえているんだろう、、? ん~、、ちょっと理由が分からない、、」
さとこ はまた過去に飛んだようです。
私のその頃に出向いて、私の中に入ったり出たりして視ています。
「出口君は、今は普通に暮らしているよ。それは分かる」
「グラタン、、残念だったね。 食べたかったね~」
「え? そこまで分かるの?」
「分かるよ、、だって私があなたの中に入ったんだから」
出口君に会う事はないでしょう。
私がその場にもっと居れれば、なぜ出口君が口を押さえられているのか分かったかもしれません。
でも彼が多分病気を克服して生きている事が分かっただけでも安心しています。
幼い私がずっと気がかりな事でしたから。
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私は親父の仕事の都合で小学校を2回転校しています。
出口君と出会ったのは最初に転校した時の2年生のクラスの中でした。
この年頃の男の子はやんちゃざかりだと思うんですが、私は転校生にも関わらず、すぐにクラスに
慣れ、そればかりか度を過ぎて先生に怒られて廊下に立たされた(今はそんな事ないですよね?)
事も何度かありました。
でも出口君はそんな私とは正反対で、先生に怒られる事もなく真面目な大人しい子供だったと
記憶しています。
一見は普通です。でも彼にはその性格以上に変わった部分があったんです。
彼はまったくしゃべりませんでした。
最初に私が出会った時に普通に話しかけたんですが、全く言葉を発しない。
子供心にも「あれっ?」て思います。ただ首を縦に振ったり横に振ったり。。
なんとか意思疎通はできるものの、相当面食らいます。
授業中に先生に当てられても全く答えない。健康診断で話しかけられてもただ立ちつくすばかり、、
大人でも初対面の人は戸惑います。
時間が経つばかりなので皆そのうちあきらめていました。
ある時クラスの何人かが彼を話せるようにするためと言いつつ、くすぐる事をしていました。
それでも彼は目に涙をためながらも絶対に言葉を発しませんでした。
そんな光景を見ていた私は子供心に彼がかわいそうになってしまい、その子達にやめるようにと
止めた事がありました。
その時からでしょうか、出口君が私に心を開くようになったのは。
意思の疎通は不十分でしたが、なんとか遊ぶ事をしていたと思います。
今にして思えば彼は重篤な自閉症児だったと思いますが、当時は「オシ」などと呼ばれ、世間的にも
病気がほとんど認められない残酷な時代だったんです。
ある時、私は出口君の家に招待されました。
私は親父の勤める会社の社宅のアパートに住んでいたんですが、彼の家はそこから子供の足で
徒歩15分くらいだったと思います。
子供から見ても貧しそうなアパート。シュロの生い茂る薄暗く古いアパートの一階が彼の家でした。
部屋の中も昼でも蛍光灯をつけなければならないような狭く暗い空間でした。
その狭い空間の中は足の踏み場がないほど雑多な状態で、遊ぶといってもテレビを見る事くらいしか
できなかったと思います。
出口君のおもちゃもなく、何より彼はしゃべりませんでしたから、、
やがて夕刻になった頃、彼のお母さんの「そろそろご飯にするから、、」という言葉と共に
スーパーの総菜と思われるアルミ皿に盛られたほうれん草のグラタンが運ばれてきました。
その時、
「わ~~い」
私は初めて出口君の声を聞いたんです。
低くしゃがれたあまり子供っぽくない声。
「え??話せるの??」
そんな事を彼に言ったように思います。
でも彼はその一言を発しただけで、また元通り何も話さなくなってしましました。
ほうれん草のグラタンは私の分はありませんでした。
出口君のお母さんは、ご飯を口実に私を早く帰らせたかったのだと思います。
釈然としない気持ちと、彼が初めて声を発した事に対する驚き。。
何とも複雑な気分で私は出口君の家を出たんです。
ーーーーーー
そんな子供が小学校時代にいたんだ、、と 私は さとこ に話をしました。
「あ~~、、確かに暗い雰囲気の家だね、、家に入る前に廊下のネコがあなたを見たね、、」
「部屋の中が狭い、、このぶらさがっている物は、、? あ、手紙を入れる収納袋、、あったね昔」
「え~と、、テレビか、、あなたが見ていたのは、仮面ライダーだよ。 2人で見ている、、」
私が説明していない事を次から次へと さとこ が言い出します。
随分昔の事なので記憶も不確かですが、確かにネコがいたような、、仮面ライダーだったような、、
「あ、ダメだよ!メダルを隠しちゃ!!」
これはハッキリ記憶にあります。
出口君は何も言いませんでしたが、家に入るなり私に大ぶりのメダルを見せて来ました。
彼にとって自慢の品らしくゼスチャーなのですが、相当大切にしている雰囲気が分かります。
私はちょっとイタズラのつもりで、彼が居ないスキに座布団の下に隠したんです。
「え~と、出口君だっけ? 彼が話さないのはね~、、口を押さえつけられているんだよ」
「いつからか誰なのか分からないけど、、お爺さん、、着物を着ている、、」
「なんで口を押さえているんだろう、、? ん~、、ちょっと理由が分からない、、」
さとこ はまた過去に飛んだようです。
私のその頃に出向いて、私の中に入ったり出たりして視ています。
「出口君は、今は普通に暮らしているよ。それは分かる」
「グラタン、、残念だったね。 食べたかったね~」
「え? そこまで分かるの?」
「分かるよ、、だって私があなたの中に入ったんだから」
出口君に会う事はないでしょう。
私がその場にもっと居れれば、なぜ出口君が口を押さえられているのか分かったかもしれません。
でも彼が多分病気を克服して生きている事が分かっただけでも安心しています。
幼い私がずっと気がかりな事でしたから。
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