”君は新聞の三面記事などに生活難とか、病苦とか、あるいはまた精神的苦痛とか、いろいろの自殺の動機を発見するであろう。

 

 

しかし僕の経験によれば、それは動機の全部ではない。

 

 

のみならず大抵は動機に至る道程を示しているだけである。

 

 

自殺者は大抵レニエの描いたように何の為に自殺するかを知らないであろう。

 

 

それは我々の行為するように複雑な動機を含んでいる。

 

 

が、少くとも僕の場合はただぼんやりした不安である。

 

 

何か僕の将来に対するただぼんやりした不安である。”

 

 


芥川龍之介が,旧友へ送った首記からの抜粋です。

 

 


昭和になってすぐに他界した文豪は,まだ,35歳でした。
 

 

 

「ただぼんやりとした不安」
 

 

 

というのは,つまり,はっきりした問題がわからないわけで,解決しようのないこと。
 

 

 

『実存的不安』
 

 

 

と,読み替えることが可能なのではないかと,思います。
 

 

 

実存的不安とは、具体的な脅威を超越した、人間の存在その ものに関する究極の不安のことである。 

 

実存的不安には、「死が 不可避である」ことに対する不安、「自分の人生には意味がない」 という経験に関連する不安、「人間は所詮一人である」という根 本的な孤独感などさまざまな側面がある。

 

 

 

マズローの欲求段階説でいうと,生理的欲求や安全欲求といった低次ではなく,自己実現だとか,かなり,高次の欲求レベルなのだと,想像されます。
 

 

 

つまり,引用文の冒頭にもありますが,心身の病気だとか,経済的に食えないとかといったそういった,ある面,解決策があることとは,次元が違う。
 

 

 

「ただぼんやりとした不安」
 

 

 

35歳という年齢は,いわば,人生の折り返しを向かえる頃。
 

 

 

多くの人が,それまでの考え方や行動では,なんとなくうまくいかないし,うまくいっても自分自身が納得しないとか,しっくりこないと感じ始める頃なのでしょうか。
 

 

 

When 完璧なタイミングを科学する

When 完璧なタイミングを科学する ダニエル・ピンク著

 

 

”幸福感は,成人初期に上昇するが,30代後半から40代初めにかけて下降し始めて,50代では最低になる。”

 

 


いわゆる中年の危機ですが,これを越えると,

 

 

 

”ここから急に上昇二展示,その後の人生の幸福度は,若い頃を上回る傾向にある”

 

 


ぜ,人生の中間地点で幸福度が落ち込むのか?

 

 

 

”一つ考えられるのは,希望が実現しなかったという事実に落胆を抱くせいだろう。経験の浅い20代や30代は,大きな希望と明るい見通しを胸に抱くものだ。やがて,雨漏りのように,徐々に現実が身に染みてくる。”

 

 


僕が,誰しもが「35歳からのキャリア戦略」を再考する必要を感じているのは,自分も経験したそんな,”まるで雨漏りのように”「ただぼんやりとした不安」に襲われたからなのだろう。
 

 

 

長い間,感情のどん底に留まっていないで,できるだけ早く現実と折り合いをつけ,次の目標に向かって欲しいと願います。
 

 

 

それまでの信念や考え方を変えるには,ひとりでは難しいことがあります。
 

 

 

だからこそ,キャリアコンサルタントやビジネスコーチとの対話を通して,自己変容をとげてください。
 

 

 

自己変容」とは、たとえ自分が最も否定したい情報、あるいは、見たくないと思ったものでも、すべてを受容し、表出し、常に入れ替えながら、自分という秩序は維持したまま、新たな自己へ更新し続ける作業のことです。

 

 

 

 未知の経験、非日常的な場所、良質な人間関係の場、これらが条件となって、自分が開いていくのです。