今月、大親友が結婚した。
彼と出会ったのは13歳の時だ。
中高と同じ学び舎で過ごし、大学こそ別々の学府へ進んだが、就職先は共に旭化成であった。
九州での新人研修時代、廊下で彼に会った。
そしたらこんな事を言った。
「人生、これでいいのかな。」
私はその言葉を冗談半分に聞いていたが、アイツの中では至って切実な問題だったのだろう。
「俺、医者になるわ。」
数ヶ月後、彼はそう言って辞表を書いた。
正直、私は彼の脱サラに賛成し兼ねていた。
人生に迷う若者に、大抵の人間は「好きな事をやればいい」なんて言う。
しかし親友としてそんな無責任な事は言いたくなかった。
いいのか本当に。
何度もそう聞いた。
あれから12年。
彼は、立派な医師になった。
そして可憐な女性まで娶った。
あの時の彼の決断は正しかった。
任された友人代表スピーチ。
奇を衒い過ぎて、お医者様方にはあまり受けなかった。
いや誰にも受けていなかった。
式後、自宅にてもう一度文章を練り直し、間の取り方、話すテンポを再考した。
とても良いものが出来た。
しかし、これを披露する場は恐らくないことに気付く。
破って捨てた。
彼が会社を辞めた2年後、つまり今から10年前だ。
「俺、役者になるわ。」
男はそう言って辞表を書いた。
そして今、心地よい疲労感と充実感を纏い、舞台の千秋楽を迎えようとしている。
あの時の私の決断も、どうやら正しかったようだ。
本日も横浜は快晴、レンガ倉庫の「紅」と豪華客船の「白」が陽光に映えて美しい。
この記事を親愛なる石川将史氏に捧ぐ。
駄文御免。