釆澤とヘアサロン

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「こちらは『切られ』て『失って』いる側なのに、なぜ金を払わせるのか。理解出来ない。」

当時中学生だった兄の美容院批判である。

僕はそれを思い出しながら、重い腰を上げ、軽い財布を提げ、今年の「初切り」に行ってきた。



美容院なんて人生みたいなものだ。

ああしたいこうしたいと訴えてみても、終わって鏡に映して見れば「こんなはずじゃなかった」と呟くのが関の山である。

髪なんぞ伸びなければいい。

よく思う。



さて、仰向けでのシャンプータイム。



「かゆいところないですか。」



出たこの問いかけ。

正直に答える人はどれ程いるのだろう。

僕の回答は決まっている。



「大丈夫です。」



そう言った直後だ。

その呼気で、顔に載せられていたペーパーが大きくズレてしまったのである。

僕の焦りをよそにシャンプーは続行される。

鼻と口を駆使し、必死にペーパーの位置を修正する。

失敗。

紙はスルリと舞い落ちた。

その一瞬、洗髪している女性の無防備な顔を、日常あり得ない角度から目撃してしまった。

これはお互い様で、先様も間の抜けた僕の顔面を、ある感慨を持って垣間見た事だろう。

両者、羞恥の極みである。



彼女は「すみません」と言い、新たなシートで僕の真っ赤な顔を覆った。

真っ白な泡と共に全てが水に流れてくれる事を祈りながら、僕は死体のように横になっていた。



駄文御免
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