南極と超深海の両極地で、実際に自分の手で水中ロボットを潜らせてきた研究者による「実話」をご紹介するブログ。
今回は、「海洋基礎教育のための水中ロボットキットの開発」に関するお話し。
このブログでも何度か記載しましたが、日本政府は2030年までに海洋技術者を1万人にすると明言しました。
しかし、海洋技術者を増やすと言っても車の免許のように、すぐ身に付く訳ではなく、基礎学習の他に乗船や現場経験を経てノウハウが身に付くことがほとんどです。
筆者が研究船に乗っていた時には、海洋系の大学や高校の新卒が現場に配置されると、「習ってきたもの」と言う想定の下で仕事が割り振られていました。
しかし、当然、現在のカリキュラムには海洋技術者に求められる即応的な学習は含まれておらず、一人前に作業が出来るようになるまで2~3年を要していました。
そこで、この状況を少しでも改善すべく、初等中等教育(中学・高校)から海洋教育を身近に感じて貰うことが出来ないか?という取り組みを数年前からからはじめました。
以前、このブログでも紹介した水族館などでの体験操縦イベントもその一環で、大学進学の前に海洋・水中業界の存在を知ってもらい、海洋技術者に興味を持って貰うのが狙いです。
陸の仕事では技術者と言うと、システムエンジニアやプログラマー、プラントエンジニアリングなどイメージしやすい職種が多いのですが、海洋技術者と一言にいわれても、イメージしにくいのが現状でした。
しかし実際には、巨大な洋上プラントを作ったり、掘削船を運航したり、水中ロボットを作ったり、パイロットだって仕事として存在しています。
こうした海に関する幅広い仕事や業種を少しでも知ってもらうため、誰でも簡単に学べる水中ロボットキットの開発に取り組み、2017年にテスト販売、2018年から本販売を開始しました。
ここでも重視したのは「ホンモノの技術」です。
接着剤やビニールテープやタッパウェアなどで作るのではなく、実際の超深海探査機に使用される技術をそのままダウンサイジングし、組み立てからメンテ、運用、法令までを網羅的に学習できるキットに仕上げました。
↑ 国産の水中ロボットキット ROV-TRJ01 (CQ出版)
1人でも多くの若者に触れて貰い、基礎的な知識を身に付けて現場に飛び込んで欲しいという思いから、国内の企業が儲け度外視で協力をしてくださり、国産の水中ロボットキットとして多くの教育機関などに導入いただきました。(お陰様で現在は完売しております。)
↑ 本学一般公開日の「ROV体験操縦会」の様子
これまでに何百人と言う多くの人に触れて貰うことができ、開発者としては嬉しい限りです。将来、この中から一人でも多くの海洋技術者が誕生することを願っています。
しかし、政府の目指す海洋技術者1万人にはまだまだほど遠いのが現状です。
いつかデアゴスティーニやアシェットから「週刊 水中ロボットを作る!」の話が来ないかな~?と淡い夢を見つつ、引き続き海洋教育に取り組んでいきたいと思います。
(↑10年以上前から言い続けていますが・・・苦笑)