丈二は藤堂葉子と別れた男を追っていた。
アウディは市内のガソリンスタンドに入る。
大手セルフスタンドに対抗して頑張っている地元資本のスタンドチェーンとして有名なスタンドだ。
丈二も一度、仕事でポイントカードの制作に関係したことがあった。
給油かと思ったらそうではなく、ここの関係者らしかった。
エスティマをスタンドに入れ、会社のカードで給油する。
「あのアウディ、決まってるねぇ」
従業員に何気なく話しかける。
「でしょ?ウチの専務の車なんですよ。ほとんど仕事しないのに、羨ましい」
グチとも不平とも取れそうな発言。
「そんなコト客にしゃべってもいいの?」
「いいんですよ。社長はそういうことは気にしないから。仕事さえちゃんとやってれば」
ウチの社長にちょっと似てるな、そういうところ…と思った。
給油を終えたころ、またあの男が出てきた。
アウディに乗り込み、走り去る。
丈二もその専務を追った。
アウディは駅前に向かっているようだ。
送迎用駐車場に入るかと思ったが、駅前のタクシーの列の後方に停車したままだ。
丈二は車を送迎駐車場に入れた。
しばらく駅の建物内から見張っていると、見覚えのある女がエレベーターから出てきた。
「薫!」
声をかける前に薫がアウディに手を振る。
驚く丈二に気づくこともなく、薫はアウディに乗り込んだ。
「どうなってんだ。また関係が混乱してきた」
登場人物がすべて何らかのかたちで絡んでいるような気がしてきた。
走り去るアウディを呆然として見送り、丈二は考え込んだ。
「ま、いいか。気負って調べても仕方ないだろう」
生来の気楽さ。一瞬立ち止まり、思考が中断する。
「俺がこんなに気楽になったのも、あいつのせいだ」
1人の男の顔が丈二の脳裏に浮かべた。
それは丈二と瓜二つ。コピーのように完璧な分身だった。
双子の兄、達也。
小学生の頃から何かと比較され、勉強でもスポーツでも決して勝てたことのないライバル。
高校、大学とすべて丈二の上のランクに進み、社会人になってからも差は広がる一方。
親からも諦められた丈二に比べ、大学院にまで進み、博士号を取得し、東京で教員をしていたが、
30歳のときに突然教師をやめ、事業を始めた。
大学卒業後すぐに帰郷して運輸会社の営業兼経理をしていた丈二を脅しまがいの手口で口説き、
自分が興した会社へ強引に入れた。今は社長と従業員の関係だ。
他の従業員は2人が双子だということに気づいていない。
顔を見ればすぐに分かるのだが、達也は会社には姿を見せない。
丈二を通じて指示を出す。
丈二の会社とは別の事業にも手を出しているようで、丈二にもその正体がつかみきれていない。
勝てないとわかっているだけに、負け犬根性がいつも顔を出してしまう。
これまで全ての面で負け続けてきたが、「いつかきっと」という気も少しはある。
唯一、達也を出し抜いたのが、達也の妻を寝取ったことだというのも情けない話だ。
達也の妻、朋子。
丈二は今も関係を持ちつづけている朋子を思い浮かべた。
サイドストーリーは『http://blog.livedoor.jp/undertaker2005/』にあります。