藤堂葉子が乗ったバスは市街地へ向かった。
田舎道だが、舗装だけは行き届いており、バス停も少ないため、バスは速い。
原付バイクでは離されずに走るのがやっとだ。
ただ、バス停で停車した時には、追いつかないようにするのに苦労した。
葉子は駅前で降りた。
丈二はバイクを駐車する場所に困った。
コンビニの前に駐車し、ハンドルロック。
徒歩で葉子を追う。
「電車?」
駅の中に入っていく葉子は小銭入れを出した。
どこまでの切符を買うのか分からないので、とりあえず買えるだけの高額切符を買う。
葉子に続いて改札口を抜け、ホームへ。
葉子は既にホームに入っていた列車に乗った。
隣の車輌に乗り込み、角のスペースに座る。
昼間の列車は客が少なく、同じ車輌では見咎められそうだ。
葉子が列車を降りたのは2駅先の無人駅だった。
改札口には切符入れの箱があったが、丈二は無視。
駅前はロータリーになっているが、タクシーもいない。
葉子がロータリーを横切ると、公衆トイレの前に止まっていた白いアウディが近寄る。
車に気付いた葉子は足を止め、目の前に止まるや、助手席のドアを開けて乗り込んだ。
運転席にはサングラスの若い男。
呆然と見送る丈二の視線を感じたのか、一瞬葉子が振り向いたような気がした。
「浮気のにおいがするな」
独り言を吐き出し、丈二はまたホームへ戻った。
帰りの列車まで30分。
田舎町のJRは昼間の列車が少ない。待ち時間30分はまだマシな方だ。
もとの駅に戻り、切符の払い戻しを受け、駅前のコンビニで弁当を買う。
「また駅ビルの屋上で食うか」
弁当の入った袋を提げ、自動販売機でペットボトルのお茶を買う。
屋上のベンチから港を眺めながら侘しい昼食。
丈二は、先日ネカフェで孤独な楽しみに乱入した舞のことを思い出していた。
「変な女だったな。あそこまで許したのに不倫にこだわるとは…」
互いに口での奉仕を尽くしたあと、丈二の誘いを舞は断った。
香織の時と同様に、ネカフェを出てホテルへ向かおうと考え、
場所を変えようという提案をしたのだが、
「許せるのはここまで。私、ここまでなら不倫にはならないって決めてるの」
と舞は言った。
丈二には理解不能だった。
不倫は精神の問題だと思っていた。
いくら身体を許そうとも、気持ちが離れていなければ不倫ではない。
丈二の常識はそうだった。
身体などいくらでも汚せる。
病気を貰わない限りは何でもできた。
独身に戻った現在も、結婚していた期間も。
それが他の人間にとっては非常識だとしても、それを変える気はなかった。
もともと結婚して家庭を持つことが似合わない人間だったのだと思っていた。
弁当殻をゴミ箱に投げ込み、エレベーターに乗ろうとしたが、生憎下降している最中。
「また歩くか…」
階段で4階分程度を歩くのは苦にならない。
2階には薫の勤務する小児科医院がある。
あの時も屋上で昼食をとったあとだった。
医院は診療中だった。
そうそう偶然は起こらない。