久々にアップする記事で何や!?

と思われる方も多かろう。が、何や!? と言われてもタイトルの通りである。

端的に言えば、とある短編文学賞に応募して落選したのだ。

まあそんなものだろうと思いはするが、最終選考にも残らなかったというのはなかなか心が折れるものである。

ただ、個人的にはそこそこのものが書けたという自負があるし、その作品のシリーズの構想もあるので、気持ちを切り替えていこうと思う。

ちなみに、当然ながらこのままではお蔵入りになってしまうので、せっかくだからここに残しておく。

何もなく、何も始まらず、何も終わらない。そういう話だ。

ちなみに、受賞作は(最終選考作品全てだが)やはり、何かを抱え、葛藤する人の心が巧みに表現されているようだ。

物語としてはそちらの方が正しいと思う。

ただ、わしが描きたかったのは、何らかのドラマ性のある人のことではなかったのだ。

自分の作品で描いた、特にドラマもなく、特筆すべき何かを持ったわけでもない、有り体に言えば何ということはない人を描きたかったのだ。

世界は、わしも含めたそうした『なんてこと無い人間たち』が積み上げてきたものだ。そこを自分なりに掘り起こしてみたかったのである。

まあ、所詮は落選作なのでどうということもないが、長くはない話なのでヒマつぶしにでもいかがだろうか。

 

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 市の郊外と呼んで良いその駅の正面から伸びる、ただただ広く長いだけの道を、男はゆっくりと歩いていた。

 かつては市内屈指のベッドタウンと呼ばれていたこの街にも、過疎化と高齢化の波がひっそりと押し寄せている。生まれてこの方、この街以外の場所に住居を構えたことのない男にはそれが殊更強く感じられる。

 男がまだ紅顔の少年だった頃、この時間帯のこの辺りは人と車でごった返していた。市内やその他の職場から帰ってくる大人たちや彼らを赤ちょうちんへと連れて行くべく待機しているタクシー、塾帰りの子どもを連れ帰るべく待機する親の車、集合団地を終点とする路線バス……

 彼自身もまた、そうして親に送り迎えをしてもらいながら塾、予備校へと通ったクチだった。能動的とは言えなかったが、足早に動いている周囲に遅れないように自身も足を早めて通りすぎてきた青春時代だった。

 だが今は、それらはまるで遠い幻のようにぼんやりとした思い出になっている。その当時のことを知らない者からすれば、どこか幻想的にさえ思える彼の記憶を信じるのは難しいほどに街は様変わりをしてしまっていた。

 全く人がいないわけでは勿論ない。同じ方向に歩いている人間もちらほら見かけるし、それとは逆に駅に向かって足早に去っていく人も少なくない。だが、駅から相当な距離を移動しなければ人の群れから離れることができないほどに賑わっていたあの頃とは比較にならないほどに閑散としているのだ。

 そうした、広いがゆえにどこか寂寥感を禁じ得ない街を、男はやや背を丸めて伏し目がちに歩いている。

 この歩き方は彼の癖であると同時に、同世代の同じような境遇の男たちにある程度共通する歩き姿だった。それなりに能力はある。職場でもそれなりに頼りにされる。だが、大きな出世が望めるほどに傑出した存在というわけでもない、それでいて社会人としては秋と呼べる年齢に差し掛かった人間の持つ、どこかくたびれた、どこか諦念的な思考が自然とそうした歩き方を身につけさせるのだ。

 同世代の人間全てがそうした歩き方をするわけではない。まっすぐ前を見て颯爽と歩く者もいる。だが、そうした人たちは世間的に成功しているか、成功がある程度自身の視野に入っている人たちがほとんどだった。

 男は、普段は駅から自宅までの距離をバスで行き来している。歩くには少し遠いと思える距離だからだった。自転車を利用していた時期もあったが、一度散歩中の老人と接触事故を起こしかけたことがあり、それ以降は自転車に乗ることを避けている。

 そうなると、一日中パソコンの前に座っているような仕事をしている彼は運動不足になる。珍しく残業の無かったこの日、彼が歩いて帰宅しているのはそうした事情があったというのもあった。先の通り歩くには少し距離があるが、歩くことは無理だというほどのものでもない。良いと感じられるようであれば続ければいいだろう。

―――それにしても……

 歩いて見ると、自分は普段この街のことを存外よくは見ていないものだと男は感じていた。彼の記憶の中にある街並みと、今歩きつつ見ているそれとでは、大きくはないもののかなり違いがあるのには驚いた。

 世間で言われるのは、古い商店街が軒並み店を締め、いわゆる『シャッター通り』になってしまっているということだった。だが、この街ではそれほど状況は悪く無いようだった。確かにかつて利用していた駄菓子屋などが店を締めてしまっている様子が映ってはいるが、他の店、例えば同級生の家がやっていた花屋などはまだ商売を続けているようだ。

 もっとも、その店の経営は既に同級生の家族から、彼らの親戚のものに移っていた。その同級生は店を継がずに街を出て行ったきり音沙汰は無く、両親も既に自身の生まれ故郷に移住している。店は確かに残ってはいるが、そこにいるのは男とは何の関わりも無い人たちだった。

 また、花屋とは反対側の角にあるコンビニエンスストアは、かつては酒屋だった。男の先輩にあたる人物が家業を継いだあと、すぐにコンビニエンスストアに変わったのである。その先輩はなかなかの辣腕家で、今ではその店の他に市内に3つもの店舗を構えるオーナーである。

 同世代の中では突出して成功している人物ではあったが、彼はその先輩の人となりは好きではなかった。能力も高く容姿も悪くないその人物は、普段は人当たりが良いのだが下の者の失敗を許さないタイプだった。何かにつけネチネチクドクドと文句を言った。

 後輩の失敗をきつ目に注意するというものではなかった。むしろ、そうした後輩の不首尾を利用してその人物を苛み、貶るて楽しむようなきらいがある。何か欲しいと思ってコンビニエンスストアを探す時でも、男はその先輩のチェーン店を使うのは極力避けた。成功者に対するやっかみに似た感情が無いでもなかったが、概して関わりあいになりたくない人物だったからである。

 人知れず内に外に自分の少年時代とは変わってしまった街を、男は静かに通り過ぎた。日中、彼が事務所に籠もって仕事をしている時間帯は日差しもそれなりに強いのだが、この時間になるとうっすらと冷えが来る。

 夕刻と呼んで良いその時間帯はまだ落日の残光が暗い空にかすかに残り、昼間の暑さも空気の中に漂ってはいるが、一筋の冷たい空気を男は感じずにはいられない。街を秋がすっぽりと包み込もうとしているのを感じながら、男は着古したジャケットを着直した。良い品物をシーズン終盤に購入したため安価だったが、もう何年も着込んでいる。

 ショルダーバッグをかついでいた時期もあったため、肩のあたりがすこし擦り切れた、くたびれたジャケットだった。気に入って着てはいるが、もう来年は着ることはできないかもしれない。

 ふと、男の耳にどこか懐かしさを感じる音が飛び込んできた。微かな遠鳴りのように聞こえたそれは、間違いなく祭り囃子だった。

―――もうそんな時期なのか。

 ここ数年仕事が忙しく、家のことを顧みることはもちろん、季節の移り変わりを感じることも無かった。単に温かい、暑くなった、涼しい、寒いといった程度だった。

 一応家族がいるのだから、それなりに季節の行事らしきものはあったし、やっても来た。しかし、娘が年頃になり家族と距離を置くようになると、自分と妻もまた不思議と距離を取るようになった。

 妻に不満は無かった。取り立てて見どころがあるわけでもない自分と連れ添い、子供を産んで篤実に家を守ってくれている。今時珍しいタイプだと男は思う。

 娘にも別段不満は無い。娘を持つ男親が通常持つであろう悩みも無いわけではないが、概して家族仲は良いと言えた。ただ、隙間風というわけではないがどこかよそよそしくされるのには、やはり自分が仕事優先の生活を送っているからだろうと男は考えている。

 昔のモーレツ社員というわけではないが、必要とあれば残業も休日出勤も厭わなかった。

 だから仕事に熱心かと言われれば、別段そういうわけでもなかった。ただすべきことを無難にこなしてきただけだ。だから、同世代の人並み程度には出世もしたが、それほど上に登れたわけでもないし、これからもそうはならないだろう。

 そんなことを考えながら歩いているうちに、祭り囃子はよりハッキリと男の耳を捉えるようになった。祭りの会場は駅と自宅の丁度中間にあたる小さな神社と、その隣に併設されている広くはない公園だった。

 祭りがあることを知らないわけではなかった。幼い頃には毎年のように行っていたし、それなりの年齢になっても親しかった同級生たちといっしょに行ってもいた。

 その当時付き合いのあった同級生たちも何人かはまだこの街に残っている。だが、仕事が違い、生活時間帯が少しでも異なれば、同じ、しかも狭い地域に住んでいてもほとんど会うことがない。また、顔が会ったとしても挨拶程度のことはするが、立ち止まって話しをするような相手はいなかった。つまりは其の程度の付き合いでしかないのである。

 今歩いている通りの道沿いにあるその神社にどのような神が祀られているのかを、男はすっかり忘れてしまった。少年時代に誰しもが通過する神秘的な何かに夢中だった頃には覚えていたのだが、その時期を過ぎて日々が忙しく過ぎていく頃には記憶から抜け落ちてしまったらしかった。

 祭りもやはり、かつてほどの人出はなかった。思えば、娘を連れて久しぶりに来た時には既にかつての喧騒はなかった。そして、今目の前にはその頃よりもさらに閑散とした風景が広がっている。

 とはいえ、それなりに人は来ていた。少なくなったとはいえ人がいなくなったわけでもないし、同世代やそれより若い世代にも子供がある。こうしたイベントを見逃すはずがなかった。

―――そう言えば……

 男は、自分がうんと幼なかった頃は、ここの祭りはそれほど人が来るようなものではなかったという事を唐突に思い出した。あまりにも遠い古い記憶なためどこか曖昧だが、彼の記憶の中では、夜に人が集まるようなことはあまり無かったように思われた。

 それもそのはずで、男がこの神社の近くにある幼稚園の園児だった頃は、祭りは今のような形式ではなかったからである。

 祭礼は2日間行われるのだが、初日は一般の人間は境内には入れない。厳粛な神事が関係者と氏子のみで行われるのみである。男の家も氏子であったから、彼もこの大切で厳粛で退屈な神事に参加したことが何度かある。もちろん参加『させられて』ではあったが。

 2日目に行われる神事は一般の参加も許されるし、夜になれば屋台も出たが、それほど賑わうというほどのものではなかった。

 祭礼の内容が変わったのは、男が中学校に上がる前の年からだった。街が一番栄えていた時期であり、当然ながら人も多かった。

 そのためかどうかは知らないが、初日こそ同じように神事を行うものの、翌日の祭りは昼間には神楽や和太鼓の演奏などを催す派手なものに変わった。現役力士による奉納相撲も行われ、多くの人が集まったものだ。

 今は奉納相撲や和太鼓といったものは催されていないが、県内にある神楽団を招いて神楽を披露することは続いていた。近年、神楽は徐々に人気を博しており、神楽を見るために県内外からこの祭りに来る人もあるという。

 一時期は祭りの開催自体を取りやめにすることも検討されたほどではあったが、こうしたことを背景に近年では少しずつ人が集まるようになっているという話を、男は神主との立ち話で聞いた記憶があった。神主は、男の比較的親しい後輩だった。

 男の視界を人影が横切った。それを知覚した瞬間には男は反射的にその人影を追った。浴衣を着たその人は、男にとって忘れえぬ『あの人』にあまりにも似ていたからである。

彼がその人と出会ったのは十七歳の時だった。父方の祖父母が市外の島嶼部の人で、毎年夏になると彼は両親に連れられて祖父母の家に行っていた。フェリーで片道四十分ほどの島だった。

 退屈以外の何者でもなかった。また、祖父母は厳格な人だったので、少年だった当時の男にとっては嫌いではないものの窮屈だった。周囲には同じような年頃の者もいなかったので、ここで過ごす2、3日は、彼にとっては修行のようなものだ。

 彼はいつからか夕刻になると祖父母の家を出るようになった。近所の浜辺に沈む夕日の美しさに魅了されたのである。

 人の手が入っていないということが信じられない程に、広くて静かで美しい浜辺から臨む夕日は、後に短い期間ではあったが彼を写真の趣味に走らせるきっかけとなった。彼は祖父母の家に滞在する期間中は雨天でもない限り必ず眺めるようにしていた。

 その日は前日の雨が上がったあとの空があまりに美しく、それまでに見たことが無いほどに美しかった。夕日の光が美しかった。その光が投げる自らの長い影も美しかった。何より、夕日に照らされて控えめに輝く水面と、その光を細かく砕く波が美しかった。

 あまりの美しさにすっかり魅了され、少年は時が経つのを忘れて立ち尽くした。その放心の間に波が自分の足元にいくらか近づいて来ているということに全く気が付かなかった。

 男が追った人は、祭りの会場を通りすぎて神社の境内に入って行った。そこは昔から祭りに訪れる者が集合するのに使っていた場所で、その人もどうやら友人たちとの待ち合わせのためにそこにやって来たようだった。

 数人の浴衣姿の若い女性たちと談笑するその人は、しかしよく見れば『あの人』とはあまり似てはいなかった。その人と最後に会ったのもこの場所だったことを思い出した男は、唐突に胸を締め付けられるような思いがした。

 打ち寄せた強い波は、夕日に魅了された少年の足元を無造作にさらった。突然の出来事と思いがけない水の冷たさ、ぬかるんだ足元の砂に驚いた少年は、自身も間抜けだと思うような声を挙げて尻もちをついた。波は彼の立っていた場所よりもずっと奥まで浜辺を濡らし、ために彼は尻だけではなく、足から背中にかけてびっしょりと濡れる羽目になった。

―――なんてこった……

 そう思いつつ、この場に誰もいなかったことに安堵しながら立ち上がろうとした彼の耳に、朗らかな笑い声が聞こえてきた。

 まさに鈴の音を転がすといった風情の笑い声を立てているのは、自分より少々年上らしい女性だった。細身の体をパールホワイトのワンピースに包み込んでいるその人の胸と腰には、女らしい稔りが感じられた。陶器のように滑らかな肌には、思春期の少年をぞくりとさせる何かがあった。

「ごめんなさいね」

 そう謝りつつも、その人は笑うのをやめなかった。恥ずかしかったが、どういわけか少年は悪い気はしなかった。

 彼女は、県外から友人とここに来ていると言った。当時は知らなかったが、この島の祖父母の住居の反対側のエリアは貸し別荘が広がる地帯があり、彼女はそこに泊まっていて、明後日には帰ると言う。

 あまりにも唐突に現れたその美しい女性に強く心惹かれた少年は、自分の知るこの島の様々な場所へ彼女とその友人たちを案内した。

 島の山の登山道はこの時期であっても木々が程よく生い茂っていて意外に涼しい。

 その先にある広い原っぱには、いつしか種々の花々が自生するようになり、数少ない来客を喜ぶかのように咲き誇っている。この時期は朝顔やあざみ、ゆりなどが咲いていた。

 彼女が神楽や和太鼓にも強い興味を持っているということを知ると、自身の地元の神社の祭りに誘ってみた。聞けばそう遠い場所に住んでいるわけではないという。一か八かという思いだった。

 彼女はその誘いを受け、その年のこの時期にここへやって来た。夕日の下で佇む彼女も美しかったが、宵闇の薄暗い光の中で浴衣に身を包む彼女も美しかった。

 和太鼓と奉納相撲、そして神楽の上演が終わって人が少なくなった頃に2人は境内に向かった。そこで唇を重ね、翌夏の再会を約して別れたのだが、それが今生の別れとなるとはお互い思いもしなかった。

 彼女はその年の冬に病を得て、梅雨が明けるまでに亡くなってしまったのだ。少年がそれを知ったのは、二十歳になる年の夏だった。

 男が長い放心から我に返ったのは、前方から聞こえた笑い声に、あの人のそれと同じような響きを突然聞いたからだった。だが、それはどうやら幻だったようだ。はっとして顔を上げた男の視界には、女性たちはおろか、人の姿など全くなかったのである。

 まるで女性たちの姿までが幻だったかのような気がして、あやしい気分が男の胸をかすめたが、隣の公園から響く祭り囃子が先ほどと比べて力なく響いているところを見ると、男は自分が思っていたよりも長い時間、昔の回想に心を委ねていたようだった。

―――やれやれ。俺も……

 年を取ったのかな。と男は思った。ふとしたことで昔を殊更に懐かしむのは年を取った証かもしれなかった。

 境内に来たついでにお参りも済ませ、鳥居をくぐりながら男は、再びあの頃のことを思い出していた。

 目をつぶると、その人の姿がありありと眼前に浮かんだ。既に二十数年前のことであるにもかかわらずだ。しかも、男はこれまでそのことをほとんど思い出すことがなかった。

 いや、当初こそ悲しみのあまりに思い出すことを自ら戒めていたのではあるが、そうして過ごすうちに思い出さないことの方が普通になってしまっていたのだ。

 ふと男は、自らの目から涙が滴り落ちるのを感じた。そして、そうした青春時代から抱えてきた、いわゆる『若き日の思い出』が終わったという思いが胸にゆっくりと広がっていくのを感じていた。

 終わったのは、多年自身の心の内に募らせていた『あの人』への思いだけではないのかもしれない。その後にその人によく似た女性と知り合い交際したが、結局上手くいかなかったことや、予備校に通いつつも映画に魅せられて結局大学には進学せずに映画関係の専門学校に進んだことも。

 その学校で自主映画を撮影している最中、エキストラとして撮影に参加していた今の妻と出会ったことや、全く似ていないにも拘らず、あの人のそばにいるような心地よさを感じたことも。

 終わったのは、そうした出来事などのことではない。そうした日々の持った空気や風といった感じのものが、『過去』から『思い出』に変わったのである。

 涙を人知れず拭うと、男は歩き出した。その歩き姿は先程まで街を歩いていた時のような俯き気味の猫背ではなかった。背筋を伸ばしてまっすぐ正面を向いている。

「お父さん」

 歩いている男に声をかけてきたのは、言うまでもなく彼の娘だった。

 記憶が正しければ今年二十一歳になるはずである。そう言えば、自分と出会った頃のあの人がそのくらいの年頃だっただろうかと男は思った。

 県外の短大に進学した娘は、卒業後この街で保育士になっている。

「どうしたの? こんなところで」

 そう言ったのは娘ではなく妻だった。どうやら2人で買い物をしていたらしい。

「いや……」

 気まぐれに祭りに行って、そこで昔のことを思い出して涙を流したことなど、2人に言えるはずもない。男は曖昧な返事をすると家族揃って家路へとついた。

 ふと顔を上げると、ツクツクボウシの鳴き声がかすかに耳に入って来た。夏の終わりに生まれた蝉が、祭り屋台の光に惹かれて集まっているのかもしれなかった。