その日、恵美子は学生時代の友人達との飲み会だった。いわゆる『女子会』というやつである。
『女子』と呼ぶには限界に近い年齢だと言ったら、世の女子達にしばき倒されてしまいそうな気もするが、ともかく恵美子はその夜出かけていた。
我が家では夕食も済み、シゲは雑誌社の主催する賞に投稿する作品の締め切りが近いとかで、一足先に離れへ帰っている。
沙織はけいこと仲良く夕飯の後片づけをし、そのまま二人で居間でテレビを見ている。
わしはわしで、先日家族というか、ここに住む連中の反感を無視して購入した、タ○ヤのラジコンカーの組立に余念が無かった。
そのうち、けいこが離れへ帰って行き、沙織が部屋に入ってきた。もう寝るつもりなのだろう。
わしも作業を切り上げて、一人で茄子の浅漬けを肴に一杯やってから寝ようかと思い、席を立ったその時だ。
突然けたたましい音が、都会にお住まいの人には想像もできないくらい静かなこの家に鳴り響いた。
実はこの家の電話は、わしの趣味でいわゆる『黒電話』なのだ。
サ○え○んの家のように受話器が飛び跳ねる事のない電話を取ると
『こちらは、広島南署・少年課です。』
と言うではないか。南署?
広島県警の広島南署は、確か広島市内の南区とその周辺を所轄する警察署だ。
そして、わしの住んでいる場所は広島市では当然無い。
どうしてそのわしの家へ、南署から電話がかかるのだろうか?
それに少年課というのも変だ。
ご存知の通り、この家には少年課のお世話にならなければならない年齢の者はいない。
もっとも、見た目が少年課の管轄っぽいのが二人いるにはいるが。
あるいは、シゲの奴が書いた小説が児童ポルノ法にでも引っ掛かったとでも言うのだろうか。
いや、それならば少年課の係ではなく、刑事が直にここにやって来るはずだ。
何だか妙だなと思っていると
『桐島恵美子ちゃんのご自宅はこちらですか?』
と、少年課と名乗る人物(女性)が言ってきた。ちゃん?
沙織と恵美子の名字は桐島なので、我が家には該当する人物がいる事になる。
わしがその通りだと告げると
『恵美子ちゃんを保護していますので、迎えに来てあげてください。』
えええええええええええええ~~~~~~~~~~~~!?
なんと、恵美子は少年課のお世話になっているというのだ。実に笑える話だ。
それはともかく、ここから恵美子を迎えに行くとなると、既に船の最終便は終わっているので、車で陸伝いに行くしかない。
片道二時間近くかかる道のりを、夜遅くに一人で運転していくのは、案外切ないものである。
しかし、連絡があった以上は行かなければなるまい。
わしは愛車(SA22C)のキーを回した。久しぶりの長めのドライブだ。
時間帯が時間帯だけに少々しんどいが、そう悪い気分ではない。
わしは一緒に行きたがる沙織に
「遅くなるだろうから寝とってかまわんが、戸締まりはちゃんとしとけよ。」
と言っておいて、そのまま夜の帳の中へと愛車を走らせた。

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