「ひさしぶりじゃね。しかし、まさかこんな・・・」
「ねぇ・・・」
困ったような笑顔でそう応えたけいこの表情は、わしと付き合っていた当時とくらべると、幾分柔らかくなっているように思った。
過ぎ去った時が、けいこの印象をそう変えたのかもしれなかった。
また、歳を取ってほんの少し肉付きの良くなった体が、そう感じさせたのかもしれなかった。
そんなけいこにホッとしたわしは、何やら背中にささる一種異様な視線のようなものを感じつつも、シゲと二人で離れに住んでもらいたい事と、食事は母屋で全員で一緒に食べる方がいいだろうという事を告げた。
彼女も同意し、にぎやかで楽しそうと言った。
「さぞにぎやかになる事じゃろうて。あんた以外は困った奴ばっかりじゃ」
わしがそう言うと、やはりけいこは何やら楽しそうに肩をすくめて笑った。
そんなわしらを、随分前からジト目で見ている沙織に
「飲みに行くが、お前らも行くか?」
と聞いてやると、恵美子と二人して嬉しそうについてきた。
シゲとけいこと別れて、わしは二人の姪を連れて良く行くバーで一杯引っかけ、最終の船に間に合うように引き上げた。
帰りはタクシーだなと思いつつ、これから始る奇妙な共同生活の事を考えると、腹のそこで笑いがうずくのを禁じえなかった。
「どうしたの? ニヤニヤして気持ち悪いよ?」
という恵美子の言葉を聞き流しながら、けいこはシゲに昔の事を話しているのだろうかとわしは思った。
食事会から一週間後に、シゲとけいこは荷物を離れに運び込んだ。
二人からすれば、以前住んでいた所よりは少々手狭なようだが、それでも満足しているようだった。
けいこの職場は、最初にシゲから聞いていた所とは大分に違い、どうも港の付近のようだ。
相変わらずいい加減な奴である。
そんな事から、これからはわしが毎朝けいこをその職場まで連れて行く事になった。
まあ、わしも毎朝港から船に乗るのだから問題無いし、何よりシゲの奴が免許を持っていないので、この家で車を動かせるのはわしだけだ。
ただ、他の田舎と同様この地域もまた、どこかに移動するには車を必要とするのだが、わしの愛車は実質二人乗りのようなものなので極めて不便だ。
「作家先生よ。あんたのギャラでデカい車の一つでも買ってくれ」
と言ってやると
「俺のギャラなんぞ、月に7、8千円くらいしか無いよ」
とシゲは言い放った。
三十代も半ばの男の月収が7、8千円とは恐れ入る。
聞けば、けいこの収入もわしのそれと大きくは違わないというから、これまでの二人の生活がどれほどのものだったかは想像に難くない。
かくして、わしとけいこが他の三人を養うという、史上稀に見る奇妙キテレツな共同生活が本格的にスタートしたのであった。
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「ねぇ・・・」
困ったような笑顔でそう応えたけいこの表情は、わしと付き合っていた当時とくらべると、幾分柔らかくなっているように思った。
過ぎ去った時が、けいこの印象をそう変えたのかもしれなかった。
また、歳を取ってほんの少し肉付きの良くなった体が、そう感じさせたのかもしれなかった。
そんなけいこにホッとしたわしは、何やら背中にささる一種異様な視線のようなものを感じつつも、シゲと二人で離れに住んでもらいたい事と、食事は母屋で全員で一緒に食べる方がいいだろうという事を告げた。
彼女も同意し、にぎやかで楽しそうと言った。
「さぞにぎやかになる事じゃろうて。あんた以外は困った奴ばっかりじゃ」
わしがそう言うと、やはりけいこは何やら楽しそうに肩をすくめて笑った。
そんなわしらを、随分前からジト目で見ている沙織に
「飲みに行くが、お前らも行くか?」
と聞いてやると、恵美子と二人して嬉しそうについてきた。
シゲとけいこと別れて、わしは二人の姪を連れて良く行くバーで一杯引っかけ、最終の船に間に合うように引き上げた。
帰りはタクシーだなと思いつつ、これから始る奇妙な共同生活の事を考えると、腹のそこで笑いがうずくのを禁じえなかった。
「どうしたの? ニヤニヤして気持ち悪いよ?」
という恵美子の言葉を聞き流しながら、けいこはシゲに昔の事を話しているのだろうかとわしは思った。
食事会から一週間後に、シゲとけいこは荷物を離れに運び込んだ。
二人からすれば、以前住んでいた所よりは少々手狭なようだが、それでも満足しているようだった。
けいこの職場は、最初にシゲから聞いていた所とは大分に違い、どうも港の付近のようだ。
相変わらずいい加減な奴である。
そんな事から、これからはわしが毎朝けいこをその職場まで連れて行く事になった。
まあ、わしも毎朝港から船に乗るのだから問題無いし、何よりシゲの奴が免許を持っていないので、この家で車を動かせるのはわしだけだ。
ただ、他の田舎と同様この地域もまた、どこかに移動するには車を必要とするのだが、わしの愛車は実質二人乗りのようなものなので極めて不便だ。
「作家先生よ。あんたのギャラでデカい車の一つでも買ってくれ」
と言ってやると
「俺のギャラなんぞ、月に7、8千円くらいしか無いよ」
とシゲは言い放った。
三十代も半ばの男の月収が7、8千円とは恐れ入る。
聞けば、けいこの収入もわしのそれと大きくは違わないというから、これまでの二人の生活がどれほどのものだったかは想像に難くない。
かくして、わしとけいこが他の三人を養うという、史上稀に見る奇妙キテレツな共同生活が本格的にスタートしたのであった。
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