なんか続きを期待する人もいるようなので、まあがんばって続きを書いてみようと思う。さほど面白くもない上に、無駄に長くなるだろうから、読みたくない人は眺めるといい。きっと読んでも眺めても「長っ!」としか思わないだろう。

2011年12月31日。年の瀬が時単位で近づいて来る中、わしは寒風吹きすさぶ宇品港へと降りたった。
もはや越年への準備は終わっているのだろう。町の様子は思いのほか静かだった。
よくよく考えてみれば、この辺は広島市内とはいえ郊外と言ってよく、繁華街や歓楽街があるわけでもない小規模な工場や倉庫ばかりの町に人がうじゃうじゃいるはずもなかった。
わしの目的は、例のDMS-59の分岐ケーブルをVGA・DVIを問わずに購入する事。もう一つは、DMS-59で分岐した先にあるVGAまたはDVIのケーブルの購入だった。

ご存知の方もあろうが、宇品にはそこそこ大きな電器屋のDEODEOがある。かのエディオングループの中核をなす大手(?)電器チェーン店だ。
その昔は女子の駅伝チームが強かった。が、今はそうでもないようだ。
それはさておき、港からDEODEOまでの距離は、歩くのには少々しんどいが、バスに乗るには少々バカらしいという、極めて中途半端な位置にある。
ベイシティと呼ばれる宇品の新興地域にいち早く登場した店舗なのだが、広島市の中心部に比較的近い橋の近くに建設されたため、結局港からも市内中心部からも半端に遠い場所になってしまったのは皮肉な話だ。
さて、低所得者世帯の人間であるわしにとって、そんな距離をわざわざバスで移動するような贅沢などする余地もない。あってもしない。
寒いとはいえ今日ほどではないし、わしは比較的寒さに強い生き物なので(何せパンダだ)冷たい風の中を元気に歩いていくのであった。
余談だが、後日この過信がたたったのか、どうやら風邪らしい症状が出ることになった。これについても機会があればどこかで触れてみようと思う。

エントランス広場の中を突っ切り、公園の広場を迂回しながら、わしはやや西よりの道を、さして急ぐでもなく、だが余人からすれば速歩きに見える歩き方でとぼとぼと一人寂しく無言で歩いていた。
一人で歩く時間というのは考え事をするのにはうってつけの時間で、わしはちょうどそのころ構想を練っていたライトノベルっぽい物語の肉付けを足りない頭の中で進めていた。
登場人物の容姿がうっすらと浮かび、主要登場人物の人数、その中から主人公を選び、その主人公のバックボーンの概要を考え、何となくタイトルが決まったころ、わしは何かを蹴った事に気がついた。
わしの直接の友人方はご存知だと思うが、わしは外歩きの時はほとんどグラサンをしている。
そして、さらに親しい人は、わしは最近視力が衰えてきている事もご存知だろう。普段使用しているグラサンは度が入っていないので、実はそのままだと周囲がぼわっとしか見えないのだ。
ところで、蹴ったものの感触だが、これまで三十数年生きて来たわけだが、どうも今までの人生の中で蹴ってきたものの中では、こんな感触のものはなかった。
小学生時代は空き缶や石ころを蹴り、中学生時代には適当にサッカーボールを蹴り、高校時代には喧嘩相手の脇腹やき●た●を蹴り、大人になったらやりたくない仕事を蹴ってきた(!!)わしなのだが、どうもそれらとはまったく感触が異なるのだ。
何とたとえれば良いか・・・何か妙な、柔らかくてそれでもある程度の硬さがあり、弾力があって少ししめった感じのする、なんだか「むにょん」とした不思議な感触だった。

一体何だろうと思って立ち止まったわしは、カバンの中から眼鏡を取り出した。
普段はあまり眼鏡をしないのだが、仕事や車を運転する時などには必ず使用する。
今日は購入する予定のブツを早く発見するために必要と判断して持って来ていたのだ。
「いつも使ってりゃいいぢゃん」と思ったそこのあなた。あなたは心得違いをしている。
普段眼鏡をしない人間にとって、眼鏡をかけるというのは、乗り物酔い発生装置を自ら装着するのと同義なのだ。そんな装置あるのかどうか知らんけど(いや、無いだろ)
加えて、わしは眼鏡の利便性を大いに認めつつも、そのレンズ越しに見える風景を好きになれなかった。
眼鏡の端に移るものが全て「エンタシス」に見えるその風景は、今日に至もわしの心をつかむことはない。そして、わしがそれに慣れる事もどうやら将来に渡ってなさそうだ。
得意のグラサンから不得手な眼鏡に装備を変更したわしは、さっそく自分の足元に目をやった。とたんに奴がわしの視界にありありと姿を表した。
やや円筒形のそれは、冬の弱い日差しを受けてでさえ、艶をもったてらてらとした光を放っている。どうやら生み落とされてまだそれほど時間がたっていないようだ。
光沢をもった健康的な茶色のそれは、眼鏡をしているとはいえ一目でそれが何であるかをわしに十分に知らしめる。
それは学術名「有機排泄物」あるいは「物体U」と呼ばれている。通称「う●こ」である。
なぜ・・・なぜ年の瀬の迫るこの時期に、よりによって新鮮な「う●こ」を蹴らねばならなかったのだろう。
わしは我が運命を呪うとともに、こんな場所へこれを放置したまま去った人間のモラルの低さを、思いつく限りの悪口雑言で罵るのだった。
(続く・・・のか?)

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