いやはや。人間変われば変わるものである。
前回お話した通り、うちのどうしようもない姪っ子どもの面倒を、あれどもの母親の後輩にして親友のメグさんが見てくれるようになって、はや二ヶ月になろうとしている。
この間になんと、姪どもが炊事以外の家事をなんとか自分でできるようになったのだ。
実に喜ばしいことだが、よくよく考えてみれば二十代半ばと三十手前の女がそれくらいできんでどうする。
とはいえ、わしにとっては大変にありがたい生活の変化だった。
メグさんがうちに来てくれるようになって二週間ほどしてからである。
なんでも

「いつまでもヤスくんがいてくれるわけじゃないんだよ。」

と言われた事が発端なんだそうだ。
ちなみに、今更だがわしのフルネームは安田保夫で、人からは『ヤス』『ヤスくん』あるいは『やっさん』と呼ばれている。
間違っても『ヤーさん』ではないので注意してもらいたい。
さて、確かにその通りで、今はそんな気配はないのだが、わしとて一応は一人前の男のつもりであるから、いつどこから話が出て同棲だの結婚だのという事があるやもしれぬ。
また、近年はこの業界の景気も冷え込んできて、仕事を関東・近畿・中部・東海・北海道(ってか札幌)以外の地域で見つけるのは難しくなってきている。
その辺の事を考えれば、正直わしがいつまでここに居れるのかは、わし自身にもわからない。
実際、今の仕事に入る少し前に、岐阜県でサーバメンテとWEBページを作成する仕事という話があって、行こうか行くまいか随分悩んだものである。
もっとも、仕事の内容を聞いてみると、なにやらデリバリー・ヘルスの仕事で、上記の仕事の他、その店の店長的な仕事から、従業員を指定の場所まで連れていく運転手までもこなさなければならないという。
給与面を含む諸々の待遇を見るかぎり、そんな仕事をしていては死んでしまうと思ったのでその件は断ったのだが、同時期に今の仕事の話が舞い込んでなければ背に腹は代えられんという事になっていたかもしれない。
ま、とにかくこういった奇妙な共同生活が、いついかなる形で終わっても大丈夫なように、なんとか家事を自分たちでできるようになっておかないと後々困るし、今のままではわしの負担があまりにも大きすぎることをメグさんが姪どもに言い聞かせてくれたというのだ。
大変にありがたい!が、何故そういう話を母親がしていないのだろう(苦笑)
何か釈然としないものが残るが、とにかく、少なくとも自分たちの部屋の掃除や洗濯などは自分でできるようになってくれた方がありがたい。
ここで、なぜ炊事をあの二人がしていないかをお話する必要があるだろう。
結論から言えば『やらない』のではなく『やらせていない』のだ。
前回の話を読んでくれた諸兄諸姉方は、自分たちで食事を作ると言い出した後の二人の行動をご記憶の事と思う。
これではあまりにもということで、一応メグさんが二人に料理を教えてくれようとしたのだ。
ところがこの二人、ちょっと目を離すと筆舌しがたい危険な行為に出るのである。
しかも、本人達にそんな自覚はまったくないのだ。
一度など揚物をしていてなべの油に引火し、パニックになった沙織が水をぶっかけようとしたというのだ。
そんな事された日にゃ、コンロの上で炎が立ち上り、古い木造建築のこの家は景気よく燃えてしまった事だろう。
だいたい、油が火を吹くまでどうして放置していたのかサッパリ分からん。
また、どうにかこうにかでき上がったものを以前食わされたのだが、いくらなんでも炭化して一見しただけでは何かもわからんハンバーグと、明らかに吹きこぼれたと一目見ただけでわかる味噌汁と、なんだかベタベタしていやがるから一口食ってみたら、案の定7分炊きの芯の残った飯ではかなわない。
メグさんが見ていてこのザマである。
こいつらにまともな食事を作らせるためには、一人につき二人の監視が必要そうだ。
とはいえ、これで遅くに家に帰ってから、洗濯だの掃除だのをしなくても済むようになったのはありがたい。
それに、最近では徐々に共同スペース、つまり廊下や居間、台所や風呂、縁側やトイレなんかの掃除も憶えてきている。
掃除や洗濯なんかを当番制で回せるようになるのも時間の問題だろう。
一番いいのは、本人達がそれを嬉々としてやっていることである。
心理としては、新しく憶えたことを実行して、親に褒めてもらう子供と同じようなものだろう。
やはり二人ともちびっ子だ。

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