メグさんの弟の本条サトシと言う人は、わしは直接の面識は無いのだが、地域の有名人の一人である。
産業らしい産業が無いに等しい、実に愛くるしいこの超弩級の田舎において、国内でも中堅どころに入る造船会社がある。
彼は若くしてその会社の執行役員に就任し、次期社長候補の呼び声も高い人物だ。
数少ないこの地域の若手からは、是非にも次回の市議会議員選挙に立候補をと熱烈なラブコールを受けている。
わしらがこの家に引っ越したとき、近所の挨拶回りはわしではなく沙織にしてもらった。
というのも、その日わしはどうしても仕事を休む事ができず、沙織か恵美子のどちらかに回ってもらう以外なかったのだ。
先の理由であまり外出をしたくないのはわかるが、これだけはどうしてもやっておかねば義理を欠いてしまうということで、沙織がしぶしぶながら引き受けてくれた。
で、その時たまたまメグさんは留守で、サトシさんが留守番をしていたらしい。
沙織いわく、わしくらいの身長で、わしよりもはるかにスマートで、わしより足が長くて、おまけにオサレ眼鏡の良く似合うイケメンだったという事だ。
さらに、受け答えもとても丁寧で、物腰も柔らかくてとてもいい人だったらしい。
この話を聞いて、恵美子は自分が行かなかった事をひどく悔しがっていたが、わしは一つ不思議に思った。
少なくとも地域では若手の名士であり、かつ視力以外は悪いところの無さそうなイケメンが、どうして姉の家族と同居しているかという事だった。
そんな人なら、わざわざ姉一家といっしょに居なくても、いっしょに居たいという女性はいくらでもいるだろう。
おまけに、メグさんの話によると、家事全般もそつなくこなすことができるのだそうだ。
聞けば聞くほど妙な話である。
仕事ができて人望も厚く、性格も良くて顔もスタイルも良くて、おまけに家事までこなせる。
わしからすれば完全無欠である。
そんな人が、三十代も終盤にさしかかっているにもかかわらず、未だに独身で姉一家の、いわば居候のように過ごしているのはなぜなんだろうか?
考えれば考えるほど妙な話だが、わしとて未だ独身の三十代なのだから、人の事を言えた義理ではない。
が、わしにはとりあえず結婚しにくい理由というものが少なからずあるではないか。
すなわち、未婚であるにもかかわらず、既にコブが2つもついている事である。
それにわしは、お世辞にも外見が良い方とは言えない人間だ。
まだ三十代前半にして、ほぼ完全なメタボリック体形で、しかも前髪は既に後退し初めている。
背は高いと自分でも思うが、残念ながら足は短い。おまけにクサい。
着るものや持ち物にはそれなりにこだわりを持ってはいるが、だからといって別段おしゃれであるわけでもない。
このように、外見的には取り立てて良いと思える要素が全く無い人間である(つД`)
自分で言っていて涙が出てきそうだが、収入に関してもわしは同世代の他の男性諸君に遅れを取っているのは確実だ。
そんな貧乏でさして見栄えの良くない、年老いた両親と生活能力が著しくとぼしい姪をかかえた長男のわしが、結婚というものに二の足を踏むのもなんとなくお察しいただきたい。
そう言えば、もう恋愛なんてものは思い出しても8年もご無沙汰だし、性交渉についても2年もの間全く無い。
趣味人として趣味を楽しむのも良いことではあるが、普通の人としての、恋愛なんかも含めた人生の楽しみもあって良いのではないかと時々思う。
話がわき道に逸れてしまったが、そういうわしとはまさに真逆とも言えるサトシさんが、未だ独り身であるというのには、きっとなんらかのワケがある事だろう。
いずれにしたところで、サトシさんがメグさん家をしっかり守ってくれているおかげで、わしは姪どものお守りから有る程度解放されるのだから、むしろ手を合わせておがむべきだ。
そして、この後さらに妙な成り行きがあり、現時点からでは想像もつかないような面倒で面白い出来事が待っているのを、わしを含め、ほとんどの人が知らないのであった。
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彼は若くしてその会社の執行役員に就任し、次期社長候補の呼び声も高い人物だ。
数少ないこの地域の若手からは、是非にも次回の市議会議員選挙に立候補をと熱烈なラブコールを受けている。
わしらがこの家に引っ越したとき、近所の挨拶回りはわしではなく沙織にしてもらった。
というのも、その日わしはどうしても仕事を休む事ができず、沙織か恵美子のどちらかに回ってもらう以外なかったのだ。
先の理由であまり外出をしたくないのはわかるが、これだけはどうしてもやっておかねば義理を欠いてしまうということで、沙織がしぶしぶながら引き受けてくれた。
で、その時たまたまメグさんは留守で、サトシさんが留守番をしていたらしい。
沙織いわく、わしくらいの身長で、わしよりもはるかにスマートで、わしより足が長くて、おまけにオサレ眼鏡の良く似合うイケメンだったという事だ。
さらに、受け答えもとても丁寧で、物腰も柔らかくてとてもいい人だったらしい。
この話を聞いて、恵美子は自分が行かなかった事をひどく悔しがっていたが、わしは一つ不思議に思った。
少なくとも地域では若手の名士であり、かつ視力以外は悪いところの無さそうなイケメンが、どうして姉の家族と同居しているかという事だった。
そんな人なら、わざわざ姉一家といっしょに居なくても、いっしょに居たいという女性はいくらでもいるだろう。
おまけに、メグさんの話によると、家事全般もそつなくこなすことができるのだそうだ。
聞けば聞くほど妙な話である。
仕事ができて人望も厚く、性格も良くて顔もスタイルも良くて、おまけに家事までこなせる。
わしからすれば完全無欠である。
そんな人が、三十代も終盤にさしかかっているにもかかわらず、未だに独身で姉一家の、いわば居候のように過ごしているのはなぜなんだろうか?
考えれば考えるほど妙な話だが、わしとて未だ独身の三十代なのだから、人の事を言えた義理ではない。
が、わしにはとりあえず結婚しにくい理由というものが少なからずあるではないか。
すなわち、未婚であるにもかかわらず、既にコブが2つもついている事である。
それにわしは、お世辞にも外見が良い方とは言えない人間だ。
まだ三十代前半にして、ほぼ完全なメタボリック体形で、しかも前髪は既に後退し初めている。
背は高いと自分でも思うが、残念ながら足は短い。おまけにクサい。
着るものや持ち物にはそれなりにこだわりを持ってはいるが、だからといって別段おしゃれであるわけでもない。
このように、外見的には取り立てて良いと思える要素が全く無い人間である(つД`)
自分で言っていて涙が出てきそうだが、収入に関してもわしは同世代の他の男性諸君に遅れを取っているのは確実だ。
そんな貧乏でさして見栄えの良くない、年老いた両親と生活能力が著しくとぼしい姪をかかえた長男のわしが、結婚というものに二の足を踏むのもなんとなくお察しいただきたい。
そう言えば、もう恋愛なんてものは思い出しても8年もご無沙汰だし、性交渉についても2年もの間全く無い。
趣味人として趣味を楽しむのも良いことではあるが、普通の人としての、恋愛なんかも含めた人生の楽しみもあって良いのではないかと時々思う。
話がわき道に逸れてしまったが、そういうわしとはまさに真逆とも言えるサトシさんが、未だ独り身であるというのには、きっとなんらかのワケがある事だろう。
いずれにしたところで、サトシさんがメグさん家をしっかり守ってくれているおかげで、わしは姪どものお守りから有る程度解放されるのだから、むしろ手を合わせておがむべきだ。
そして、この後さらに妙な成り行きがあり、現時点からでは想像もつかないような面倒で面白い出来事が待っているのを、わしを含め、ほとんどの人が知らないのであった。
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