メグさんは、フルネームは大野(旧姓:本条)めぐみといい、わしの姉つまり沙織と恵美子の母親の小中高通しての後輩である。
学生時代からとても仲の良い先輩後輩で、お互い違う道を進んで以降も親交が深く、これまでにわし自身も何くれともなくお世話になる事がしばしばあった。
今回わしの悲惨な(はた目からは笑える)状況を予見していた姉が、ひそかに隣家に住むメグさんに言伝していてくれたらしいのだ。助かった!
メグさんの容姿は、一体どういう風に表現すれば良かろう。とにかく若い。
姉を引きあいに出してみると、高校時代の卒業アルバムの写真と現在の姉の姿を見比べると

『昔日の夢。今は幻。』

という形容ができるほど、かつての可愛らしい娘から典型的な田舎のオバンへと言うくらい、激しく変わり果てた姿になってしまった。
それと比して、メグさんで同じことをすると、その結果は全く違ってくる。
驚くべきことに、メグさんの卒業アルバムの写真は、どう控えめに見ても『3年前?』としか見えないのだ。
これは世辞でもなんでもない。だいたい、本人のいない所で世辞など使う意味などありはしない。
短く切りそろえられたボブカットは顔の小さな彼女に良く似合っている。
その黒髪は夜闇にも負けぬ程黒く艶やかだ。
あまりに黒々としているので、以前わしが

「きっとメグさんの前世はカラスだったに違いない。」

と言うと、本気で怒られたことがある。
程よく丸みを帯びた、それでいてスレンダーな体や、細長い手足はちょっとしたモデルと言っても疑う者はほとんどいないであろう。
良く動く大きな瞳や、美しい鼻筋や口元からは理知的な雰囲気が醸されている。
一体誰がこの人を見て、四十代半ばのオバハンだと思うだろうか?
とても二人の子持ちの人には見えないのだ。
わしが知らずに街で見かけたら、十中八九ナンパするに決まっている。
いつだったかそんな話をご本人にしたら

「ええ~?ありがと~。でも、出て欲しくないトコけっこう出てるから、脱ぐと色々すごいのよ。」

と言っていた。
残念ながら脱いだ姿を見た事はないのでそこまではわからんが、少なくとも普段のメグさんの様子というのはそういったカンジだ。
そりゃもちろんわしも健全な男子だし、打ち明けたところ、かつて密かに思いを寄せていた初恋の人なのだから、見た事はないが色々想像した事はあるが。
それはともかく、このメグさんがわしの留守中に、手が空いている時は姪どもの面倒を見てくれるという。大変にありがたいことだ。
大変にありがたいが、それでメグさん家は大丈夫なのだろうか?
いくら親しい先輩の頼みとはいえ、メグさんにも家庭というものがある。
旦那さんは貿易関係の仕事でしょっちゅう留守にしているらしいが、あそこには確か中学生になる娘さんが二人もいるはずだ。
多感な時期の娘の世話もしながら、うちのどうしようもない姪どもの世話をしてもらったのでは、いくらなんでも心苦しい。
その辺の話をするとメグさんは

「ウチは弟がいるから大丈夫だよ。」

と言っていた。
そう言えば、メグさんの旦那さんとメグさんの弟さんは昔から仲が良くて、今の家に住むようになってからは同居しているのだった。
なんでも、彼もまたメグさんの娘さんたちに良くなつかれているらしい。
という事は、状況に若干の違いがあるとはいえ、姪の面倒を見るという役を押し付けられるという点ではわしと同じ境遇である。
なにやら親近感が沸いてきた(笑)

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