聞こえないし動かない | 日々是非可換   -非可換な私の雑記ー

日々是非可換   -非可換な私の雑記ー

今日あったこと、昔の出来事、未来への思い、考えたこと、考えなかったこと、手慰み、記録、思いつき、思い出。非可換な私が送る非可換な日々を書き記します。公開しているけれど公開が目的ではありません。後悔はします、多分。

ずっと前にどこかに書きかけのまま放置していた話を、どこに放置したままなのか分からなくなって、古いメモ帳を探し出しました。それはどんな物語かというと、すでにクライマックスに向かっているのです。



タイトル未定(1)


その瞬間、わなに落ちたことがあたしにも分かった。あの悪いやつがとつぜん現れて、みんなの目の前で笑って立っている。じわじわと心を占める恐怖。どぶエルフのならいで、とっさに後ろを向いて頭を抱えてしゃがみこんだ。


そして同時に分かった。いまこそじじが言ったその時だということが、あたしの鈍いあたまでも分かってしまった。


でもでも。強くてやさしかった黒まほう使いさえさっき死んでしまった。チビでみにくい、愚かであわれなどぶエルフになにができる?頭をかかえて死を待つ以外、なにが?


黒まほう使いのやさしい声をおもいだす。「ぼくはなんとしても目的を果たしたい。もし君ができるなら、困ったときは助けてほしい」どぶエルフにお願いするひとなんか他にいない。やさしい声。


もっと前には「こわがらなくてもだいじょうぶ。予言なんて関係ないよ。いざそのとき、そうなったら、君が君自身で決めるんだ」とていねいに何度も教えてくれた。あのひとはさっき死んでいなくなった。


そのときまるめた背中にあたたかい手が触って、こころがほどけて体がほぐれた。顔をあげると、じじが目のまえでほほえんでこっちを見ていた。あたしと二人っきりのときにしかみせない、やさしい笑顔だ。


まわりのみんなは呆けたように前をむいてただ立っている。大きな剣のおとこの人も白まほう使いのおんなの人も。あの悪いやつだけが笑いながら大きな声でなにかしゃべりまくっていた。いまあたしを見ているのはじじだけだ。もう一度じじをみると、すこしだけ悲しそうな笑顔でかすかにうなずいた。


だからあたしは決めた。ぐずで泣いてばかりのダメなどぶエルフはここに置いていこう。大切なものを失ったどぶエルフは、これ以上失う前に、たとえ死にむかうことになっても自分の意思でできることをするんだ。あたしは決めた。


しゃがんだままで物入れの宝物をさぐった。三個のだいじな指輪。はじめは銀色、左手のくすり指に。魔法を乱してきぶんが悪くなるけど、あたまのわるいあたしがすこし思考力をとりもどす、らしい。


効果はすぐにあらわれた。胸がむかむかしてきたが、いろんなことを考えられる。背中に触れているじじの温かい手が心強い。


いまこそじじに教えてもらった念話を使うときだ。騎士と白魔法使いに話しかけた。


〈敵に気付かれないように、そのまま聞いて。この場は私に任せてください〉頭の中にすらすらと言葉が出てきて自分でも驚いた。


                  《続く》


タイトル未定(2)


〈なに?〉〈誰?〉驚きと混乱の感情とともに剣士と白魔法使いから思念が伝わってきた。〈なぜ〉〈どういうこと?〉と続いたので遮って伝えた。


〈今がわたしの運命の、あの『予言』のときなのだと思います〉


こちらが伝えたとたん、剣士と白魔法使いの疑念が思念の形になる前に伝わってきた。どぶエルフが念話を操り、状況に口を出すとは信じられないようだ。


〈じじいとダークが言ってた例の下らない『予言』か〉〈あなたを信じないわけではないけど、あなたが状況をマシに出来るとは思えない〉


〈二人とも何か出来るの? 私が何をしても、いま以上に状況が悪くなるはずがないでしょう〉


二人ともいつも私に親切で丁寧だった。でも念話を習得した日からわたしには分かっていた。心の奥底では他の人たちと同様に、わたしを意味の無い小さな虫けらかなにかと大差ない思っていることを。でもじじと黒魔法使いだけは本気で、わたしをちゃんとした存在として扱ってくれた。


黒魔法使いは死んでしまった。先ほどの激しい戦闘で遺体さえ残っていない。でも彼の意思は続いている。わたしが少しでも未来に続ける。出来ることをする。しびれる指先で金色の指輪を左手の中指にそっと差し込んだ。


途端に手足の痺れはいっそうひどくなり身体中の痛みは増したが、思考はさらに明確になり多くのことが理解できるようになった。この指輪は、魔法のアンビエンスの乱れをついて私の奥(?)から私自身の魔法(?)を引き出して後で使うために貯めている。どぶエルフに魔法の力があるはずないのに?そもそもどぶエルフに魔法が使えるはずがないのに? だがあるのだ。


〈私が前へ出て彼の注意をひき、隙を見て『死』をばら撒きます。彼の注意が外れたらパーティのみなさんは全力で後退して防御してください〉


急速に身体に力が入らなくなってきている。痺れと痛みで感覚のあやしい左手で最後の指輪を大事に握った。剣士と白魔導師からの〈不賛成〉を無視して立ち上がって向きを変え、最後にもう一度、振り返ってじじのほうを見た。


じじは膝をつけて同じ高さでまっすぐに私を見つめ、驚いたことにそっと額にキスをした。どぶエルフにキスした!


キスは柔らかく暖かく、このまま死に向かうには少し惜しい気がした。その代わり怖れや恐怖は薄れ、自信と前に進む勇気がでた。私は(どぶエルフにしては)素早く上手にじじの頬にキスを返し、そのまま前を向いた。


心が晴れた。いま私の中に怖れはない。



タイトル未定(3)


身体中の痛みと不快感でうまく動けないが、未だ呆けている仲間のあいだを抜け一歩ずつ前へ進む。それにしても私の手足はどうしてこんなに短いのだろう。もどかしさと心の底に蠢く得体の知れない不満に脚がもつれる。


だが私の精神は澄み切っている。あの迷宮の奥で、みんなを助けるために犠牲になった僧侶も同じ気持ちだったのだろうか。あのとき最後に振り返った僧侶の笑顔は、静かに輝いていた。黒魔導士ダークも同じだったろうか。


ようやく剣士の前に出たが、例の男は気にせずにしゃべり続けている。うしろで仲間が身じろぎする気配。なおも歩を進めて、剣士とあの男のあいだで止まる。


あの男はようやく口を閉じ、初めての何かを見たような目をこちらをこちらに向けた。何しにきたと言わんばかりの苛立ちが伝わる。


目はかすみ、耳鳴りがひどい。必要以上に注意を惹かないように覚束ない手をゆっくり動かして、妖しく赤く輝く最後の指輪を右手の中指にはめる。


途端に全身から力が抜ける。この指輪は命を吸い出すのだ、そう分かった。力尽きる前に言わなければならないが、黒魔導師に教えて貰った言葉の全ては言えそうにない。だが指輪の所有者として、ただ一言で足りることが分かったので、なんとか口にした。自分では絶叫したつもりだが、実際にはそれはほんのかすかな声だった。


「召喚(サモン)」


突然中空に現れたのは銀の巨竜。自らを〈契約者〉と名乗る白銀の
ドラゴン。空間中に声ならぬ声が響き渡る。


〈命を削って私を呼び、覚悟を持って死を望むのはおまえか〉


ドラゴンに話しかけられたどぶエルフは多分私が史上初めてだ。だけど馴染みがある気がする。なにかを理解しているような、不思議な感覚に包まれる。肯定の意思をなんとか形にした。


〈その指輪が最後の一つだ〉
〈勇気と覚悟に対し、契約に従いおまえに死をもたらす〉


大きく一呼吸したあと、その竜はブレスをそこら中に吐き散らした。〈契約者〉のブレスはその場の魔法ごと命を吹き払う、文字通り死のブレスだ。よく見えない目に世界が輝いて見えた。


その瞬間右手の指輪は砕け散り、左手の薬指の指輪も熔け去った。私の肉体も燃え尽きた。


こうして哀れでちっぽけな一匹のどぶエルフはこの世から消えた。


                  《続く》



タイトル未定(4)

[剣士]


↑こういうストーリーが恥多き私の厨二ノートに書かれていたのを、もう少し字数を増やしてどこかに書き留めていたと思うのですが、どこに書いたのか忘れたものは仕方ありません。


最後の部分は次に剣士の主観で物語が始まるということでした。ただ、先日急に思い浮かんできた絵があるのです。それは金髪の美女がベッドに横たわっていて、どこかからその美女に語り掛ける声があるという状況です。美女は身動きもしないし声は私には聞こえないしで、続きが文字に出来ません(-.-)


どうやらどぶエルフが本来の姿に戻って金髪の女性になり、語りかける謎の声はじじと呼ばれた老人で、彼女はここで戦線離脱ということになるようです。乱された理をまた一つ正すことで本来の力に近づいたじじと呼ばれる存在の果てしない迷惑物語は、まだまだ全体像を見せそうにありません。


…こういう厨二な物語を心の中でもてあそんでいる私ですが、いくら書いてもここは匿名ブログですから恥ずかしくありません。たとえて言うならパンツを穿かずに短パンでコンビニに行ったというほどの、あるかなきかの微妙なドキドキ感がたまらないと思うのです。わらい。