H30予備試験 民訴 解説
お詫びと訂正
某巨大掲示板で設問1についてご指摘を受け、内容を訂正しました。
簡単に言うと、41類推としていたところを41適用に訂正しました。
それに伴って、要件事実の話を結構追加しました。
追加部分は赤字にしてあります。
要件事実軽視、理論・学説偏重という悪癖が出てしまいました・・・。
すいません。
設問1
元ネタは言うまでもなく、百選105事件(4版)。和田先生が解説を書いてる事件(通称カラオケボックス事件)ですね。超重要判例です。本試験でも複数回出題されてます。元ネタの方では、訴訟告知をしたが参加してこなかったので、後訴で53Ⅳに基づく参加的効力の主張をしたが、判例はそれを容れなかったという事件でした。つまり被告は1人なわけです。本問では、同一の訴状で両名を被告に訴えを提起する方法が問われています。被告は2人なんですね。これがスタート地点です。次に、被告を後から増やす局面ではないことに注意が必要です。主観的追加的併合がよく聞かれるから、困ったらこれを書いとけばいいや的な発想の人が相当数いるように思いますが、積極ミスになっちゃいます。
では、何を書けばいいか。複数の者を被告に訴えを提起するわけですから、共同訴訟の話です。まずは38条。少なくとも後段の要件は充たすでしょう。後段の典型例はアパートの大家さんが、101号室のAさんと102号室のBさんを共同被告にして、両名に対して未払賃料の支払いを求めるような場合です。この程度の関連性でいいんです。本件では文句なしに認められます。
しかし、38条では、裁判所の裁量で分離ができてしまう(152Ⅰ)。分離されてしまえば、統一的心証に基づく判決は得られなくなります。場合によっては両負けもあるでしょう。言うまでもなく、本件の特殊性は買主がYなのかZなのかよくわからんという点です。いずれにせよ、売買はあった。契約は1つ。だから買主も1人。それがどっちかわからない。しかし、正しい買主を相手に訴えを起こせばXの請求は認められるはず。それができない(両負け)のは感じ悪い。そんなときに使うのが41条訴訟。しかし、「法律上並存し得ない関係」という条文上の縛りがあります。買主がどっちかわかんないというのは、事実上の非両立の典型例です。そのままでは41条は使えない。実は元ネタであるカラオケボックス事件では、請負業者に対する請求を無権代理人の責任にすることで41条訴訟を使うことができた(はず)と指摘されています。しかし、本問ではそれはできない。事実上の非両立にも41条を類推適用すべきだという立論になるでしょう。学説上は有力な議論なので、肯定してよいと思います。「法律上並存し得ない」とは要件事実的に両請求が並存し得ない場合をいいますが、これに該当するかどうか要件事実的な分析をしてみましょう。Yへの請求では、顕名がないことを前提に民法100条本文を根拠に契約上の請求をしているのでしょう。これに対してYの主張(売買契約成立の否認の理由)は、諸々の事情を挙げて、「Yが買主だと思った」Xに過失があるというものでしょう(同条ただし書)。過失は有るか無いかの2択です。過失があればZへの請求が認容、Yへの請求は棄却となります。過失がない場合は逆になります。要件事実の構造上、どっちか一方しか認められないわけです。以上から41条の要件は充足します。なお、契約書を作成したという事情がない(普通は作成すると思いますけどね)以上、Yが主張する事情から顕名があったと評価することも不可能ではないと思います。このルートで行く場合も結論は変わりません。「過失」を「顕名」に変えればいいだけです。純粋な主張分析としては過失ルートの方が安全でしょうが、事実の評価まで問われているのだとすれば顕名ルートの方がいい気がします。私は前者だと判断したわけですが、これは単なる直感です。
これの亜種みたいな立論として、主観的予備的併合を肯定することも一考に値します。高橋先生などは肯定説ですね。狙いは必要的共同訴訟の規律を準用することです。41条では通常共同訴訟という性質上、一定の限界があるので、それとは別枠で主観的予備的併合を肯定すべきという立場です。論証の仕方としては、独当で片面参加を認めた現行法の発想は、「請求の非両立→相互にけん制する必要性→40条準用」というもので、それを援用すればよいというものです。41条類推よりは少数説です。40条ルールを適用する弊害(やる気をなくした者まで上訴人の地位につかなくてはいけない等。判例が上訴人から外れることを認めるのは、株主代表訴訟と住民訴訟に限られるという理解が一般的です)もあるので、41条類推を肯定し、こっちを否定するのが穏当でしょうか。
「考え得る手段」として、他にも民法上の組合が受けた判決に会社法581条を類推して構成員に反射効を及ぼすという新堂説を更に類推することも一応考えられます。判決効(既判力に限らない)の拡張があれば類似必要的共同訴訟になるので、一応手段としてありうるわけです。類推の基礎となるのは民法上の組合や持分会社との実質的類似性、すなわち人的関係が密であることです。このような条件を充たせば株式会社でも同じように反射効を肯定できます。もっとも、本問ではそのような事情が一切書かれていないので、これを書いても「為にする議論」みたいになってしまうかなという感じがします。
設問2
これは、カラオケボックス事件の判旨の再現を求める問題ですね。それだけです。つまらない問題です。各自百選を読んでいただければいいのですが、それだけだとあまりに不親切なのでおおまかな流れだけ書いておきます。
結論。「判決の効力」を用いることはできない。
理由。本問で問題となる「判決の効力」は参加的効力であるところ、参加的効力は理由中の判断にも生ずる(むしろそれがメインである)。しかし、参加的効力が生じるのは理由中の判断全てではなく、主文の結論を導くのに不可欠な部分(いわゆるレイシオ・デシデンダイ)に限られ、傍論部分に参加的効力は生じない。そして、両者の区別は要件事実的な整理によって行われる。買主はZであるという判断は傍論である。すなわち、買主はZという事実ないし判断は、XY間での売買契約成立という主要事実の「裏」であるから、間接事実である。主要事実ではないので傍論である。上記議論は53Ⅳによる参加的効力を議論する場合にも妥当する。
設問3
この問題では「事情」が問われています。事情を適示すればいいわけですね。さて、設問3ですが、これは設問1の裏面みたいな問題です。設問1では分離裁量を否定する方向で立論をしたわけですが、設問3では裁量を一応は肯定した上で、それでも本件で分離をするのは裁量権の逸脱濫用ですよと立論させるわけです。ここまで言えばお分かりだと思いますが、使う事情は同じです。それを設問1では裁量権否定のために使い、設問3では裁量権の逸脱濫用のために使うというだけです。この関係さえ読み取れれば、後は「作業」です。設問1で書いたことをもう1度書くだけでいい(笑)。逆に、この関係に気付けないと設問3は解けません。分離裁量を否定する典型的なロジックが使える場面ではないからです。
事実上の非両立事案であり、両負けは実体法的に妥当でないこと。弁論を分離してしまうと、統一的判断の保障がなくなり両負けのおそれが出てくること。このあたりの話を簡単に書けばいいです。出題者とすれば、上記関係を読み取れているかだけチェックできれば十分ですから、どれだけ丁寧に事情を適示したかなんてのは興味ないはずです。70分、4枚という縛りがある中で、設問1がけっこうボリューミーですから、設問3はこの程度にとどめるべきです。配点割合からもそれを察しないとダメです。
まとめ
設問1はボリューミー。見たことのない問い方で面食らった人も多いはず。主観的予備的併合なんて過去の議論だと決めつけて勉強していない人も多いでしょう。そういう意味で難問です。2ページ位かけて論じるべき。
設問2は誰もが知ってる重要頻出判例の判旨を再現するだけの問題。トラップも仕掛けられていないので、判旨の意味が本当はわかっていなくても、判旨を字面だけ再現できれば模範答案になる。ちなみに、カラオケボックス事件の判旨は非常に難解です。最高裁が舌足らずなのもあるが。なので、設問2ができたからと言って、カラオケボックス事件がわかったと思い込んでしまうのは危険です。
設問3は「気付き」の有無で全てが決まります。気付かなければ0点です。設問1は知識(だけ)で対処できましたが、設問3は更に1ステップ自分で飛ばないといけません。気付く人にはサービス問題ですが、気付かない人には1番厳しい問題だったでしょう。もっとも配点割合1なので、既に勝負はついている感じもします。
設問1で41条類推と主観的予備的併合のどちらも書けなかった人、設問2が書けなかった人、実力不足です。後は気にしなくていいです。